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族の系譜学 ユース・サブカルチャーズの戦後史
著者 著:難波功士
太陽族からみゆき族、暴走族、アンノン族、クリスタル族などの「族」の系譜をたどり、オタク、渋谷系、コギャル、裏原系へという「族から系への転換」を見定めて、若者文化の変容を照らし出す戦後史。
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族の系譜学 ユース・サブカルチャーズの戦後史
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族の系譜学 ユース・サブカルチャーズの戦後史
2007/08/01 01:25
知事たちと東幹久と平成の御代
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
90年代後半の「ワンダフル」というTBSの深夜番組をご記憶の方が、今どれだけいらっしゃるだろうか。司会を務めた東幹久氏は歴代アシスタント、原千晶にも、辺見えみりにも頭が上がらず、元気のいい女の子たちに囲まれて、居心地がいいんだか悪いんだかよくわからない、いい味を出していた。その後、しばらく見かけたり、見かけなかったりする内に新世紀。
しばらくして、レンタルビデオ屋で90年代初頭、彼が、チーマー出身を売りに主演したという「オクトバス・アーミー:シブヤで会いたい」という映画のビデオを見つけてしまった。公開当時この映画を上映するために、たしかスペイン坂近辺に臨時の映画館まで建てたということが記憶に残っていたのと、ジャケットの「音楽:フリッパーズ・ギター」にも少し興味がわいて。借りてしまった。いやあ。某アイスクリームチェーンの帽子を被った女の子が出てきて、クラブかディスコが判然としない場所で踊ってまくってたのと、スケボーがやたら出てきたのと、チキンランで根性試しをするあたりと…。フリッパーの曲はコピーバンドが演奏するだけという珍品でした。
そして2007年現在、彼はNHK朝ドラの「使えない」若旦那役でお茶の間に着実な人気を固めているらしい。
本書は太陽族(石原慎太郎都知事の56年芥川賞受賞作「太陽の季節」に由来する)を起点とし、以下、みゆき族(60年代前半、銀座みゆき通りに集まった)、フーテン族(60年代後半、新宿が拠点。瘋癲という言葉は古い言葉であるが「フーテンの寅」はむしろフーテン族に由来するのかもしれない)、アンノン族(雑誌「anan」、「nonno」から)、暴走族、クリスタル族(田中康夫元長野県知事:現参院議員の81年文藝賞受賞作「なんとなく、クリスタル」から」、おたく族(大塚英志氏編集の雑誌「ブリッコ」誌上で83年、中森明夫氏が大きく取り上げた)、渋カジ(80年代後半、雑誌「POPEYE」と親密な関係にあった)、渋谷系(パーフリとか…)、コギャル(小田原ドラゴン先生「コギャル寿司」あるいはこしばてつや先生「天然少女萬」:共に90年代末ヤングマガジン連載)、裏原宿系(なんか小島聖とか微妙な女優が流れ着くとこ?)、以上11の日本の「若者文化」=ユース・サブカルチャーをアーヴィン・ゴッフマンの「Flames Analysis」(未訳)を一つの参照点として、若者を取り巻く社会的枠組に於いて彼らがどのように規定されるか、彼らがどう「われわれ」を規定するかを踏まえつつ、「階級」「場所」「世代」「ジェンダー」「メディア」、この5つの視角から、記述・分析している。
宮台真司氏の「サブカルチャー神話解体」では暗黙理のうちに「都内私立高校文化」がヒエラルキーの頂点に据えられていた(おそらくかなりの面でそれは事実ではあったと思えるが)のと異なり、本書の著者は膨大な文書資料を中心に、価値・趣味判断を完全に括弧にいれ、フラットに、あえていえば、年表的描写に徹している。この姿勢は本書の資料価値を大きなものとしている。しかし、現在、このテーマを扱うにはこのようなフラットな扱い方しかできないとも言えるのかもしれない。多くのサブカルチャー受容者にとって、過去と現在、特定の場所が、ネットの普及・データベース化によって、「おすすめ」の一つとしてしか現れてこなくなった現状では。著者が「アキバ系」を独立して扱わない背景はそこにあるように思える。
本書で、あまり重点的に扱われていない、地上波TVこそが、現在、唯一残った「生の」場所なのかもしれない。もう、新宿武蔵野館という「場所」で「さらば青春の光」を見るという経験はできないだろう。しかし。TVの中で東幹久氏は今も生々しく変わり続けている。