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ゲーテとベートーヴェン
著者 著:青木やよひ
"一八一二年夏、二人の巨匠はボヘミアで出会う。ゲーテ六三歳、ワイマル公国の枢密顧問官として社交に余念がない。ベートーヴェン四一歳、不滅の恋人""との恋に心を高ぶらせていた。そして時代は、ナポレオンの没落を前にして激しく動いている。本書は、政治的・社会的状況を丹念に踏まえ、巨匠たちの交響する世界を臨場感豊かに描写する。手紙、日記、友人たちの証言など資料を駆使した、まったく新しい視点による芸術家像がここに誕生。
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ゲーテとベートーヴェン
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ゲーテとベートーヴェン 巨匠たちの知られざる友情
2004/12/07 18:30
真摯な筆が明らかにするゲーテとベートーヴェンの友情
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ゲーテとベートーヴェン」。何とも懐かしくなるタイトルである。大正教養主義の匂いがたちこめてきそうだ。しかし大正教養主義も昨今は見直される気配がある。武者小路実篤の「新しき村」を改めて検証した関川夏央『白樺たちの大正』(文芸春秋)が昨年出たけれど、日本人が初めて個人として生き始めた時代への視点は、モノがあふれかえっているのにどこか生きにくい現代への処方箋の役割を果たしているのではないだろうか。
その意味で、文学の巨匠と音楽の巨匠の友情を扱った本書も、時宜にかなった出版と言えるだろう。著者は女性史研究家であると同時に、ベートーヴェンについても広く深い学識で知られている方である。
一般には、ゲーテとベートーヴェンは短い接触はあったものの、気質や思想に違いが大きすぎたためにすれ違いに終わったと考えられている。著者は両者の生い立ちから始めて、ベッティーナ・ブレンターノという芸術少女の仲介で両者が出会い、いったんは別れるまでの経過を丁寧にたどっている。
しかし、ここまでなら従来の研究を分かりやすく紹介したというだけの話だ。本書の真価はこの後の記述にある。すなわち、一見違う道をたどり始めたかに見える両巨匠は、実はその後お互いの真価を理解し、会う機会はなくとも相互に尊敬の念を抱き続けていたというのである。この点については著者は現地調査を行い、新しい資料をも踏まえた上で独自の見解を打ち出しており、その主張には十分な説得力がある。
そして何より、フランス革命が起こりナポレオンが皇帝位についた激動の時代に、ゲーテとベートーヴェンという個性的な芸術家がそれぞれの流儀で生きていく様が活写されているところが素晴らしい。一読して、シニシズムや韜晦とは無縁な著者の真摯な筆こそ、両巨匠の姿を描くのにふさわしいと納得しすることしきりであった。
なお、本書とあわせて同じ著者による『ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の謎を解く』(講談社現代新書)をお薦めしたい。ベートーヴェンの女性関係を追究した書物だが、推理小説を読むようなスリリングな面白さに満ちており、それでいて世界第一線級の精緻なベートーヴェン研究書でもあるからだ。