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ナイフの行方
著者 著者:山田 太一
2014年12月に放送されたNHKドラマ「ナイフの行方」を書籍化。山田太一の最新書き下ろしドラマ(前後編計146分)で、制作統括は「男たちの旅路」(1976年~放送)の近藤晋プロデューサー。
ナイフで無差別殺人を犯そうとした若者(今井翼)を、剛腕の老人(松本幸四郎)が取り押さえて自宅に連れ帰る(前編)。後編で意外かつ衝撃的な展開が待っている本作は、放送当日から山田太一ファンが騒然とした「異色作にして傑作」。「人間は変わらない」「みんなが人間を信じすぎている」というセリフには作者の心情があらわれ、現代社会へのメッセージに富む骨太の物語です。
本書は、ドラマ前後編のシナリオを完全収録するほか、山田太一本人による1万字解説「正義がどこにあるのか、分からない時代に」、そして近藤晋プロデューサーによる5000字解説「回想シーンがまったくない“傑作”」を収録。1960~70年代から良質なテレビドラマを探求し続けてきた2人の巨匠の言葉は、本作の解説を超え「ドラマとは何か」「人は何に救われるのか」を示唆するテキストとなっています。
山田太一のドラマシナリオ集としては18年ぶりの刊行。81歳を迎え、ますます鋭く世を人を見つめる山田太一の視線を、シナリオとロング解説でたっぷり味わえます。
<NHK特集ドラマ「ナイフの行方」放送概要>
放送:2014年12月22日(月)22.00、23日(火)22.00
※NHKオンデマンドで2015年11月30日まで配信
作:山田太一 演出:吉村芳之
出演:松本幸四郎、今井翼、相武紗季、石橋凌、松坂慶子、津川雅彦 ほか
ナイフの行方
本日まで通常1,222円
税込 611 円 5ptワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
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ナイフの行方
2015/08/27 07:20
山田太一の、ひとつの答え
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは2014年12月に、2夜連続でNHK総合テレビで放映されたテレビドラマのシナリオ。
いま、このようにシナリオだけ一冊の本になる作家はほとんどいないのではないかしら。山田太一はそういう点でも、稀有なシナリオライターといえる。
主となるシナリオのほかに、このドラマのプロデユーサーだった近藤晋による「回想シーンがまったくない“傑作”」と山田太一へのロングインタビュー「正義がどこにあるのか、分からない時代に」が収められている。
ドラマは、かつて青年海外協力隊の経験がある拓自という老人が自暴自棄になって自分にナイフを突きつけてきた青年次男と生活をともにすることで自身が経験した惨たらしい内乱の様と向き合い、生きることの意味、正義のありようをみつめる物語である。
近藤はこの作品のすばらしい点は「回想シーンがまったくない」ことだと書いているが、セリフだけで拓自という老人が経験したことを再現しているのだから、確かに最近のドラマでは珍しいかもしれない。
その分、そのシーンでの拓自のセリフは長くなっている。ドラマではこの役を松本幸四郎が演じたらしいが、これだけのセリフをしゃべれる役者も少なくなっているともいえる。
近藤の山田作品への評で「いつも凛として、人間を追っている」と表現している。
このドラマでいえば、拓自という主人公がまさにそうだ。青年次男に何かを教えるでもなく、かつて自身が見た何かに憑りつかれて命を捨てていった若者と次男を重ね、静かに次男を変化させていく。
いまどきそんな人間がいるのかわからないが、きっと山田太一の中では、変わることのない人間像なのだと思う。
また近藤はこうも書いている。
「大事なのは、「自分が存在するこの時代」に「どう生きるか」」、それを山田太一は一貫して描いてきたのだと。
それは、山田太一へのロングインタビューのタイトルと呼応しあう。
まさに私たちは「正義がどこにあるのか、分からない時代に」、ナイフと向かいあっているのかもしれない。
そして、この作品は山田太一の、ひとつの答えでもある。