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鏡地獄
著者 著者:江戸川 乱歩
少年時代から、鏡やレンズ、ガラスに異常な嗜好を持ち、それが高じてついには自宅の庭にガラス工場まで作ってしまった男がたどる運命は……(「鏡地獄」)。表題作のほか、 「人間椅子」「人でなしの恋」「芋虫」「白昼夢」「踊る一寸法師」「パノラマ島奇談」「陰獣」という、乱歩の怪奇・幻想ものの傑作・代表作を選りすぐって収録。編/解説・日下三蔵
鏡地獄
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評価内訳
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鏡地獄
2024/03/11 20:32
怪奇の極み
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投稿者:DB - この投稿者のレビュー一覧を見る
乱歩の怪奇・幻想小説の中から8編をえりすぐって収録されています。
まず最初に登場するのは「人間椅子」だ。
主人公は女流作家で、ファンレターにしては分厚い手紙が送られてきたことで始まります。
作家に素人が自分の原稿を送りつけてくることはままあるらしく、たいていは恐ろしくつまらない作品だがそれでも目を通しておこうと開封する。
「奥様」という呼びかけから始まるその手紙は、送り手が自分の犯した世にも不思議な罪悪を告白しようとしたためたものだった。
見にくい容貌に生まれついたが椅子職人としていい仕事をしてきたと自らを紹介し、最近手掛けた高級な革張りの椅子のセットの話に入ります。
その男はその椅子に空間をつくって自分が入り込むというプランを考え付いた。
最初はその方法で高級な椅子を置くような所から金品を盗もうという目的だったが、男は椅子となった自分の上に人が座るという感触の虜になる。
しばらくホテルに置かれていたが、売りに出されて買い取られた家に住む夫人に恋をしたという。
読んでいくうちにそれが自分のことだと冷や汗をかいていく作家の姿も生々しく、衝撃のラストまで作家と同じ心境を読者に与えながら引っ張っていきます。
25ページほどの短編だが、発想が怪奇すぎて印象に残る。
表題作となる「鏡地獄」は、子供の頃からレンズや鏡に憑りつかれた男の話だった。
万華鏡や顕微鏡、合わせ鏡の世界であそんでいるうちはまだよかったが、男の両親が莫大な財産を残して死ぬと鏡遊びの世界にさらにのめりこんでいく。
完全な球体の内側が鏡でその中に入り込んだらどんな姿が鏡に映るのかという謎を追求します。
歪んだ自分の姿がいくつも繰り返して見えるのではないかと思ったりもするが、上下はどうなるのだろう。
謎は謎のままに終わったが、暇な人間に大金を与えるとろくな結果にならないというのがよくわかった。
同じく巨大な財産を手にした男を主人公にした「パノラマ島奇談」は、男がその財産をつかって自分の理想の島をつくりあげていく姿を描いている。
人魚に模した女たちや庭園で彫像のようにポーズをとる裸体の男女、絡まり合って玉座の代わりを務める女たち。
黒蜥蜴といいこの男といい、芸術に人体を含めたがるのはなぜだろう。
「人でなしの恋」や「芋虫」、「白昼夢」に「陰獣」はどれも歪んだ愛憎に捕らわれた男女の話だ。
どれも怪奇に彩られて設定が楽しいとは思うが、危うい世界は遠くから眺めておくに限る。
妖しさに満ちた短編集でした。