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藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE
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藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE
2025/04/26 13:11
作家を通じて藤子・F・不二雄の魅力を再確認
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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤子・F・不二雄はやはり面白い。そして、プロの漫画家はそう見ていたのか、と新たな視点が得られる一冊です。
少し前に鳥山明氏も鬼籍に入りましたが『Dr.スランプ』の連載前「わし『キテレツ大百科』みたいなのが描きたい」と述べていた事を思い出しました。千兵衛博士を主役に毎回発明品で大失敗をする、というあらましだったそうですが、編集の鳥嶋氏が説得してアラレちゃんが主人公という形に落ち着きましたが、F先生の薫陶や影響を受けたというエピソードはこれでもかというくらいに落ちています。
本書ではそれぞれの漫画家が思い入れの深い藤子F作品を取り上げつつ、作家自身も藤子Fのキャラクターを用いて短編を仕上げています。誰もが知るキャラクターを自由に使えるうれしさ、同時に大作家と同じ紙面に並び漫画家・作家として評される緊張感と恐怖、そうした思いが交錯しているように感じられます。
さて、どの漫画家も挙げていますが、藤子・F・不二雄と言えば「SF」でしょうか。SFと言えばサイエンス・フィクションですが、ハードとか難解といって接頭辞が付いて回り、どうしてもイカツくて硬いイメージがついてまわります。
もっともSF作家も意地悪をしているわけではなく、安易に譲ると物語の骨格が台無しという事もあるので難しいところです。正確さと分かりやすさは背反します。細部を削って写真ならばピンボケやトリミングをして情報量を減らせば分かりやすくはできますが、肝心な点が欠落してしまいかねない危険もはらんでいます。
藤子・F・不二雄の作が特に秀逸なのは、科学的数学的な解説を省いて(作者本人は内実をわきまえているのがすごいところ)起こりうる事象をそのまま漫画として描いてしまうところでしょう。目には見えないけれども確かに存在するモノは数多くあり、それらを視覚的にその通りに再現してしまうのですから、漫画といえど侮れない部分があります。奥浩哉氏のインタビューでも「SFの概念にショックを受け」、今井哲也氏が「SFというものの原体験」と書いていますが、難解や複雑といったイメージを取り払うような入口を作ってくれたのは事実です。そして、読者にも具体的なイメージを想起させてくれたお陰で、後につながる作家や漫画家も小難しい理屈を抜きに、より複雑で広がりある作品世界を作れるようになったのではないかそう考えています。
末尾に掲載された吉崎観音氏の『時空の島にて』では、若き日の藤子不二雄と邂逅を描いています(連載の合間をぬって各国への取材旅行へ出かけていました)。時間軸は昔なのに、どこか未来への展望を感じさせる不思議な仕上がりになっています。
昔話なら、昔々あるところに~、いまはむかし~、と始めれば突拍子もない超現実的な展開でもすんなりと受け入れられてしまいます。その未来版とで言えばいいでしょうか。不思議なお話や実在しない道具もそれとして受け入れてしまう。作者本人は『ドラえもん』の連載中「ぺんぺん草も生えないくらい描き尽くしたい」と抱負を述べていますが、後に続く作家が大勢育ち、実に豊かな土壌を作り上げてくれた。そんな想いを新たにさせられています。