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29件
かもめ食堂
著者 群ようこ
ヘルシンキの街角にある「かもめ食堂」。日本人女性のサチエが店主をつとめるその食堂の看板メニューは、彼女が心をこめて握る「おにぎり」。けれどもお客といえば、日本おたくの青年トンミひとり。ある日そこへ、訳あり気な日本人女性、ミドリとマサコがやってきて、店を手伝うことになり…。普通だけどおかしな人々が織り成す、幸福な物語。
かもめ食堂
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かもめ食堂
2008/12/20 15:11
映画と原作が微妙に違うように、書評も違うんです。
11人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょうど、家にDVD「かもめ食堂」が、借りてきてあったのでみました。
面白かったので文庫本・群ようこ著「かもめ食堂」(幻冬舎文庫)を買い読んでみました。
なにやら、シナリオを読んでいるような気分。
読みながら、思いうかべたのは木下順二著「夕鶴」と永瀬清子の詩「諸国の天女」。
でも、これらは、ちとありふれているかもしれないなあ。
どなたでも、思い浮かぶかもしれない。
ということで、ちょっと違った視点でいきましょう。
丸山薫の詩に「汽車にのつて」があります。何でも昭和二年に発表とあります。それを引用してみましょう。
汽車に乗つて
あいるらんどのやうな田舎へ行こう
ひとびとが祭の日傘をくるくるまわし
日が照りながら雨のふる
あいるらんどのやうな田舎へ行こう
窓に映つた自分の顔を道づれにして
湖水をわたり 隧道(とんねる)をくぐり
珍しい顔の少女(おとめ)や牛の歩いている
あいるらんどのやうな田舎へ行こう
この詩については、司馬遼太郎著「愛蘭土紀行」と向井敏著「司馬遼太郎の歳月」に具体的なイメージにつながる文がよめます。
ところで、「かもめ食堂」はフィンランドなのです。
文中に、準主役のマサコさんが語る箇所があります。
「父のオムツを換えているとき、テレビでフィンランドのニュースを何度も見たんですよ。『エアーギター選手権』『嫁背負い競争』『サウナ我慢大会』『携帯電話投げ競争』でしたね。いちばんすごかったのは、『嫁背負い競争』です。ふつうに考えると、おんぶすると思うでしょう。それが違うんです。奥さんの両膝を後ろから自分の両肩にひっかけて、ものすごい速さで走るんですよ」(p149~150)
こうしてマサコさんはフィンランドに来て日本人が経営している「かもめ食堂」によるのでした。ところで、主人公ともいえるサチエさんが、フィンランドの食堂を経営するのに食堂の名前を思いつく場面があります。
「 『いけない、そんなに甘いもんじゃないんだから。いい気になっちゃいけません』サチエはエテラ港で、足元を歩くころっころのかもめに向かっていった。かもめは、『何やってんの』という顔でサチエを振り返り、とことこと歩いていってしまった。『かもめ・・・ねえ』日本でかもめというと、かわいい水兵さんか演歌の脇役だが、フィンランドのかもめはどことなく、のびのびとふてぶてしく、またひょっこりしていた。このひょっこり具合が、自分と似ているような気がしてきた。『かもめ・・・、かもめ食堂・・・、でいきますか』」(p34)
そういえば、室生犀星の物語『乙女抄』の中に「東京詩集」があるというのですね。
そこに「かもめ」という詩があるそうなのです。せっかくですから、その詩「かもめ」を引用しておきます。
かもめ
かもめは川の面をあさっている
船がすぎたあと
七八羽のかもめが
陸橋(りっきょう)の円いめがねの下をくぐり
そして空に立つ。
この都にこういう景色が
終日くりかえされていることを
わたくしは知らなかった。
しかも
かもめはこころを安んじて
みやこのただ中に遊ぶのだ、
白いお腹に日はあたり
白いお腹は花のように輝いている。
ちいなみに室生犀星著「乙女抄」は昭和17年初版とあります。
2020/04/05 11:06
一気によみました。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さくら - この投稿者のレビュー一覧を見る
宝くじで一億円を当て、念願フィンランドで食道をはじめたサチエ。「こども食堂」と、地元住人から遠目に見られながら、全うに生きることで信頼され、集ってくれる人を相手に徐々に繁盛して行く。
スッキリした人間関係を生活の中で起こるハプニングで味付けをして構成された物語でした。
かもめ食堂
2009/05/17 18:13
「かもめ食堂」はフィンランドのヘルシンキにあります。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
かもめ食堂 群ようこ 幻冬舎文庫
かもめ食堂というタイトルから予測したことは、物語の舞台となる「かもめ食堂」は東北宮城県の石巻市か岩手県の釜石市三陸海岸あたりではなかろうかということでした。まだ、わたしが中学生の頃にウミネコの島というようなタイトルの本を読んだことがあります。そのときの舞台が東北でした。ところがどっこい、「かもめ食堂」がある場所は、フィンランドのヘルシンキだったのでたまげました。
登場するのは、ハヤシサチエさん(未婚38歳、日本に兄ひとり、弟1人)、トンミくん(フィンランド人、若者)、シンドウマサコさん、ミドリさん、リーサおばさんなどです。
フィンランドは高福祉の国ではあるけれど、日本人でも病気になったらその恩恵をいただけるのだろうかと、物語を読みながら、サチエさんたちの生活を心配しました。内容は、未婚女性の半生を扱った作品です。60ページあたりのもの言いがいい。
サチエさんが経営するかもめ食堂には、なんともさえない人たちばかりが集まってきます。しかし、誠実な人たちでもあります。誠実であるからこそやがてお客さんたちが集まってきます。意外性がしあわせな気分にさせてくれた作品でした。