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笙野頼子発禁小説集
著者 笙野頼子(著)
文芸誌に掲載された作品を中心に再構築。書き下ろし作品のほか、著者自身による解説も。
発禁作家になった。
「何も変な事も書いていない」
「自分が女である事を、医学、科学、唯物論、現実を守るために書いた」
多くの校閲を経て現行法遵守の下で書かれた難病、貧乏、裁判、糾弾の身辺報告。
【目次】
前書き 発禁作家になった理由?
女性文学は発禁文学なのか?
九月の白い薔薇 ―ヘイトカウンター
返信を、待っていた
引きこもりてコロナ書く #StayHomeButNotSilent
難病貧乏裁判糾弾/プラチナを売る
質屋七回ワクチン二回
古酒老猫古時計老婆
ハイパーカレンダー1984
初出一覧
【著者】
笙野頼子
笙野頼子(しょうの よりこ)
1956年三重県生まれ。立命館大学法学部卒業。元・立教大学大学院特任教授。
81年「極楽」で群像新人文学賞受賞。91年『なにもしてない』で野間文芸新人賞、94年『二百回忌』で三島由紀夫賞、同年「タイムスリップ・コンビナート」で芥川龍之介賞、2001年『幽界森娘異聞』で泉鏡花文学賞、04年『水晶内制度』でセンス・オブ・ジェンダー大賞、05年『金毘羅』で伊藤整文学賞、14年『未闘病記―膠原病、「混合性結合組織病」の』で野間文芸賞をそれぞれ受賞。著書多数。
笙野頼子発禁小説集
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笙野頼子発禁小説集
2023/04/23 09:55
著者の最後の傑作を収録、でも性自認の問題はデマなので注意
3人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:天使のくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
あらためて、笙野は特異な私小説作家だなあと思った。
発禁だということだけれども、その理由は政府批判ではない。というか、発禁というよりは、出版社の自主規制というのが、笙野の見方なのだけれども。
笙野が次に問題にしたのが、性自認問題。LGBTQ問題を背景と舌、性は自分で決めればいいという運動に対し、そうなったら女湯にも陰茎のついた自認女性が入ってきて、女性の居場所がなくなる、という。笙野の小説の主人公は、性自認が認められたら、女性という存在が消されてしまうと訴える。そして、この問題を取り上げた作品の掲載や出版を、講談社は拒否したということだ。もはや、笙野の原稿を掲載してくれるのは、鳥影社の「季刊文科」しかなく、本書も『発禁小説集』として鳥影社から出版された。
とはいえ、そもそも性自認の問題は、笙野の小説が指摘するような問題ではない。そもそも、性が単純に2分できるものではないというところに、LGBTQ問題があるし、その多様性はわりと社会では認められるようになってきている。だからといって、女湯や女子トイレに男性が入っていくというのは別の問題。たしかに、そうした事件が起きていることは事実だが、陰茎のついた自称女性は排除されていたはずだ。とはいえ、では、女性だとしか思えないような男性が女湯や女子トイレに入ったらどうなのか。女子トイレは基本的に個室なので、防ぎようがないけれども、同時に実害も考えにくい。隠しカメラを置くかもしれないけれども、それは女性がやっても犯罪だ。女湯の場合、裸になってしまうので、排除されてしまう。豊胸手術をした陰茎付き女性の場合、下半身を隠していたらわからないけれど、そもそもそこまでしたら、男湯に入るのもためらわれる。銭湯に行けないトランスセクシュアリティの方々のために、いくつかの銭湯ではLGBTQの日を試行したこともある。
性自認を問題視する笙野の小説の主人公は、性の根拠を身体に求めているという点では、極めて保守的だ。こうした文脈から、笙野はフェミニスト(とりわけ学術フェミニスト)を敵と見なし、さらにこれに同調するリベラルな日本共産党などには裏切られたとする。近年、積極的にジェンダーの問題を取り上げているけれども、実態は男尊左翼だということだ。さらに、性自認の問題で真実のことを語る政治家は、自民党の山谷えり子だけということであり、選挙では震える手で「自」という文字を書く。
笙野は性自認の問題についてヒステリックなまでに指摘する一方、そこには社会を覆う妖怪の姿はあまり強く感じられない。全体を通して感じるのは、デマを通じてリベラルを信じられなくなった人が、保守派に回収されていく姿である。そのことが私小説として書かれる。そうした形で作品が成り立っていく、というのが、あらためて笙野が特異な私小説を書いてきたということを感じさせるということだ。妖怪に引き込まれた作家は、これまでの特異な世界を描かない。
本書のもう1つのテーマは貧困だ。コロナ禍と先の掲載拒否によって、収入が減少し、金策が必要となる。困窮した状態をリアルに描いた「質屋七回ワクチン二回」は、ひょっとしたら笙野の最後の傑作かもしれない。