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紙の本ウースター家の掟
2018/12/23 18:08
シリーズ随一の長編
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ第4弾。登場人物の中でもバーティの女友達のステッフィーがかなりぶっ飛んでいて、前作に出てきたマデラインとガッシーはまだ結婚せず愚図愚図としている。そこにマデラインの父サー・バセットと右翼活動家のスポード、バーティの敬愛してやまない猛女ダリア伯母が絡んできて錯綜した展開に。キーオブジェはウシ型クリーマー、ヘルメット、茶色の手帖。例によってジーヴスが強引に締めくくる。殆どデウス・エクス・マキナのように強引かつ鮮やか。終章でブラウニングの詩句が出てきてじんわりと終わるあたり英国小説らしい。この落ち着き、ユーモア、鮮やかさはシリーズの人気が根強い理由なのだろう。全シリーズを通してこの長編がストーリーの混み入り方は随一ではないかと思う。お見事。
紙の本ウースター家の掟
2016/02/29 22:25
ウースター家の掟とは
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
『汝、友を落胆させるべからず』
この掟がバーティーに適用された場合、どれほどの地獄絵図が産み出されるか、それはご想像のとおり。
とにかく楽しい物語、手元において何度でも読み返そう。
紙の本ウースター家の掟
2006/05/05 13:34
ウースター家の掟——バーティーは意思が弱いんじゃなくって騎士道精神・貴族精神を突かれていたのか
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
衒学趣味。国語辞典によれば「学識を誇りひけらかすこと」。小説においては、ひけらかすというよりはむしろ、ただただ知識の情報量で圧倒されるような作風を指すのではないかと思います。小栗虫太郎、アレン・カーズワイル、ウンベルト・エーコ、京極夏彦、中井英夫、澁澤龍彦……。「衒学」ではなく「眩学」と言いたくなるような、情報への耽溺・眩惑。
「笑いの古典、巨匠と認められたコミックの天才」ウッドハウスとはもっとも縁遠そうな言葉です。
ところが、です。本書『ウースター家の掟』には今まで以上に古典作品からの膨大な引用が織り込まれています。その量たるやまさに衒学的と呼んで差し支えないほどに。
イギリス詩など引用されてもわたしにはちんぷんかんぷんです。そんなのがたくさんあるわけですから、多少しんどくもなりかけましたが、だんだんと馴染んでまいりました。
なにしろ引用するバーティーだってわかっちゃいないんです。ジーヴスから聞いたことや以前に見聞きしたことを繰り返しているだけ。しかもバーティーの口から出てくるのは、「何とかが何とかしたというあれ」という、曖昧にもほどがある引用とは呼べないようなしろもの。引用元を知っていればより楽しめるのでしょうが、知らなくとも気にせず楽しめます。
それでも気になって仕方ないなら、ちゃんとジーヴスが(そしてときに訳者が)フォローしてくれてます。
さて物語は——世界一周旅行に行くか行かないか——バーティーとジーヴスの意見が対立しているところから幕を開けます。そこへ現れたダリア叔母さんのたっての願いでバーティーは、トム叔父さんが欲しがっているウシ型クリーマーを持ち主の前でけちょんけちょんにけなすことになります。ところが骨董屋で天敵サー・ワトキン・バセットに遭遇。彼こそはかつてバーティーに警官のヘルメットちょろまかしの刑で罰金刑を科した判事でした。ほうほうのていで逃げ出したバーティーのもとにガッシーから電報が届きます。婚約者のマデラインと喧嘩をしたから今すぐトトレイ・タワーズに来てほしいとのこと。すわ一大事と準備をしていると、ふたたびダリア叔母さんが登場。ウシ型クリーマーを、バセットがかっさらってしまったので取り返してほしいという。何を隠そうバセットこそがマデラインの父親であったのでした。かくしていやいやながらもトトレイ・タワーズに繰り出したバーティーとジーヴスを待ち受けていたものは、ガッシー&マデラインの仲裁、バセットの姪スティッフィーと旧友スティンキーの婚約とりもち、バセット及びファシズム党首スポードの傲岸不遜な圧力、間抜けなガッシーの極秘の手帖紛失事件、そしてウシ型クリーマーをめぐる各々の思惑のぶつかり合いでした。
ウシ型クリーマーとガッシーの手帖をめぐる複雑に入り組んだすれ違いはミステリ顔負けの筋立て(分刻み、いや秒刻みのすれ違い!)です。あらゆる登場人物、あらゆる出来事が互いに巧妙に絡み合っているので、多量の引用と相まって、巧緻な物語を読み解いてゆく楽しみあふれる作品に仕上がっています。プロットがしっかりしているので、バーティーが多少はめをはずしても……ジーヴスはすべてを操らなくても……最初から最後までバーティーはいつにもまして落ち着きのない躁状態だし、頭のいいジーヴスだけじゃなくお茶目なジーヴスまで見ることのできるおまけつき。息つく暇もない巻き込まれサスペンスでした。
タイトルの意味が明かされる後半からラストにいたるまでは、ちょっとかっこいいバーティーやウースター家のプライドもかいま見られる、ほんわかと感動的な話でもありました。
紙の本ウースター家の掟
2006/05/05 08:45
コックと泥棒その叔母と達人(TheCook、TheThief、HisAunt&HisMaster)
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
バーティがこよなく愛するダリア叔母からの依頼は、実に他愛のない事だった。「ある骨董店に行って、そこに展示されている銀のウシ型クリーマーを、せせら笑ってくる」
ところが店で、彼を大悪人だと思い込んでいるサー・ワトキン・バセットと、彼の姪マデラインに恋するロデリック・スポードとバッタリ。せせら笑うどころか、またまた誤解されてしまったバーティは、バセットと距離を置こうと考える。それなのに、サー・ワトキンのトトレイ・タワーズに滞在中の学友ガッシーから、「マデラインとの結婚が暗礁に乗り上げたから、こっちに来て欲しい」と電報で泣きつかれる。更にマデラインの従姉スティッフィーから「来るんだったら、やってもらいたい仕事がある」と意味深な電報が。かくてバーティ&ジーヴス主従は、世界中で一番行きたくなかった場所ートトレイ・タワーズに赴く事になるのだが…。
本作は『よしきた、ジーヴス』の続編にあたり、トトレイ・タワーズを舞台とした長編である。銀のウシ型クリーマーを巡るダリア叔母Vsサー・ワトキンの攻防、学友二人(ガッシーとスティンキー)とサー・ワトキンの娘&姪との恋愛騒動が物語の三本柱(メイン・プロット)となる。このメイン・プロットに、バーティの泥棒疑惑、巡査のヘルメット紛失事件、そして黒革の手帖ならぬ茶革の手帖探しといったサブプロットが、絶妙のタイミングで絡んで来て、バーティを次から次へとトラブルに叩き込んでいく。
「個々人の利害が衝突する時にあっては、誰かが貧乏くじを引かなきゃならないんだ」とのたもうバーティ。そして貧乏くじをひく「誰か」とは、いつもバーティ。「困ってる本人がやればいい!」とつっぱねればいいのだが、バーティにはできない。理由は二つ。
一つはウースター家の掟「汝、友を落胆させるべからず。」
もう一つの理由は、「本人」がやると、更にドツボにはまるから。バーティの失敗の多くは間の悪さに起因するが、バーティの学友達の場合は、致命的な不器用さを持ち合わせているので始末に負えない。結局は名参謀ジーヴスが案を出し、バーティが実行する安全策を取る事に。とはいえ、いつも損な役回りではない。今回はシリーズ中珍しく見せ場がある。キメ台詞を言う時のバーティに注目。「カッコイイ!」とキラキラ瞳を輝かせるファンが増えるかも?
それにしても、登場する貴族達は、揃いも揃ってナルシストで自己中心的。かつてバ−ティと婚約していたマデラインは、「あなたは自分が愛した女性(自分の事)に一目会いたくてここに来たんだわ」と大感激。また、マデラインの従姉スティッフィーは、自分を酷い目にあわせた巡査のヘルメットを、聖職者である婚約者に盗ませる事に、何の疑いも抱かない。そして最長老サー・ワトキンでさえ、ナルシシズムから抜け出せない。
バーティだって例外ではない。自分の事を「機密文書在中の金庫を物色中のヴェール姿の女性」「龍退治に取りかかろうとしている騎士」とは。うーん、読書傾向が何となくわかる(笑)。そんな彼等が生きていられた旧き良き時代の英国って、実に寛容にして偉大な国であったのだなぁ。
ああ、大英帝国よ、永遠なれ。