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11件
フィリップ・マーロウ
著者 レイモンド・チャンドラー(著) , 清水俊二(訳)
私立探偵フィリップ・マーロウは、ふとした友情から見も知らぬ酔漢テリーを二度も救ってやった。そして彼はテリーの殺害容疑を晴らす為に三たび立ち上るのだった! ハードボイルド派の王座を占めるチャンドラーが五年間の沈黙を破り発表した畢生の傑作、一九五四年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作
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長いお別れ
2022/04/19 23:07
やっと出会えた長いお別れ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:デネボラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
検索すれば、少なくとも関連する情報には辿りつく。その道筋が示される。そんな時代でも、なぜか気になったまま、自分の中に取り残している本がある。いつか、どこかで。怠慢でしかないが、万一にも合わなかったときの幻滅をおそれてもいる。チャンドラーの本はそんな本の一冊だった。
はたして出会えて本当によかった。この深く残る読後感は、語られないフィリップ・マーロウの心情を、ともに思ってきたからだろう。お酒も飲めず、そもそも男でなくても、私立探偵マーロウの悲哀は私の悲哀だった。
さてこれで他のチャンドラー作品をかちゃかちゃと検索するかといえば、やはりまたどこかで会えることを期待している。幾分期待前のめりになりながら。
長いお別れ
2017/08/30 07:19
不器用
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
マーロウは不器用なんだ。きっと。仕事はできるけれど、組織の理論で行動できない。お金儲けや安定した生活にはあまり興味がないらしい。
損したと思うとき、うまく立ち回れなかったと思うとき、ご機嫌取りに失敗したとき。マーロウを思い出そう。彼なら決して落ち込まないし、後悔もしないだろうから。
プレイバック
2015/11/22 09:27
闇のなかのただの足音さ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
>誰だというのかね。誰でもないよ。闇のなかのただの足音さ。
『プレイバック』のなかで、一番、私の印象に残った一節だ。
訳者の清水俊二は、あとがきで、『プレイバック』はフィリップ・マーロウものの長編小説群のなかで一番短く、異色で、謎が多いと指摘し、そもそも、タイトルがなぜ『プレイバック』なのかということからして謎である、としている。私も同感である。
この小説は、その内容よりも作者よりも、次の「名文句」が有名ではないだろうか。
「男は、タフでなければ生きられない。優しくなければ、生きる資格がない」
出典を知る前から、この「名文句」だけを、テレビや新聞などで、私も覚えていた。
1988年に亡くなった清水俊二氏は、この「名文句」をどう思っていただろう。
この「名文句」は、一晩一緒に過ごした彼女を、別の男のところに送っていくときの会話に出てくる。清水俊二訳の『プレイバック』では、次のようになっている。
>「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなにやさしくなれるの?」と、彼女は信じられないように訊ねた。
>「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」
私が思うに、「男は、……」のほうは、男らしい男たるものはかくあるべし、と述べている。
一方、清水訳の「しっかりしていなかったら、……」のほうは、余人は知らずこの私フィリップ・マーロウは、これこれこういう人間で、これ以外の生き方はできない、と述べているように思う。
この一節の前半は、やくざや警察と渡り合う探偵稼業一般の事実だ。後半は、マーロウが、やれやれ、それで一文の得にもならないどころか損することさえあるけれど、やめられないし、やめたら自分でなくなってしまうんだよ、と言っているように思えるのである。
マーロウの「やさしさ」は、たとえば、次のようなものである。
村上春樹訳だが『大いなる眠り』では、下半身不随で温室かベッドでしか過ごせない老人のために、たばこの煙を吹きかけてあげた。
>私は腰を下ろし、無意識に煙草を探りかけてやめた。老人はその仕草を目にとめ、微かな笑みを浮かべた。
>「吸ってかまわんよ。煙草の匂いは好きだ」
>私は煙草に火をつけ、煙を思い切り老人に吐きかけた。彼は野ネズミの巣穴を前にしたテリアのようにくんくんと匂いを嗅いだ。微かな笑みが口の両端の影になった部分にまで広がった。
この老人を安らかに「大いなる眠り」につかせるために、マーロウは依頼された内容以上の仕事をした。そして、こんな述懐をする。
>どんな汚れた死に方をしようが、どんな汚れたところに倒れようが、知ったことではない。この私はといえば、今ではその汚れの一部となっている。……(中略)……しかしあの老人がそうなる必要はない。
清水俊二訳『高い窓』では、高い窓のある部屋で為された犯罪にとらわれていた娘を救い出した。これも依頼の内容とかけ離れたことだ。十日間、街を離れて、彼女の故郷の両親の家に送り届けた帰りに、こんなことを思う。
>自分が詩を書き、とてもよく書けたのにそれをなくして、二度とそれを思い出せないような感じだった。
そしてもちろん、酔っぱらって妻の車から放り出されたテリー・レノックスを拾い上げたことから、『長いお別れ』が始まったのだった。
>私はドアがしまるのをじっと見つめた。模造大理石の廊下を歩いて行く足音に耳をかたむけた。やがて、足音がかすかになり、ついに聞こえなくなった。私はそれでも、耳をかたむけていた。なんのためだったろう。