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2件
紫色のクオリア
著者 著者:うえお 久光 , イラスト:綱島 志朗
自分以外の人間が“ロボット”に見えるという紫色の瞳を持った中学生・毬井ゆかり。 クラスでは天然系(?)少女としてマスコット的扱いを受けるゆかりだが、しかし彼女の周囲では、確かに奇妙な出来事が起こっている……ような? イラストは『JINKI』シリーズの綱島志朗が担当。「電撃文庫MAGAZINE増刊」で好評を博したコラボレーション小説が、書き下ろしを加え待望の文庫化! 巻末には描き下ろし四コマのほか、設定資料も収録!!
紫色のクオリア
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紫色のクオリア
2009/07/22 22:02
『物語はいつからはじまるのだろうか?』
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ガクちゃんが廊下で鉢合わせてして一緒に転んだ毬井ゆかりは紫色の瞳を持った中学生。彼女の秘密は、自分以外の人間がロボットに見えるということだ。
嘘っぽいと思いつつ適当に話を合わせているうちに、ゆかりには本当に人間とロボットの区別がついていないとガクちゃんにも分かり始めたのだが……。
うえお久光は巧い作家だと思います。キャラが活き活きとしていて軽妙な言葉のやりとりが心地良いというだけでなく、しっかり面白い「物語」が紡げるということ。ただ、著作の大半がライトノベルの長編シリーズなので、いきなり読み始めるには辛いかもしれません。ですから、この作品のように1巻ですっきり完結している作品は貴重な入門書かもしれません。
けれども単純に「面白いライトノベル作家の入門書」と言い切るには少しばかりやっかいな作品でもあります。本の帯には「少し不思議な日常系ストーリー」とか書いてありましたが、これが「少し不思議」ならテッド・チャンだって「ちょっと不思議」です。少女たちの友情の物語であり、世界の可能性を足蹴にする探索の物語であり、魔法少女の冒険活劇であり、シュレーディンガーの観測問題に正面から挑んだ平行世界テーマSFの快作と二転三転していくのですから。
でも、この一癖も二癖もあって容易に先の展開を読ませないまま一気に読ませてしまうのがうえお久光の巧さであり、この作品でうえお久光を知るのだとしたら、それは幸せなことではないでしょうか。
紫色のクオリア
2010/07/26 00:33
認識の相違をキーワードにしてSF展開に進む
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分以外の生き物が全てロボットに見える、ロボットと人間の区別がつかないという少女、毬井紫と友人になった少女、波濤学は、ゆかりの友人でありながら彼女に憎悪を抱いている少女、天条七美と反発したり近づいたりしながら、普通の学校生活を送っていた。
しかし、ゆかりと一人の殺人鬼との出会いが、普通とは少し変わっているけれど平凡な日常をどこかへ追いやり、まなぶにななみが抱いている憎悪の理由を悟らせることになる。まなぶの機能拡張がなされることを代償として。
クオリアの相違という変わった設定はあるけれど、日常のドタバタをまったりと描いていくのかなと思わせる第一章から、第二章ではまなぶを主役として、思いっきりSF的な展開へと変わっていく。
一言でいえば並行世界での試行錯誤なのだが、感覚的にいってこのジャンプの仕方が半端じゃない。そして、ジャンプして戻ってくることで、ゆかりという人物に対する深みと、まなぶという人間の徹底ぶりが理解できるようになっている。
第一章の展開を引き継ぐべきなのはこの回帰した後の世界なのだが、そこは描かれることはない。まさに不確定だ。ただ、あらゆる可能性を検証した上でその経験を捨てたことで、まだ生まれていない可能性を選択できる可能性が生まれたことは確かだと思う。