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プレイヤー・ピアノ
著者 カート・ヴォネガット・ジュニア (著) , 浅倉久志 (訳)
あらかじめプログラムされた音をくりかえし送りだす自動機械のプレイヤー・ピアノさながらに、すべての生産手段が自動化され、すべての人間の運命がパンチ・カードによって決定される世界・・・・・・アメリカ文学の巨匠が、優しさに満ち、かつ醒めた視線で現代文明の行方をブラックな笑いのうちにつづった傑作処女長篇。
プレイヤー・ピアノ
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プレイヤー・ピアノ 新装版
2007/12/14 08:45
日本政府もシャーほどの知恵があればねぇ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
プレーヤー・ピアノ
著者:カート・ヴォネガット
訳者:浅倉久志
日本政府もシャーほどの知恵があればねぇ。
この本の舞台は、ニューヨーク州イリノイ。
『ガラパゴスの箱舟』のメアリーさんが住んでいた所はニューヨーク州イリアムです。彼女の夫は、ゼンジの勤めていた会社、マツモトが工場を機械化したためにリストラされ失業。同様に、子どものいる町の住人がほとんど転出したために、教師のメアリーも失業しました。
「すべての生産手段が完璧に自動化され、すべての人間の運命がパンチ・カードによって決定される世界」とこの本の裏表紙に紹介されていますが、それは“嘘”。だって、血筋が重要視され、パンチ・カードの記入も間違いがあり、さらに、人格の記入もあるというのに、おおもとの資料、大学卒業時のグラフにその後の変更が効かないというのですもの。
つまり、コンピューターを操作しているのは、人間、一部の支配層であるってこと。
主役はポールかな?冒頭に猫が出てくる。掃除機に吸い込まれ、吐き出され、逃げようとして高圧線に触れて死んでしまった猫。機械をかじる鼠を退治させようと考えていたポール。ポールの悩みについては、本をお読み下さい。
ここでは、某国の国王、シャーの言葉を紹介したいと思います。これが面白いんだなぁ。
まず、案内にたったアメリカの国務省のお役人ハリヤードが自称「ドジ終点部隊」(道路住宅補修点検部隊)員につばを吐きかきられた場面で、
「シャーは」とハシュドラールがいった。「わたしたちがニューヨーク市からここへくるあいだにいつも見たこれらの奴隷、どなたの持ち物ですか、それが知りたいとの仰せです」
「奴隷じゃありません」バリヤードは寛大にほほえみながらいった。「あれは市民です。政府に雇われているんです。彼らはほかの市民とおなじ権利を持っています―言論の自由、信教の自由、それに投票権。戦前まで、彼らはイリアム製作所につとめて機械を動かしていましたが、いまでは機械が人間よりもっとうまく、自分で自分を動かすようになったのです」
「あはあ!」バンュドラールが通訳しおわるのを待って、シャーがいった。
「あはあ!」
「そして、機械よりもいい仕事ができないため自立していけない人間は、政府に雇われて、隊か、でなければ道路住宅補修点検部隊にはいるのです」
「あはあ! ハブー・ボナンザ=パック?」
「え?」
「シャーの仰せられますには、『彼らに払う金はどこから出ますか?』」ハシュドラールがいった。
「ああ。それは機械にかかった税金と個人の所得税から出るのです。そして、軍隊と道路住宅補修点検部隊の人びとは、よりよい生活のためにより多くの製品を買い、その金をふたたび経済システムの中へもどすことになります」
「あはあ!」
・・・・
「クッポ!」 シャーは悲しげに首を横に振った。
ハシュドラールは顔を赤らめ、それからおずおずと、すまなさそうにいった。「シャーの仰せられますには、『共産主義です』」
「クッポない!」
「・・・人間的過失を機械で除去し、不必要な競争を組織化で防止するーこの方法によって、われわれは平均的人間の生活水準を大幅に向上させました」・・・
「あはあ」シャーはうなずいた。タカル」
「タカル」ハシュドラールが答えた。「奴隷です」
「タカルない」ハリヤードはシャーに向かって直接にいった。「し・み・ん」
「ああー。し・み・ん」そういうと、シャーはうれしそうにニヤリと笑った。「タカルー市民。―市民―タカル」
EPICAC14号 最新式コンピューターの説明を聞いて
「地球から月まで4回も届くほどの電線がおさめられています」
「シャーの仰せられますには」と、ハシュドラールがいった。「我が国の人民は利口な女と寝て、良い脳を安くこしらえます。ですから、月まで千回も届くほどの電線が倹約できます」
大統領の演説に「偉大な賢人」と聞いて、EPICACに解ければこの世から悲しみがなくなるという謎を問うが、答えはなかった。「パクー!」
「パクー」とは、スラシ族のつくる小さいドロと藁の人形。「ニセモノの神」という意味で言ったのだろう。スラシ族は、コレラにかかって全滅。
平均的アメリカ人の家庭を訪問したシャー。帰り際に陽気に叫び手を振った。「ブラフーナ!」「ブラフーナ、タカル」(生きよ!)
亡くなった友人の妻との浮気に悩むその平均的アメリカ人は、その後、家を破壊し、逃走する
「あなた方にはまったく費用の負担をかけずに」と、ハリヤードはつづけた。「アメリカはあらゆる分野の熟練した技術者と管理者を送りこみ、あなた方のお国の資源を調査し、近代化の青写真を描き、それを発足させ、国民のテストと分類をおこない、借款を準備し、機械を据えつけるでしょう」
シャーはふしぎそうにかぶりを振ってから、ようやく口をひらいた。「ブラッカ=フート・タッキー・シーン。スーリ、サッキ・EPICAC、シキ・カヌー・プー?」
「シャーの仰せられますには」とハシュドラール。「『われわれがその第一歩を踏みだす前に、どうかEPICACに聞いてくださいませんか――人はなんのためにあるのか、と』」
日本政府もシャーほどの知恵があればねぇ。
ポールも参加したメドウズの祭典?は、まったくばかばかしい限り、まるで新興宗教の刷り込みのための道場のようだよ。アメリカって、遅れてるぅ!!
幽霊シャツ党の首脳たちが、こんなことを言っていた。
「テレビを見るかわりに本を読もう」
この本も、ヴォネガットさんの皮肉がいっぱいで面白い。是非ご一読を!!