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棒がいっぽん
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棒がいっぽん (Mag comics)
2005/12/18 17:45
逸品集
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ユー・リーダーズ・アット・ホーム! - この投稿者のレビュー一覧を見る
寡作な、本当に寡作な高野文子さんの1995年出版のこの作品集には、’87年から’94年のあいだに、大切に、ていねいに描かれた作品が6本収録されています。帯には「昭和43年6月6日のお昼ごはん、覚えていますか?」という文章が書かれていましたが、これは、最後に収められた「奥村さんのお茄子」という、ものすごく(!!)おもしろい作品に関係していることばです。とにかく、やさしくて、ほのかにせつない物語あり、楽しくわらえるものあり、雑誌に連載されていた4コマあり、というヴァラエティに富んだ内容の上に、そのどれもが傑作という素晴らしさです。
とにかくどれをとってもすごいんだけれど、この作品集の中では1番最近作の「奥村さんのお茄子」の完成された世界。上からも下からも右からも左からも、近くからも遠くからも眺めることのできるひとつの宇宙が描かれているようです。絵も構成も、3Dのように自由自在で、かなりかなりダイナミックかつ自由奔放な展開も、素晴らしく自然にたんたんと流れていきます。高野文子さんにしか描くことのできない、特別な世界です。どの物語を読みおわってもなんだか思いが残ります。そして、こういう描き方があり、それが実現されてここにあるという誇らしさ。
棒がいっぽん (Mag comics)
2006/05/05 07:21
<よき記憶>を持つ者は幸いなり
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
「黄色い本」(講談社)の迫力に気圧されて、同じ作者の別の作品にも触れてみたいと考えて手にした一冊です。
87年から94年に発表された6作品が収録されています。一言では形容しづらい不可思議な手触りを感じさせる作品がほとんどです。
私が最も気に入ったのは次の二編です。
「奥村さんのお茄子」
1968年6月6日のお昼に何を食べたのか思い出してほしいと若い女性に懇願された奥村さん。突然の奇妙な願い事に戸惑いながらも30年前のお昼ご飯を思い出そうとする。そしてそんな質問を投げかけた女性というのが、そもそも奇妙奇天烈な素性の訪問者だった。
想像力の針が振り切れてしまうほど特異な状況設定が大変魅力的で、バカバカしさと切なさがないまぜになった感覚が心に広がる、味わい深い物語です。
「美しき町」
高度成長期の日本のとある町。新婚のサナエさんとノブオさんがアパートへ越してくる。隣近所の住人がすべて同じ工場に勤める労働者一家というそのアパートで、二人は決して豊かではないけれど濃密な時間を過ごしていく。
長い人生において日々起きる出来事はそのどれもが劇的だったりロマンチックだったりするわけではありません。昨日と変わらぬ今日や明日が続くのが当たり前です。
この物語の最後でサナエさんとノブオさんは思わぬ共同作業の末に朝まで一緒に過ごすことになりますが、それとて二人の人生を大きく変えるような出来事とはいえないようなものです。
ですがそれでも、若い二人は30年後にもこの夜のことを必ずや思い出すことでしょう。二人だけのかけがえのない時間として。そしてそうした時間をともに過ごした<記憶>が、きっと二人をこの先も温かく包み続けるはずです。
<よき記憶>こそが、病める時や貧しき時などギリギリにある人間を支えることができる。そう信じる私にとって、<記憶>をめぐるこの二編はとても心打つ作品なのです。
棒がいっぽん (Mag comics)
2006/05/04 21:35
だから、高野文子を読みたくなるんだ。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高野文子さんの漫画について、すでに多くの人が語られていることでしょう。寡作にもかかわらず、これだけの人に支持され続けるという人も珍しいのではないでしょうか。そのシンプルかつ完成された構図、独特の雰囲気をもつストーリーなどなど、その魅力もいろいろあげられているようです。
私の場合、「小さいところにも手を抜かない」という部分を見つけては喜んでいます。たとえば、「るきさん」が読む本のカバーが、「文鳥堂」のそれのパロディになっているところなど、読み返す楽しみがあります。なにせ、武者小路の「よく味はう者の血とならん」が「よく噛んで食べよう」になっているのですから。きちんと漫画になっています。
そして「小ささ」といえば、この作品集の「東京コロボックル」。佐藤さとるの「誰も知らない小さな国」や「木かげの家の小人たち」に親しんだことのある人なら、とても身近な存在でしょう(本作品でも参考文献としてあげられています)。そんなかれらが、平成の東京でどのような日常生活を営んでいるのか、を解説してくれます。ちゃっかり電化生活をおくっていたり、エコロジーに走ったりする人もいます。どうやら通販まであるようです。
そういえば先の二作品は、戦争をはさんだ時代設定でした。今となってはだいぶ昔の話になるのですから、それくらいの変化があってもいいのでしょうね。