シャーロック・ホームズの事件簿
著者 コナン・ドイル (著) , 深町真理子 (訳)
ベーカー街221Bに持ち込まれる様々な難事件。名探偵ホームズは、いま鮮やかに退場する。「読者諸君、いよいよこれでシャーロック・ホームズともお別れだ!」
シャーロック・ホームズの事件簿

目次
- 高名な依頼人
- 白面の兵士
- マザリンの宝石
- 三破風館
- サセックスの吸血鬼
- ガリデブが三人
- ソア橋の怪事件
- 這う男
- ライオンのたてがみ
- 覆面の下宿人
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《うさんくさい》ことが魅力の名探偵とも、これでお別れ
2002/03/01 00:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集。全十二作。
一八九二年の『シャーロック・ホームズの冒険』以来、本作が上梓される一九二七年まで、実に三五年もの永きにわたって発表され続けたホームズの冒険物語は、四長編、五六短編、全六〇作に及ぶ探偵小説の金字塔である。
本作は、ホームズ譚を締めくくる第五短編集であり、作者ドイルのまえがきにあるように、「読者諸君、いよいよこれでシャーロック・ホームズともお別れだ!」となる最後のホームズ譚。
内容はとやかくいうまでもないが、深町眞理子による翻訳、ストランドマガジン掲載時のイラストを配した構成、有栖川有栖によるあとがき、日暮雅通による解説など、ドイルの没後六〇年が経ち、ようやく出版することができた創元社の気合いまでもが感じられる、素晴らしい一冊。
以下、特に素晴らしいと思う作品の紹介を。
『ガリデブが三人』
同じガリデブ性の男性を三人集めれば、巨額の遺産を分け与えるという、アメリカの富豪が残したという奇妙な遺言。ホームズは、我が家を小さな博物館としている老ガリデブ氏、アメリカからやって来たという若いガリデブ氏と知り合い、事件に関わっていく……。
冒頭にドイルの奇想が発揮され、最終的には意外な結末が明らかとなる、名作『赤毛連盟』と趣向を同じくする佳作。
ホームズが見せる友情のシーンは、その珍しさからも、探偵の人間性を描いたという点においても、ファンの間では評価が高い。
『ソア橋の怪事件』
石造りのソア橋で死んでいた異国出身の妻は、自分の愛する女性によって殺されたのではない。多大な影響力を持つ富豪が、自らの妻を殺したとされる家庭教師の女性を救うために、ベーカー街を訪問する。
素晴らしいトリックは、他の作家によるものの焼き直しであり、異国の女性に対するドイルのイメージにも首を傾げざるを得ないが、明らかに犯人と思しき女性の窮地を救うというホームズの活躍は、ヒーローとしてなかなかなもの。
冒頭の「チャリング・クロスにあるコックス銀行の金庫室のどこかに、長旅に痛んだ、がたがたのブリキ製文書箱がひとつ、おさまっているはずである」という文章は、シャーロキアンのもっと多くのホームズ譚を読みたいという願いをかなえる、重要。この一文によって、ホームズの語られざる物語が存在しているということが、証明されるからである。
『ショスコム・オールド・プレース』
身体の弱い未亡人は、毎日、決った行動を繰り返していたのだが、ある日を境に、その生活がどんどん乱れていく。彼女に使える人物からホームズへの手紙によると、会話はおろか挨拶さえしなくなり、可愛がっていた犬に吠えられ、兄からも冷たい態度をとり続けられているという。
日常の最中に、ささやかな非日常が垣間見られることから、事件の真相を追及していく、ミステリの黄金律ともいうべき構造によって書かれた作品。タイトル、ホームズとワトスンが交わす会話、事件の真相など、どれをとっても素晴らしい。
『引退した絵の具氏』
シャーロック・ホームズを訪れた老人は、チェス仲間であった友人に、若い妻と有価証券などまでも奪われてしまったという。姿を消してしまった彼らの捜索を依頼されたホームズは、ワトスンを依頼人の住む家に派遣する。
謎の人物の登場や、ささやかな違和感から事件の真相が明らかとなる点、解明までの論理など、本格ミステリー的な作品である。