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9件
KING OF BANDIT JING
著者 熊倉裕一(著)
鉱石城市ツァリーヌにあるという、星とも交信できる巨大電話「へびつかい座ホットライン」。幼きジンとキールが狙いをつけたのはこのお宝だった!謎の郵便配達ポスティーノの助けを借りて、お宝目指して、街を縦横無尽に駆け巡る!!>町全体が「神躯」と呼ばれる生命体となった「神脳都市ラスティネイル」。潜入したジンを排除すべく、凶悪な番犬役「スピリトゥアーリ」が立ちふさがる!
KING OF BANDIT JING(7)
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2019/10/18 00:28
この評は称賛に値しない・・・
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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
泣いても笑っても刊行されているのは本缶が最終。
この後に『Q&A』の連載を開始するも三話ほどで休載している上に、掲載誌も休刊してしまったため今後も出版される事はないだろう。
作者の活動再開と新作を目にする機会を望みたい。
さて、本編の大まかな着想はレメディオス・バロの絵画「大地のマントを織りつむぐ」と、挿絵として使用しているトマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』とも読める。
競売ナンバー49は文章こそ平易だが、様々な読み方ができ謎も多い点で本作と共通する部分がある。
バロの挿絵も太陽がささない不透明な陰影が多く、細く独特の線を危うい均衡で保っているのも偶然ではないだろう。
併せて連載の数年前に執筆された小森香折『ニコルの塔』、こちらもバロの絵画から着想を得ているが、ピコンの造型に深く影響を与えているのは間違いなさそうだ。
霊廟に残された骸とぐるぐる模様のコートは誰の物なのか。ジンの一族や先代の王ドロボウということなのか。
もっともこれに関してはジンの正体が語られておらず、来歴も不明なため掘り下げても仕方のない部分だと思う。ジンと王ドロボウに関する謎がまたひとつ増えた、程度の話かも知れない。
いまひとつは、ジンの肉体は物理的な死を迎え例のコートはそこに残り、霊だけが動いているとも解釈できるのだが…。
グリルパンツァー『接吻』の替え歌にもある通り、あれこれ深読みするのも狂気の沙汰かも知れない。
ここまでだらだら書いた評をお読み頂いたあなたは称賛に値する。
その貴いお時間は王ドロボウが華麗に盗んで行きました・・・あしからず。
2019/03/21 01:47
ヒップがホップ!
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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
音楽興行と楽器製作を生業にするメリィ・ウィドウの街。
過去には凄惨な戦の経験が有ったというが…。
キール曰く「ヒップがポップ」なアリーゼ、ホットパンツが際どくて無駄に露出が多い。
エギュベル、バーディネ、そして“じーじ”、アリーゼの祖父だけ名前が判然としない。
音楽院で密かに行われた殺し、身体が音符に還元されてしまっている。モチーフはJJ・グランヴィルの末期の作から。
邦題「生命を与えられた楽譜」を始め、シュルレアリスムの先駆けとも評されるあたりの作品群。
絶妙なトーンワークと遠景を中心に切り取ったような描画は、細部まで密に描かれているが不思議と見づらさや分かりづらさは感じさせない。
画法、話法とも突出している。
インビジブルは神器そのものだが、奏者を選び扱いを誤ればたちどころに破滅的な結果に至るのは神話や伝承では普遍のもの。
伝承上のそれと決定的に異なるのは、人の手で作り出されたという点だろうか、アリーゼ自身も大量破壊兵器の一部品として育てられた訳で、なかなか酷薄な話である。
途中、バーディネと周辺の読解困難なやり取りがあるが、音符表記フォントに対してキーボードをローマ字打鍵したもので七割くらいは解読可能である。
もっとも全く読めなくても筋を追うのに支障はない、このバランスの取り方が秀逸だ。
一応ジンの予告状は「sousinnki itadakimasu oudropbou」、マスターに苦労した言う通り、つづりを少し間違えている。ご興味があれば頑張って解読して頂きたい。
ディジタル作画ならではの演出とも言える。
移行に際して絵柄が変わってしまう漫画家も多いが、難なく使いこなしているようにも感じられる。
グラデーションや中間パターンが出しやすいからと、多用し過ぎてしまう例も多い。
もっともキールの意匠がどんどんイカツくなっていく通り、目が追い付かないだけの可能性もある。
アリーゼは他の人物よりも等身も露出も高い分、悪い意味で肢体バランスの崩れが目立ちやすい。
今考えれば、これが休載へ至る前触れだったとも考えられるのだが…。
しかしながら陽気な即興合奏のすぐ隣は破綻と狂気に支配された無音の世界。兵器発展が日常を豊かにしてくれた逆説も考えるとうすら寒いものがある。
2019/03/03 03:43
極上です!極上です!
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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
青年ジン三缶目。
本作は「白夜の砂漠」と王の帰還を待つコロネーションが舞台。
大胆な余白と緻密な描線のバランス、乾き切った灼熱の砂漠にマッチした描写は圧巻そのものである。
グレナデン一行が運ぶ千年シチュウの食材たち(ほぼ小鬼の類だが)も、いかにも熊倉作という特徴を備えていて大変魅力的。
しかし、この世界は訳が分からない。
「白夜の砂漠」を字面通りに解釈すれば、陽が沈まない事になる。
実際に砂漠の上空には人工衛星様の幻灯装置が浮かんでいる通り、太陽と同じ様な光源は多数存在している。
砂漠には人工的な器物と思われる影がいくつも落いているが、なにかの意図を持って打ち上げられたようだが詳しくは分からない。
砂漠を抜けると寒々しい月夜が待つ。
「太陽蘭の実」を三日月の夜に調理するのは「夢魔のレシピ」だそうだ。
夢魔は淫靡な夢を見させるそうだが、こちらの小悪魔には掛かっていないようだ。
どちらかというと、バロの『夢魔のレシピ 眠れぬ夜のための断片集』に収録されている散文詩にいくつか近いものがある。
また、彼女が表紙を手掛けたマルケス『百年の孤独』(百年⇔千年の相違はあるが)も読んでおいて損はない。
三日月の夜に限って五臓を裂いて六腑を溶かすとされたのも、陰陽五行との相関から無理に考えれば、それまでは暦がなかったのかも知れない。
さて、千年シチュウの鍋で煮られている竈君スピンドル。
こいつの熱視線から逃れてたどり着いた無人の地下スタジオでは、サム・クック『a change is gonna come』の替え歌が流れている。
彼(王)は川のそばで生まれた、神はおっしゃった、とても長くかかると、だが王は死ぬのが怖い(※)兄のもとへ行った、兄に尋ねた、曲がった膝を下ろして…、分かってる、いつか王がやってくる、分かってる…♪くらいの意だろうか。
※元の歌詞では、ここに「空の向こうになにがあるか知らないから」といった詩が入る。
蒸発王と家臣達は、なにかの手違いで宇宙から落ちてきた存在だったのかも知れない。
先進的な科学を持ちながらも、地上では生死をどうにもできず不幸にも王は死没してしまう。
万能であるはずの王権が、生死も自在にできない事を公言する事はできず、残された機械は今も王が存命であるかのように振る舞っている。
それももはや忘れ去られ、いつしかシチュウを千年に渡って煮込み続ける事だけが最優先の課題となり果てた。
調理される寸前のジャックオランタンも「翳(かげ)なき王は宇宙(そら)より還る♪」と歌っている。
翳は“かげ”よりも“かざし”や“さしば”と読むと分かりやすい。
復活を遂げた王はもはや代役ではないから、顔を隠したり帳を立てる必要はないのだろう。
哀れ、宇宙服の忠犬達は母星への帰還もかなわず餓死するはめに。