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電子書籍
忍びの女(上)
著者 池波正太郎 (著)
豊臣家の猛将・福島正則の前に現れた徳川方の女忍者・小たまは、正則を籠絡し、巧みに城内に入り込んだ。探索をはじめた小たまは、武辺一方の正則を次第に愛しく想うようになる。豊臣...
忍びの女(上)
忍びの女 新装版 上 (講談社文庫)
商品説明
豊臣家の猛将・福島正則の前に現れた徳川方の女忍者・小たまは、正則を籠絡し、巧みに城内に入り込んだ。探索をはじめた小たまは、武辺一方の正則を次第に愛しく想うようになる。豊臣秀吉亡き後、諸大名は自らの野望を抱き覇権をめぐる戦いは必至。ついには関ヶ原での天下を分ける決戦へと向かうのだった。
目次
- 女の肌身
- 朝 靄
- 足袋師の娘
- 風 雲
- 甲賀・伴忍び
- 争 乱
- 石田屋敷
- 弥五兵衛と権左
- 岩根小五郎
- 煮つまった事
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紙の本
奔放な甲賀女忍び小たまの母性と、単純かつ純粋な福島正則の人間性と悲運の生涯を描く。
2010/09/19 14:19
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
■あらすじ■
秀吉亡き後、徳川家康の存在感が増すなか、福島正則は領内で乱暴されかかった女を助けた。
しかし妻の反対で側室も持てない欲求不満と、その女のあられもなく気を失った姿とで、彼女を抱いてしまった。
再び抱かれることを求める彼女から離れられなくなった正則は、その女が徳川方の甲賀の女忍び小たまとも知らず、彼女の望むまま清洲城三の丸の侍女として召し抱えた。
正則は、本丸に忍んでくる小たまを不思議がるものの、疑いはせず、彼女の身体を求める。小たまは、そんな正則が『可愛ゆい』と思うようになった。その一方で、清洲城下に足袋師として暮らす甲賀忍び才兵衛とともに、福島家の内情を甲賀の頭領・伴長信へ報告しているのである。
やがて石田三成と、加藤清正や福島正則ら武断派の大名たちの間が騒がしくなり始めると、それに乗じて徳川家康の野心が露わになりだした。
そして小たまは、やがて起こるであろう戦に『戦さ忍び』としてはたらくために、清洲城から消えた。
■書評■
本書は、秀吉の死から大阪の陣、福島正則の死までを時代背景に、奔放な甲賀・伴忍びの女忍者小たまを主人公として、徳川方の忍びの視点で物語を描きつつ、福島正則の視点で、彼の人物ともの悲しい最後までを描いた作品でもある。
この作品には元となっている「霧の女(黒幕に収録)」という作品がある。
本書と短編作品「霧の女」の内容はほぼ同じであるものの、比較的小たまと福島正則の精神的関係はあっさりとして描かれた「霧の女」に対し、本作品ではその内容を昇華させ、福島正則の悲運や単純かつ純粋な人間性と、自分を求める正則を『かわゆい』と思い、その行く末を心配する奔放な女忍び小たまの母性を濃厚に描きだした内容となっている。
そのため福島正則や小たまの人間性と、二人の奇妙なつながりに焦点を当てたような作品となっており、他の忍びものの作品に比べると、緊迫した忍びの戦いは少ない。
しかし、その数少ない忍びの戦いの一つ、池波正太郎の忍者ものではおなじみの、真田忍びが東軍の最前線赤坂を目指し長良川渡河の家康を襲撃する場面は、何度読んでも手に汗握る。
この場面は「忍者丹波大介」や「真田太平記<七>関ケ原」では家康を襲う真田忍びや丹波大介の視点、本書では家康を守る甲賀忍びの視点で描かれており、併せて読むとより物語が楽しめるだろう。
物語は後半になると、主人公が福島正則ではないかと思われるほどに、福島正則の後悔(徳川に味方せずに、秀頼の元で戦えば良かった)、幕府に追い詰められていく福島家、信濃に改易された晩年の正則が描かれており、落日していく福島家がもの悲しく伝わってくる。
物語の最後に、正則と小たま、二人だけの場面を用意したのは、寂しい最後をむかえる福島正則への池波正太郎の『はなむけ』のような気がした。
ところで作中に、正則の晩年の屋敷跡を訪れた著者の感想や、改易後の領国で正則が、川の氾濫に苦しむ領民のために堤防を築き、『大夫の千両堤』と呼ばれるようになった、など民政に尽くした挿話や、八丈島に流された宇喜多秀家に、彼の故郷広島・三原の酒を分け与えた家来を褒める人情味溢れる挿話が語られている。
これらきっちり描かれた正則の最後を読んで、悲運の猛将福島正則最後の地を訪れてみたくなった。