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17件
「数学ガール」シリーズ
著者 結城浩
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『プログラマの数学』の結城浩が贈る、魅惑の数学物語。美少女ミルカさん、元気少女テトラちゃん、それに僕。三人の高校生が数学にチャレンジ。数学を楽しみ、学ぶことについて考え、異性へほのかな思いに心を動かす……。オイラー生誕300年記念出版。
2002年から結城浩のWebで公開されてきた「数学ガール」。読者からの熱いエールが本書の企画を動かしました。本書は、三人の高校生が数学の問題に挑戦する物語。題材は「素数」「絶対値」という基本的なものから「フィボナッチ数列」「二項定理」、「無限級数」や「テイラー展開」、「母関数」まで多岐にわたっています。
読み物形式でありながら、取り扱う数学的内容は本格的。数学クイズが好きな一般の方から、理系の大学生、社会人まで幅広い読者に楽しんでもらえる数学物語です。数式が苦手でも大丈夫。登場する高校生自身も数式で悩み、ああでもない、こうでもないと読者と思いを共有します。数式が追えなくても「旅の地図」と称した概念図で読者さんの理解を助けます。
《数学は、時を越える》をテーマにおいた本書は、本格的な数学の奥深いおもしろみをすべての読者に提供するでしょう。
◆登場人物紹介
「僕」
高校二年生、語り手。
数学、特に数式が好き。
テトラちゃん
高校一年生、いつも張り切っている《元気少女》。
ショートカットで、大きな目がチャームポイント。
ミルカさん
高校二年生、数学が得意な《饒舌才媛》。
長い黒髪にメタルフレームの眼鏡。
瑞谷女史
「僕」の高校に勤務する司書の先生。
数学ガール/ポアンカレ予想
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数学ガール ポアンカレ予想
2019/02/24 22:05
数学の深さと広がりがわかる本
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:類太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
数学の難問を説明するには, それなりにいくつもの分野から必要となる概念や定理を取り出して説明するだけではなく, それらを読者または聞き手が道具として認識できる程に理解しなければならない. そして著者または発表者は, 予備知識を殆んど仮定できない状況において, 非常に多くあるそれらを理解されるように説明しなければならない.
本書の主題がポアンカレ予想に関する解説であると考える人もいるが,「数学ガール」というシリーズの意図と著者の意向では, 数学徒内外の多くの人にポアンカレ予想について少しでも知ってもらうように著された物語風の解説書, と考えるのが正確だろう.
私も, ナビエ-ストークス方程式のミレニアム問題(流体力学の基礎となる偏微分方程式の適切な解の一意存在問題とその解の可微分性)について多変数関数の微分積分から始めて代数系や位相および測度とルベーグ積分などを必要に応じて説明し, ミレニアム問題の意味と進展まで説明しようと執筆のメモまで用意してあるが, やはり本書のように, いきなり本題に入れるのは限られた場面だけで, 最終目標に達するまでかなりの準備を要する.
「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と同相である」という主張を数学ガールのシリーズで説明できたこと自体が高く評価されるべきなのだ. 単連結という語は「穴がない」ことであるが, 厳密に表現するには, 基本群の他でも, ホモロジーやコホモロジーあるいはコーシーの積分定理の位相幾何的考察など, 進んだ数学が必要である. 物語として不自然にならないようにしつつ閉多様体の概念を述べるのも, 数学の専門書に慣れているとは限らない読者層にも配慮するとなれば, 本書にあるような説明はかなり自然な物だと思われる. 熱伝導方程式とその解の平滑化の説明がポアンカレ予想におけるリッチフロー方程式の性質の理解に役立つのは, 本書をていねいに読めばわかるはずである.
本書は図説がとても多く, しかも見やすい上に, 文も読みやすいだけではなく, 幾何学と代数学そして解析学が融合して, さらに物理学まで関係していく様子を, 臨場感を味わいながら楽しく学べる. また, 始めあたりのグラフ理論の話も, 当然内容の理解に必須ながら, 私はここを読んで「離散数学で使われる位相が離散位相なのか…だから冪集合が定める位相を離散位相というのか」と位相を学んで8年来の疑問が晴れた. また位相の導入では自分が普段数学を教えている時と同じことが書かれていた. やはり世の中には自分と同じことを考える人がいるのだなと感じた. 位相の説明は, 位相を実際に教える上でも役に立った.
また非ユークリッド幾何学についても入り口をかなりていねいに解説しており, 多様体の計量の概念を深く理解することができた. 詳細は省くが, 或る種の複素多様体では計量が存在するか自明ではなく, その計量を未知関数とする非線型偏微分方程式の解の一意存在問題によって解かれる. このことを, より本質から理解したいので, 非ユークリッド幾何学の説明が最も思い出に残っている.
終わりにデルタ関数という超関数が現れるのも, 超関数愛好者としてはうれしかった.
幾何学のおもしろさだけではなく, 代数学と解析学と物理学のおもしろさまで楽しめつつわかる本である. 収穫は位相幾何の入門事項だけではない. ぜひゆっくりていねいに読んでみていただきたい.
私は, ポアンカレ予想を知って, また知り合いから「位相幾何でも微分形式の積分でルベーグ積分を使う」と聞いて, 位相幾何に興味を持った. その理解の第一歩となった本である.
2019/02/24 21:54
数学の深さと広がりがわかる本
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:類太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
数学の難問を説明するには, それなりにいくつもの分野から必要となる概念や定理を取り出して説明するだけではなく, それらを読者または聞き手が道具として認識できる程に理解しなければならない. そして著者または発表者は, 予備知識を殆んど仮定できない状況において, 非常に多くあるそれらを理解されるように説明しなければならない.
本書の主題がポアンカレ予想に関する解説であると考える人もいるが,「数学ガール」というシリーズの意図と著者の意向では, 数学徒内外の多くの人にポアンカレ予想について少しでも知ってもらうように著された物語風の解説書, と考えるのが正確だろう.
私も, ナビエ-ストークス方程式のミレニアム問題(流体力学の基礎となる偏微分方程式の適切な解の一意存在問題とその解の可微分性)について多変数関数の微分積分から始めて代数系や位相および測度とルベーグ積分などを必要に応じて説明し, ミレニアム問題の意味と進展まで説明しようと執筆のメモまで用意してあるが, やはり本書のように, いきなり本題に入れるのは限られた場面だけで, 最終目標に達するまでかなりの準備を要する.
「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と同相である」という主張を数学ガールのシリーズで説明できたこと自体が高く評価されるべきなのだ. 単連結という語は「穴がない」ことであるが, 厳密に表現するには, 基本群の他でも, ホモロジーやコホモロジーあるいはコーシーの積分定理の位相幾何的考察など, 進んだ数学が必要である. 物語として不自然にならないようにしつつ閉多様体の概念を述べるのも, 数学の専門書に慣れているとは限らない読者層にも配慮するとなれば, 本書にあるような説明はかなり自然な物だと思われる. 熱伝導方程式とその解の平滑化の説明がポアンカレ予想におけるリッチフロー方程式の性質の理解に役立つのは, 本書をていねいに読めばわかるはずである.
本書は図説がとても多く, しかも見やすい上に, 文も読みやすいだけではなく, 幾何学と代数学そして解析学が融合して, さらに物理学まで関係していく様子を, 臨場感を味わいながら楽しく学べる. また, 始めあたりのグラフ理論の話も, 当然内容の理解に必須ながら, 私はここを読んで「離散数学で使われる位相が離散位相なのか…だから冪集合が定める位相を離散位相というのか」と位相を学んで8年来の疑問が晴れた. また位相の導入では自分が普段数学を教えている時と同じことが書かれていた. やはり世の中には自分と同じことを考える人がいるのだなと感じた. 位相の説明は, 位相を実際に教える上でも役に立った.
また非ユークリッド幾何学についても入り口をかなりていねいに解説しており, 多様体の計量の概念を深く理解することができた. 詳細は省くが, 或る種の複素多様体では計量が存在するか自明ではなく, その計量を未知関数とする非線型偏微分方程式の解の一意存在問題によって解かれる. このことを, より本質から理解したいので, 非ユークリッド幾何学の説明が最も思い出に残っている.
終わりにデルタ関数という超関数が現れるのも, 超関数愛好者としてはうれしかった.
幾何学のおもしろさだけではなく, 代数学と解析学と物理学のおもしろさまで楽しめつつわかる本である. 収穫は位相幾何の入門事項だけではない. ぜひゆっくりていねいに読んでみていただきたい.
私は, ポアンカレ予想を知って, また知り合いから「位相幾何でも微分形式の積分でルベーグ積分を使う」と聞いて, 位相幾何に興味を持った. その理解の第一歩となった本である.
数学ガール ガロア理論
2019/02/24 21:59
代数学のおもしろみを知りたい方におすすめ
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:類太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
数学ガールというシリーズにはポアンカレ予想編が出てから興味を持った.
まずシリーズに共通して言えることは, 初学者の誰もが考えそうな理論それ自体についての動機や意義に関する疑問およびそれらに対する答えを明確にしていること, 初学者が陥りそうな誤りに関することをわざと台詞に入れていること, 主人公とその後輩の純愛物語としても楽しめるということである.
代数学について知りたいのなら, その方面の入門書を読むことをおすすめする. 本書では, 入門書や専門書では省略されがちな細かい説明がある分, 群や線型空間の具体例は少ない. 任意の線型空間Vにおいて定数倍の演算を忘却するとVは群になる. また任意の体Kにおいて積を忘却するとKは和について群となり, またKにおいて0でない要素全体の集合は積について群となる. 本書では線型空間を, アーベル群であり和と定数倍の演算に関して閉じていて結合法則や分配法則を満たす集合として(つまり線型空間の公理系で)定義しているが, その定義が書かれた198ページ目より前にアーベル群という言葉が出るのは96ページ目から99ページ目であり, 198ページ目まで群の例は実際にあみだくじの成す群しかないのである. そこは群をはじめて学ぶ人にはきついであろう. また背理法も既知としている. この辺りは「数学ガール フェルマーの最終定理」を読んでいることを前提としているのかもしれない.
とはいえ, 群論を学ぶ意義がわかり代数学のおもしろみを味わえる上にガロア理論に最短経路で挑める名作である. 数学ガールを気に入った人や代数学のおもしろみを知りたい人におすすめしたい.
なお, 現在では登場人物のように数学が得意な中高生はいくらでもいる. このことは長くTwitterをやっているのでわかる. 数学が得意な中高生が多くなったのは本シリーズがきっかけでもある. 決して不自然なことではない.