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小説の読み書き
著者 佐藤正午著
小説家はどんなふうに読み,また書くのか.近代日本文学を代表する小説家たちの作品を書き写すように読み解きながら,「小説の書き方」ではない「小説家の書き方」を,小説家の視点から考えるユニークな文章読本.読むことは書くことに近づき,読者の数だけ小説は書かれる.こんなふうに読めば,まだまだ小説だっておもしろい.
小説の読み書き
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紙の本小説の読み書き
2024/02/28 19:53
良い本です
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
頻繁に読む私の座右の新書のひとつです。とりあげられているのはいわゆる名作文学が多いので、私の未読のものも多く、次の読書へのモチベーションにもなります。
紙の本小説の読み書き
2016/12/20 16:42
追記が面白い
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
『小説家の四季』を読んでいたらこれも読んでみたくなった。川端康成『雪国』、志賀直哉『暗夜行路』などの近代日本文学の大家たちの作品を取り上げて、結構細かいことに拘った読みを展開している。幸田文の回では、ひどい勘違いをしてしまい、読者から指摘の手紙を山ほどもらったようで、その謝罪や言い訳が追記として載っている。他にも追記があるのがあって、それらも結構面白かった。
紙の本小説の読み書き
2006/08/14 18:21
随所に著者の鋭い見解が光る優れた小説論!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、もともと岩波書店のPR誌『図書』に連載された文章が基になっており、近代の文豪とよばれる作家を中心として、戦後に活躍して物故した現代作家も若干含んで二十三作品と著者の自作を加えた計二十四作品が論じられている。
それぞれの作品論の分量はそれほど長くはないが、随所に佐藤正午氏の鋭い見解が展開されており、中々読み応えのある小説論となっている。
例えば、谷崎潤一郎の『痴人の恋』を論じている章では、谷崎のこの初期作品はエロティクな作品としてこれまで読まれて来たが、仔細に読むとセクシュアルな描写は「潔癖にさけられており」それが故に「この小説は悦楽をむさぼりつくした直後に忍び寄るもの、幻滅の手前で踏みとどまっている。永遠の恋愛もしくは婚約期間とでもいった状態に保たれている」としている。これは、一見驚くべき指摘であるように思われるが、この作品の隠れた一面を明らかにした優れた見解と言えよう。
また、芥川の『鼻』については、いささか辛辣な見方をしている。著者によれば、芥川の作品は、確かに文学好きな読者を惹き付ける魅力を有しているが、「不思議なことに何度読んでもこの人の作品を充分読み上げたという達成感なく」、それは「芥川の小説は文体で保っているものが大半で、特に文才に恵まれた作家であれば誰にでも書けるという書き方になっている。これが私だという言葉の傷がない」としている。誰にでも書けるという指摘はともかく、「言葉の傷がない」という指摘は芥川文学の本質を衝く鋭い指摘であろう。
本書は、この他にも新鮮な指摘が散りばめられており、教えられることの多い小説論となっている。ただ、残念なのは、著者が作品を論じる姿勢はどこか性急でぶっきらぼうなところがあり、小説を論じる際に伴う愉悦感に乏しいことである。著者は、五十歳を越えた中年と自らを呼んでいるが、その割には文体が年齢を感じさせないドライなものとなっており、もう少し知情意を兼ね添えて小説論を展開しても良かったのではないと思われる。また、終章で、自作を論じているのもいただけない。編集者の要請があったからと著者は言うが、他の作家をあれほど辛辣に論じておきながら、自作を他の大作家とともに論じるなど余りにも厚顔過ぎるのではないか。類書には見られない鋭い見解や思い切った考察がなされてユニークな小説論となっているだけに、惜しまれるところである。