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ウは宇宙船のウ
著者 萩尾 望都
ぼくたちはロケットが大好きだった。土曜日の朝の宇宙空港、爆音とともに大空へ消えゆく光点。いつかあのロケットで星の海を渡っていくことを、ぼくたちはずっと夢みていたのだった …。少年たちの宇宙への憧れに満ちた表題作をはじめ、深海の闇にまどろむ恐竜を100万年の時を越えてよびさます「霧笛」、万聖説の宵は妖魔たちの饗宴「集会」など、レイ・ブラッドベリの傑作短編を萩尾望都が描く、珠玉のSFポエジー全8編。
ウは宇宙船のウ
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ウは宇宙船のウ
2002/10/11 00:21
「生と死」を叙情を持って表現するもの同士の「他流試合」
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:じゃりン子@チエ - この投稿者のレビュー一覧を見る
優れた原作を優れた描き手が映像化する、という行為はどこか「他流試合」を思わせる。それが、まるで異なる表現方法を選んだ人間同士の対決のように写るからだ。その斬り結びの間に生まれる緊張感は、原作に対する敬意と同時に作家の飽くなき挑戦心を感じさせる。「ウは宇宙船のウ」は、萩尾望都がSFの巨匠レイ・ブラットベリに正面から斬り結んだSF短編集である。
表題作は、宇宙飛行士志願の二人の少年の物語。少年の視線つまり、夢というフィルターを通した宇宙の透明さと鮮烈さが美しい。そして、夢の実現と共に訪れる少年期の終わりが、いつもの萩尾望都以上の切なさと静けさを持って描かれている。また、「半神」の戯曲化の際に野田秀樹が引用した「霧笛」も収録されている。戯曲を読んだ方、舞台を観た方は是非。
そして傑作「びっくり箱」。舞台は小さな塔を思わせる閉じた家。その家が世界の全て、と認識している少女の話。哲学的なテーマを内包した物語を、螺旋階段・びっくり箱から溢れるリボン・割れる硝子など、抽象的なモチーフであざやかに表現している。「抽象的なものを映像化するのが得意」というマンガの特性が、作品の構造やセリフと見事なまでに合致している。不思議な読後感が心地よく、何回読んでも飽きない。わずか33pの掌品だが、読み応えは抜群だ。
ブラッドベリという作家のことを、私は全く知らない。が、萩尾望都が彼に惹かれた理由は推察できる。この本に収められた作品からは、死や、成長、愛について書くことで生きることの哀しさ、美しさを書くブラッドベリの姿勢と、その姿勢に対する萩尾望都の深い共感が読みとれるからだ。同時に、そのあまりに美しいセリフと情景への、驚嘆と嫉妬も。切なく、美しい筆致と言葉が胸に胸染みる傑作短編集。
ウは宇宙船のウ
2001/12/02 21:41
ブラッドベリ原作。不思議な味わいのある短編漫画8編
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikako - この投稿者のレビュー一覧を見る
二人の少年の宇宙飛行士への夢を描く「ウは宇宙船のウ」、地中から助けを求める女の人の声が聞こえる「泣きさけぶ女の人」、灯台の霧笛がはるか長い間ひとりぼっちだった者を呼ぶ「霧笛」、思い出の中の少女が無言で呼びかける「みずうみ」、日常にひっそりと忍び寄る侵略者「ぼくの地下室においで」、数十年に一度の魔物の集会での孤独な少年を描く「集会」、少女と母だけの小宇宙「びっくり箱」、父の夢と母の切ない思いを見つめる少年「宇宙船乗組員」。
ストーリーで語りながら詩のような世界です。心の中に押し寄せる波のようなイメージの絵が素敵です。物憂げな雰囲気のものが多く、例えば表題作はわくわくするような憧れを語りながら非常に寂しげな雰囲気に包まれています。
一番のお気に入りは「びっくり箱」。母親は娘を家から一歩も出さずに育てますが、閉じ込められている風には見えず「小さな世界」が作りあげられています。窓から見える森、その向こうは死の世界であると繰り返し少女に教え込んでいるのですが、少女には死の意味がわかりません。少女の持つ死のイメージと、宇宙が宇宙を内包するような感じが面白いです。螺旋階段を上から見下ろす構図とかバルコニーに続く階段など、建物内部の巧みな絵にはいつもながらホレボレします。