がディック作品に涙など必要ない、とわたしは言った
2003/09/29 22:34
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アイデンティティ喪失と、それを奪還するための主人公が不条理な戦い
を生き抜くディック屈指の名作である本書は、ディック作品お約束の
クールでハードな展開にもかかわらず不思議な詩情感あるいは無常感
がただよう異色の作品でもある。
誰でも15分間はスーパースターになれる、とウォーホルは言った。
このことばとあたかもクラインのつぼあるいはペンローズの絵のような
表裏一体あるいは知覚の逆転現象のごときストーリーが展開する。
あるいはシンデレラストーリーの裏返し的物語と称しても異論はでない
かもしれない。
ところが、ディック作品の新骨頂はそのような比較的単純とも思える
構造的アイデアを出発点としながら、じわじわと押し寄せる人間の存在
そのものへの問いかけへと常にエスカレートしていくことである。
本書もその例外ではないし、むしろそのテーマを深く潜行させながら
ラストまで奇妙な余韻(読んでいる内から余韻を感じ始めるというディ
ック作品ならではの優れた倒錯的展開!)を感じつつ読みとおすほかない。
かつて作家H・M氏は、ディック作品は気持ちがドロップしているとき
に読む、といった主旨の発言をしておられたがまさしく本書はそのような
ときに適すると思える。が誤解なきよう書いておかねばならないがその
ような気分のときの単純な癒しなどというものでは断じてない。
H・M氏の発言も勿論そのようなセンチメンタルな救いを期待するという
主旨ではない。
それではどういうことなのか。ここではシンプルにいいきってしまおう。
たとえつかのまの時間であるにせよ、本書を読んでいるとき人間とは?
そして社会とは? が直観できることである。
前言撤回。やはりひとすじの涙は流れる…かもしれない。
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投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
〔ジョン・W・キャンベル記念賞受賞〕三千万の視聴者から愛されるマルチタレントのタヴァナーは、ある朝安ホテルで目覚めた。やがて恐るべき事実が判明する。世界中の誰も自分のことを覚えていないのだ! “存在しない男”の烙印を押されたタヴァナーは警察に追われながらも必死で真相を探る……会心の傑作!
作者の悲観的な未来像か
2023/04/22 08:27
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投稿者:マーブル - この投稿者のレビュー一覧を見る
有名な歌手として、多くの視聴者を抱えた自分のテレビ番組を持ち成功しているジェイスン・タヴァナーは、遺伝子的に優性な操作を受けて生まれた存在。肉体的にも優れ、強い精神力を持ち、性的魅力にあふれている。が、泣くことができない。同情心が理解できない。解説で書かれているようにレプリカントのネクサスとの相似性を考えるなら、優れていはいるが欠陥があり、その行く末は決してバラ色とは思えない。これは作者の悲観的な未来像か。あるいは何者かへの皮肉なのか。
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昔ちょこっとだけSFにはまった時期があって、そのときに読んだものなんだけど、久しぶりに読み返してみました。
当時、大好きだったオザケンがこの本をすすめていたから手にとったというミーハーな理由だったんだけど、正直、SF慣れしていない頭では、ついていくのがやっとでした。
もちろん、なんかすごい小説だなぁっていうのはわかったんだけど。
で、今回。
少しは醍醐味がわかるかなーと思って読んだんだけど。
ごめんなさい。
たぶんダメです。
読者失格です。
でも、最後まで読み切らせるパワーはさすが! っていう感じ。
よくわかんないけど面白いんだよね。
なんか自ら進んで混乱したいときにはおすすめ(いや、でも本当はすごい評価も高い小説なのよ)。
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目覚めると"存在しない男"になっていた。
この恐ろしさはなんとも言いようがない。身分証明書もない。声紋、指紋、あらゆるデータがデータベースから消え失せ、誰一人として自分のことを覚えていない、いや、知らない。友人も恋人もファンも(主人公は人気タレント)、彼のことを知らず、しかも警察は彼を追う。
素晴らしい作品だった。ディックの魅力、悪夢のような混沌と、挑戦と敗北を、ディックらしくない起承転結のしっかりした枠組みで。「○○はどうなったの?」としつこく聞かれでもしたのだろうか、エピローグまでつけて。
存在するとは一体どういうことだろうか。誰かに想起されている間は、実体がなくとも存在することになるのだろか。データも他人とのつながりもない状態で、自分だけがいる、それは存在することにはならない? 「われ思う、故にわれあり」はもう現代においては通用しない。
自分の生きた証というのは一体どこにある?
本当に現在にいる自分が未来にも存在し続けなければならない?
他人の心へ同調できなければ、現在に存在することは出来ない?
他人の心を動かすことは存在理由の代用にはならない?
考え始めてドツボにはまってディックの罠にどっぷり。
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ディックなんて読んだことなくて,勝手にもっと劇的なのを期待してたけど,
よかった.特にガスステーションの場面.あのシーンは映画にしても画になるんじゃないかと,またしても勝手に思った.
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一言でいえば、難解すぎる。本書における解説を読んでやっと少し理解できた。涙を流すこと=最愛の人を失って嘆き悲しむことの大切さを訴えている…らしい。でも、これは作者ディック の生い立ちとセットでないと理解できない。ディック作の「高い城の男」を随分前に呼んだだけの自分には、ちんぷんかんぷんだった。当たり前のように設定されているSF的近未来も、ほとんど説明がないし…。SF的には主人公が陥る「パラレルワールド」の原因は、面白かったけれど。
それでもこの小説を飽きずに最後まで読んだのは、上記の主題がなんとなくでも伝わってきたからかもしれない。もう少し人生経験を積んでから読み直してみたいと思う。
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ディック作品のマイベスト。はっきりいって内容は破綻しているし、最初は主人公だと思っていた人間が途中からどうでもいい扱いになっちゃう。しかし終盤近くのシーンは胸の奥底にこびりつく。当時のディックが深い悲しみと寂しさを実体験していたからこそ書けたのかと思う。
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とにかくタイトルがかっこいい。これ以上かっこいいタイトルがちょっと思いつかないくらい。
内容は、情報管理の進んだ近未来で、超セレブだったはずの主人公が、ある日突然自分の存在が記録からも人々の記憶からもなくなっていた、という話。
しかも、主人公は[6]という、通常より優れた素質を持つように遺伝子操作された人類を作り出す、というすでに公式には中断された国家プロジェクトにより生み出された人間の生き残りのうちの一人でだった事から、若干ややこしくはなるけど、物語の展開上、[6]であることは意外にもあまり重要さはない。
存在を失ったあとに出会う女性たちがみんな、やさぐれていて、どことなくおかしい。
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ネタばらしの所は微妙だったけどおもしろかった。
マイノリティリポートの作者さんなんだって知らないで読み始めたけど、知ってからは安心して読み続けることができた;
なんとなくおもしろい作品を書く人、残念な終わり方はさせない人って思えたから。
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有名なタレントであり、どこへいってもファンに囲まれるはずの男・タヴァナーは、実験的に遺伝子改良を施された、スイックスという特異な人種でもある。それによって得た才を存分に活かして、輝かしくも華々しい人生を送っていた彼に、ある日とつぜん訪れた異変。消えてしまった戸籍、身分証明書。彼がこの世界に存在するという、ありとあらゆる証明が、あるとき唐突に、ひとつのこらず失われてしまった。そして、彼に関する人々の記憶もまた……。
近未来を舞台としたこの小説世界では、かなり窮屈な管理社会であり、警察が大きな力を持っている。IDを持たずにうろうろしていれば、強制収容所送りになるか、下手をすれば射殺される危険もある。そんな世界で、わけもわからないままあらゆる身分証明を失って放り出された主人公は、なんとか状況を打開しようと、偽造IDを手に入れるのだけれど、その過程でさらなるトラブルに巻き込まれてしまう。
やがて警察に目をつけられ、不幸な誤解から殺人の冤罪をかけられてしまったタヴァナーは、必死で身の証を立てようとするのだけれど……
手に汗にぎる展開、見え隠れする希望と、くりかえしそれを押しつぶす絶望感。面白かったんだけども、なぜ彼が人々の記憶と記録から消えてしまったのか、という最大の謎の部分は、ちょっと解決に納得がいかないというか、腑に落ちないような感じがしたかなあ……。ラストはやや好みのわかれるところかと思います。
本筋と大きく絡む場所ではないのだけれど、終盤にひとつ、とても好きな場面がありました。主人公の罪を冤罪だと承知の上で、保身のために罪をかぶせようとしている警察本部長。罪の意識に苦しみながら立ち寄った深夜のガソリンスタンド、そこで出会った黒人男性が、彼にかけた言葉の中ににじむ何気ない情が、すごく沁みる感じがしてよかった。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『マイノリティ・リポート』に続いて三冊目のディックでした。ほかの本も、もうちょっと読んでみたいなあ。
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ディック後期の一大傑作SF。奇抜な構成と発想、彼自身の不遇を投射したかのような悲しいエピソード、そして愛についての考察。なかなかに端倪すべからざる作品でした。初めて読んだのはもうずいぶん前ですけど、その時はなんだか意味が分からなかった。大人になって読み返すと味わい深い作品。本作をより楽しむのであれば、できれば、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を先に読んでおきたいですね。
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一夜にして、自分の個人情報の全てを奪われた男の話。誰もが知る有名人だった主人公が突如意思に反して、匿名になってしまうという設定が面白かった。フィクションにもかかわらず、なぜかリアリティがすごく感じられる。
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アンドロイドは~ に比べて読みやすかった。SFものを色々読んだから多少は鍛えられたのかな。
道筋の見えない進行をする物語だった。前の会話と次の会話の繋がり方が、なんか普通じゃない。でも、確かに繋がってるし、理解もできる。センスだなぁ、って思った。
で、この独特の進行にはまった。
200ページ付近の愛についてのやり取りが印象に深い。
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SFの古典的作品、とあったので読んでみました。
正直に言ってよくわからなかったです。
こういうのは好みとフィーリングなのだろうと思います。