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8件
妾屋昼兵衛女帳面
著者 上田秀人
世継ぎなきはお家断絶。苛烈な幕法に苦しむ大名旗本は、秘かに妾屋を訪れた。そんな稼業を営む山城屋昼兵衛の元に、ある日、仙台藩主の側室の求めが。だが、それを機に将軍継嗣にも絡む大規模なお家騒動が勃発。巻き込まれた昼兵衛は、側室を守る大月新左衛門と共に、大藩との熾烈な暗闘を繰り広げる。
人気沸騰の著者が放つ新シリーズ第一弾!
妾屋昼兵衛女帳面八 閨之陰謀
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拝領品次第
2012/04/08 22:01
剣術の使い手にのびる権力の誘惑
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今まで将軍のお側に仕える腕の立つ旗本という主人公設定が多かった上田秀人の小説であった。今回は妾屋昼兵衛シリーズの第2弾であるが、本シリーズは妾屋ならぬ山城屋昼兵衛が雇う用心棒、大月新左衛門が登場する。こちらの方が主人公らしい。勿論、剣の腕は比肩しうるものがない。
この大月は第1弾では伊達藩の武士であったが、御家騒動で脱藩した。したがって、今回の身分は所謂浪人である。妾屋の用心棒として手伝いをしながら日々の糧を稼いでいる。本書で登場する大物といえば、小姓組頭と将軍家斉であろうか。小姓組頭は林出羽守忠勝である。まだ身分は高くはないが、小姓なので将軍家斉の側におり、家斉のお気に入りという設定である。
町人勢力が台頭してきた時代で、経済は町人が動かしている。戦がない世の武士とは一体何をしているのかと言えば、政のはずである。しかし、政治は金がかかること古今東西違いはない。経済を握っている町人に首を押さえつけられているのが武士である。
いずれの藩も参勤交代や普請を命じられ、多額の金が必要となる。これこそ幕府の狙い通りであるが、藩は札差や商人から金を借入れなければ藩の財政が破綻して改易となる。それをくい止めるための必死の努力を行うわけである。商人側は貸しこんだ挙句改易にでもなると、回収ができなくなるのでこちらも必死である。
結局、何らかの担保を取ることになるのだが、それが将軍からの拝領品ともなると、管理も並々ならぬものがある。その拝領品を巡っての駆け引きが本書の焦点となっている。大月の剣の腕前は冴え、手柄を立てることになる。用心棒同士の結束や会話が出てくるのも珍しい。
妾屋の用心棒が将軍とつながることはないと思っていたが、最後にそれにつながる引見がある。もはや主を求めず、気楽に用心棒稼業に勤しもうとしている大月新左衛門であるが、果たして周囲がそれを許してくれるのだろうか? あるいは従来と同じパターンで権力と関係を持つのであろうか? ちょっとした見モノである。
側室顚末
2011/10/30 21:35
藩と幕府の駆け引き、藩内部の御家騒動など読み所は豊富な時代小説シリーズ
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
上田秀人の新しい時代小説シリーズの初刊である。徳川十一代将軍徳川家斉の時代である。今回は仙台伊達藩で生じた一種の御家騒動の一端を描いたものである。主役は妾を斡旋する妾屋・山城屋昼兵衛である。当然ながら刀の使い手が登場する。仙台藩で剣術指南役に惜しくも敗れた藩士である。大月新左衛門というのがこの人物である。
本編では、このところのシリーズでつねにテーマになっていた将軍位継承にまつわる陰謀、もめ事、暗闘などとは異なり、仙台藩内部の御家騒動である。そうはいっても、幕府と仙台藩と、舞台は替わるが中身は今度は藩主の後継争いになる。これを争う闘いという点には違いがない。
後継者、つまり子供がない場合はお家断絶である。藩全体が消えてなくなるので一大事である。ストーリーがそうでなければ妾屋・山城屋昼兵衛の出番はない。シリーズ化されているので、本編以降もおそらく様々な藩での後継争いに駆り出されることであろう。
本編での主人公は当然、山城屋昼兵衛であるが、主役級の脇役として剣の腕が確かな大月新左衛門が登場する。いつものことのように剣の師匠付きである。仙台藩が依頼した側室の護衛という役回りである。
昼兵衛が側室候補の元武家娘を面接して採用を決める。単に面接して話をするだけでなく、必要な手続きを行う辺りはなかなかリアルである。こまかいことではあるし、ことの真偽までは分からないのだが、さもありなんというやりとりがなかなかリアルという訳である。
いつもは幕府の要職にある旗本が主人公になることが多いが、今回はいわば民間の一業者に焦点を当てている。従来ではあまり出てこなかったが、今回は藩財政がいかに逼迫しているかが前面に出てくる。これもリアルであるが、いかにも窮迫している藩の困惑ぶりがよく描かれていると思う。読者に飽きさせない工夫が随所に散りばめられている。
閨之陰謀
2015/04/05 21:20
妾屋は楽しませてもらったが、次はさらに新機軸を!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
上田秀人の時代小説だが、いよいよ第八巻を以て妾屋昼兵衛シリーズも完結となった。最近の上田の小説はシリーズものでも長く続くものが多いようだ。今回は八巻で終結である。巻末の上田の弁によると、シリーズものは八~十二巻で終わるようにしているそうだ。そうしないと自分の性格上、だらだらといつまでも続いてしまうからと言っている。
シリーズものだから続くのは当たり前なのだが、これらが一巻ずつ独立していると言ってもそれほど違和感がない。逆に言えば、シリーズ全体の大きな流れがなく、そのときそのとき一巻ずつ書いているといってもよいのではないか。今回は一応完結に相応しくまとめているが、続いてもおかしくないような書き方である。
そういえば、御広敷用人の水城は、勘定吟味役のシリーズが終わり、御広敷用人シリーズへと転換している。その伝でいけば、妾屋昼兵衛もいつか復活するかもしれない。もっとも、そのときに他の商売に鞍替えしていたのではファンは落胆するであろうけど。
そろそろ上田も新機軸を出していかないと、熱烈な読者に飽きられてくるような気がする。なんとなれば、登場する人々がほぼ同じであるからだ。将軍の後継争いが発生するところから始まり、伊賀者、お庭番、黒鍬組などの忍びの者、大寺院の僧兵、そして大奥、さらに吉原が加わって、主人公に抵抗する。
将軍の後継争いは、他の時代小説にも出てこないことはないのだが、これは捨て難い。それは結構なのだが、新たな登場人物も加えて欲しい。伊達家、前田家という大名は面白い。今回も伊達家が登場して少し毛色が変わってきた。新機軸とはそういう意味である。これらの道具立てで吉原、大奥について読者はだいぶ詳しくなったのではないか。
また、別のシリーズが新たに登場するようであるが、主人公の職としてまた新たなものを用意して欲しい。それによって江戸幕府の時代による幕政体制の変化や栄達の仕方の違いなども描いて欲しい。