- みんなの評価
2件
黒き荒野の果て
2021年アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞、3冠!
「クライム文学の新星」デニス・ルヘイン
裏社会の元凄腕ドライバーが
家族のために引き受けた最後の仕事――
米国南部の町で自動車修理工場を営むボーレガード。
裏社会で語り継がれる伝説のドライバーだった彼は、足を洗い家族とまっとうに暮らしていた。
だが工場の経営が傾きだしたことで運命の歯車は再び狂い始める。
金策に奔走するボーレガードに昔の仲間が持ちかけてきたのは宝石店強盗の運転役。
それは家族を守るための最後の仕事になるはずだった。
ギャングの抗争に巻き込まれるまでは――。
黒き荒野の果て
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
黒き荒野の果て
2022/03/28 23:45
新時代のクライムノベルの金字塔。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
こう生きたいと願っていたにも関わらず、気が付けば最も忌避すべき道を歩んでしまっている。
本作は、なりたい自分となりたくない自分との狭間で苦しみ抗う物語だ。
主人公のボーレガードは、愛する家族のため金を工面する必要に迫られる。
そのため。かつて足を洗ったはずの裏家業に一度だけ戻ることを決意。
しかしその仕事が思いもよらぬ結果となり事態は悪化の一途を辿る、というのが本作の大まかなストーリーだ。
そう、ストーリー自体にこれといった目新しさはまるでない。
しかしそれでも読ませる。
卓越した人物描写がリーダビリティとして機能しており、常にアクセル全開の物語に振り落とされないよう私たち読者はしがみつく他ない。
どこかで見たような設定だと既視感を抱かせるのも束の間、読み進めるにつれ、この物語がどこに行き着くか見届けたいと渇望せずにはいられなくなるのだ。
卓越した人物描写の代表として挙げられるのが、ボーレガード。
彼は、良い父親でいることと裏家業に手を出す自らの二面性に苦悩する。
自身の父親の幻影に囚われている彼は、裏家業に手を出すことは家族のため暴力に引き寄せられてしまうのは血のせいだと、自分に言い聞かせる。
自分には選択肢などない。
裏家業で稼ぐことでしか家族を救えないのだ、と。
確かに、過酷な環境や劣悪な幼少時代が鎖となって彼にまとわりついているのは事実。
しかしそれでも最も大きな鎖を身に着けることを選択したのは彼自身なのだ。
そうやって選択肢は一つしかなかったのだと自分に言い聞かせ続けた結果、過去の呪縛に同化してしまい、取り返しのつかない事態へと物語は進んでいく。
家族にとって良い父親であることと、家族を危険に晒す裏家業で稼ぐこと。
相反する2つの立場を両立できると信じて疑わないボーレガードの姿を通して、暴力の虚しさが全編に渡って漂っている点も特筆に値するだろう。
手に汗握る映画顔負けのカーアクションや鬼気迫るリアリティ溢れるバイオレンスシーンは、本作のハイライトではあるが爽快感を味わうために描かれているのではない。
本作では暴力や略奪を決して美化しないのだ。
暴力と貧困、そして略奪が絡み合った負のループへの諦観と憐れみが常に付き纏っている。
過去のクライムノベルの換骨奪胎に見事成功した本作。
文学性とエンタメ性の両立をも難なく達成している。
数々の受賞歴からも、本作が如何に優れた作品であるかは分かっていただけるだろう。
クライムノベルの新たな旗手の誕生だ。
2024/08/24 22:45
色々な問題が…
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
過去の犯罪という問題や、一度だけという言い方にも…。そして、今は穏やかに子どもたちと暮らす男の葛藤……とかで、読んでいて、現在、米国南部の町で自動車修理工場を営むボーレガードに、同情せざるを得ないような状況でした。