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風の十二方位
著者 アーシュラ・K・ル・グィン , 小尾 芙佐・他
〔ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞〕銀河のかなたのフォーマルハウト第二惑星で、セムリは〈海の眼〉と呼ばれる首飾りを夫ダーハルに贈ろうとするが……第一長篇『ロカノンの世界』序章となった「セムリの首飾り」をはじめ〈ゲド戦記〉と同じく魔法の支配するアースシーを舞台とした「解放の呪文」と「名前の掟」、『闇の左手』の姉妹中篇「冬の王」、ヒューゴー賞受賞作「オメラスから歩み去る人々」、ネビュラ賞受賞作「革命前夜」など17篇を収録する傑作集。
風の十二方位
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風の十二方位
2021/11/12 13:20
作家ル・グィンの<軌跡>を辿ることができる<奇蹟>の「選集」
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者自身のコメントが各作品の初めに付されているので、「画家なら回顧展と呼ぶものにあたる」という本短編集が、作家ル・グィンの執筆活動の軌跡を辿ることができる「選集」なのだと実感できる。
収録の17篇は、魔法使いや龍が登場するファンタジーや宇宙を舞台とする本格的なSFに加えて、哲学的考察を含むミステリーから心理的ホラーまで雑駁を極める。
『風の十二方位』という題名が、作者の幅広い作風を示すと同時に、作者の広範で多岐に亘る関心領域をも暗示する。
現時点で私が読了した長編は『闇の左手』『ロカノンの世界』『所有せざる人々』の三作品に止まるが、それでも変幻自在な作者の筆致と科学に寄せる造詣の深さに驚嘆させられた。
今また本短編集を読むことで、改めてアーシュラ・クーパー・ル・グィンという作家が一筋縄では捉え難い作家であり、魅惑的な物語の紡ぎ手なのだとの思いが増した。
SF好きの読者は、「九つのいのち」「帝国よりも大きくゆるやかに」に喝采を贈り、捻りの利いた「マスターズ」に感嘆するに違いない。SF手法を借りて宇宙での宗教体験の激烈さを語る「視野」には、好悪が分かれるかも知れないが…。
大空を風虎や龍が飛び交うファンタジー世界を夢見る願望は、空想する自由の価値そのものだ。『ロカノンの世界』に繋がる「セムリの首飾り」に魅了されず、「暗闇の箱」に戦慄せず、「名前の掟」に心躍らぬとしたら、これほど不幸なことはない。
『闇の左手』と深く関わる「冬の王」や『所有せざる人々』に描かれた“二極世界”を象徴する「オメラスから歩み去る人々」が享受してきた幸福を裏支えする冷徹な現実、「革命前夜」の主人公が貫く理想主義、それぞれが伴う代償の重みに思いを致すことができぬとしたら、それほど哀しく虚しいことはあるまい。