突飛でアットホーム
2015/11/15 23:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
書き下ろし作品3作を含む7つの短編(中篇並みの質とボリューム)を収録した作品です。初期作品はハチャメチャ展開とバイオレンスな表現が目立ちますが、本書に収録されている作品に関してはそういった特色は比較的抑えられていて、やや突飛な設定かなという程度です。
突飛な設定はむしろ、その裏側にある家族や友達との付き合いの不自由さや複雑さを表現する上でのアクセントになっていると思いました。芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」より、「やさしナリン」と「あまりぼっち」の方がその良さが際立っていて個人的には好きでした。
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書き下ろし3編を含む短編7編。
いずれも相変わらずのスピード感で、ほどよい読み応えもあり、面白い。最近の舞城の描く世界は、何気ない日常が、ふとしたことでどんどん逸脱していって、その逸脱を収束させようと頑張って思考する、という1つのパターンがある。この「逸脱」が、「やさしナリン」だったり「穴食い虫」だったり、「気持ちの搾りかす」だったり、人と人との関係性の中で顕在化するちょっとしたズレにスポットを当てて独特の言葉でその本質を追究していく感じがとても面白い。
冒頭の「ユートピア=YOUTOPIA」についての記載が、昔あった「ぴあ」の「はみだしYou とぴあ」を連想した人も多かったんじゃないかと思うが、ここにある言葉
どんなにバカップルのぼわーっと間の抜けた言葉に聞こえようとも、僕はキミトピアを信じていて、そこに住み着くつもりなのだ。
っていう境地ってすごい心地よい。
「ンポ先輩」で出てくる「怪談っぽい世界」。言葉や感情が内包する嘘や間違いから生まれる心の穴に気づいてあげられれば哀しみが減る。
すべての小説世界に共通して流れているのは、こういう「人と人がすれ違うもとになる目に見えないモノ」であろう。それを「怪談っぽい」と表現する。舞城の小説の中には、解離性同一性障害であったり、強迫神経症だったり、明らかに精神疾患を意識した人物がよく登場すると思うのだが、作者は、これら1編1編の作品の中で、その得体の知れないモノに名前を付けて「気づきやすい」ようにしてくれている。
だからこそ、この人の作品は妙にポジティブな読後感を与えてくれるのだろう、とそう思う。
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初めての舞城王太郎でしたがなかなかに好きです。
作られたいくつかの言葉が、とてもしっくりきました。
理路整然とした、でもちょっと融通のきかない感じを受ける議論が
あってとても面白かった。
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『ユートピア』を何となく『YOUTOPIA』だと思い込んでいて、大好きなあなたと一緒にいられるのならそりゃその場所は楽園だわなと考えていた。≪君とピア≫の≪ピア≫が何のことかは判らないけれど語感は明るいし何だか可愛いし。
でも君が笑って指摘する。
『ユートピア』は『UTOPIA』で、イギリスの政治家トマス・モーアが16世紀初頭に書いた小説のタイトルで、理想郷としての共産主義社会のことだし、語源としては『どこでもない場所』になるんだよ、と。
え、ちょっと、何その余計な蘊蓄。
僕は言う。
じゃあ僕のキミトピアはユートピアじゃなくてその反対だな。
僕と君が一緒にいる場所はひたすら現実的な場所だもんね。政治は常に完璧なんかとは程遠いし、人の気持ちも考えもはっきりしないし落ち着かないし、正しいも間違いも曖昧だもんね。
ふふふ、と君が笑う。あなたが言うと、現実の場所も能天気に聞こえるねえ。
まあね。
どんなにバカップルのぽわーっと間の抜けた言葉に聞こえようとも、僕はキミトピアを信じていて、そこに住み着くつもりなのだ。
わーははは。
間違いのほうが正しい答えよりも正しい場合があって、これがそうなのである。
以上(『キミトピア』冒頭引用)
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夫の「優しさ」を耐えられない私(「やさしナリン」)、進路とBITCHで悩む俺(「すっとこどっこいしょ」。)、卑猥な渾名に抗う私(「ンポ先輩」)、“作日の僕”と対峙する僕―(「あまりぼっち」)。出会いと別離のディストピアで個を貫こうともがく七人の「私」たちが真実のYOUTOPIAを求めて歩く小説集。第148回芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」収録。
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上記のほか、「添木添太郎」 真夜中のブラブラ蜂」 「美味しいシャワーヘッド」
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疲れる読書だった。出てくる人出てくる人がみな一様に生き辛そうで、それが、生真面目さゆえなのか、偏屈だからなのか、純粋すぎるのか、あるいはそのすべてなのかがよく判らず、出口のない屁理屈に付き合わされて、つい納得しかけてしまいそうになる心地なのである。それぞれの物語の主人公にうなずけることもなくはないのだが、すべてが極端すぎるというかなんというか、なのである。結局は自分の主張ばかりで、他人の気持ちを慮ることが欠けているからだろうか。誰もが一歩間違っちゃった感じで疲れるのである。自分も気をつけようと我が身を省みた一冊である。
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『煙か土か食い物』とか「熊の場所」とか、前は、舞城は、「心の形には、そうなった源がある」という立場で書いていたように思う。
それが、『ビッチマグネット』では、「源とか理由とか、ないものなのだ」という立場になっていた。
そういう、「ないものなのだ」という話を集めた短篇集が、この『キミトピア』。すごいしっくりくる話ばかりです。
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舞城王太郎の最新短編集。
相変わらず面白すぎる。
軽快な言葉遊びと少し不思議な人間たちが織り成す物語は一見ファンタジックなんだけど、実は普通に人生を送っている僕らの「生きること」「他人との付き合い方」の本質を突いてくる。
それが痛快でもあるし、図星だからこそ心をヒリッとさせられたりもする。
芥川賞の候補になった「美味しいシャワーヘッド」はさすがの出来で、舞城作品にしては漫画のタイトルやバーなどの固有名詞が連発される珍しい作品だが余計にリアリティが増す。
主人公の小澤に共感してしまった。舞城作品で一番共振できたキャラだ。
芥川賞取れてたら帯の文句も変わってただろうに。賞レースに乗るには覆面じゃダメなんだろう。
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『ユートピア』を何となく『YOUTOPIA』だと思い込んでいて、大好きなあなたと一緒にいられるのならそりゃその場所は楽園だわなと考えていた。≪君とピア≫の≪ピア≫が何のことかは判らないけれど語感は明るいし何だか可愛いし。
でも君が笑って指摘する。
『ユートピア』は『UTOPIA』で、イギリスの政治家トマス・モーアが16世紀初頭に書いた小説のタイトルで、理想郷としての共産主義社会のことだし、語源としては『どこでもない場所』になるんだよ、と。
え、ちょっと、何その余計な蘊蓄。
僕は言う。
じゃあ僕のキミトピアはユートピアじゃなくてその反対だな。
僕と君が一緒にいる場所はひたすら現実的な場所だもんね。政治は常に完璧なんかとは程遠いし、人の気持ちも考えもはっきりしないし落ち着かないし、正しいも間違いも曖昧だもんね。
ふふふ、と君が笑う。あなたが言うと、現実の場所も能天気に聞こえるねえ。
まあね。
どんなにバカップルのぽわーっと間の抜けた言葉に聞こえようとも、僕はキミトピアを信じていて、そこに住み着くつもりなのだ。
わーははは。
間違いのほうが正しい答えよりも正しい場合があって、これがそうなのである。
【やさしナリン】
『これまでも嘘はついてない?』
『いや~無理。俺櫛子には嘘はつけないよ。今回マジできつかったもん。絶対ないよ』
『じゃあ、嘘はついてないけど、私に話してないことない?』
『そうよね。夫婦だもんね。性格とか性質とか、そういうことじゃないもんね、妨げになるのは。本当に困ってるのは上手く話し合えないってことでしょう?』
『どうしてそこまで…。夫婦の問題って、そこまで普遍的っていうか…』
『単純なものなのよ。そりゃそうよ。夫婦ってのはお互い話し合いながら一緒に生きていこうって契約だからね』
【添木添太郎】
『証明できないネガティブな断言なんて単なる呪いだ。』
『新一くんの凄いところは、私の病気のことを無視してるわけじゃないのに、何でもないことみたいに感じさせてくれるとこだよ』
『僕が槻子に言ったあの台詞を思い出し、泣きそうになるが、でもこれは余韻みたいなもので、本物じゃないから泣きたくない。』
『私たち、ちゃんと自分の気持ちで生きていこうね』
『うん。それ以外は嫌だよ』
【すっとこどっこいしょ。】
『なんだこいつらうぜえ♡♡♡人の困難に自分の薄っぺらいプライドかぶせてくるんじゃねえよ♡♡♡♡♡』
『ゆっくり自分の進む道考えな。考えても出てこなかったら、まあ流れに任せるのもありだけど、でも流れに任せる任せないも自分の選択だからね。変に流されたって人のせいにしないようにね?』
『暗い屋根裏部屋で金谷と俺に会話ゼロ!空気重い♡♡♡』
『アウト!アウトーッ!浮気決定!金谷もういいぞ!カモン!俺もうこれ以上見ると性的に歪んじゃいそう!!』
『別にあんたのことは好きじゃないよ♡♡♡』
【ンポ先輩】
『精神っていうのは意識と無意識を合わせた、人間の内的世界の全てを表していて、���っていうのは、気持ちと感情で動かされた言葉が作った世界のことを言うんじゃないかと…』
『…精神は頭の中にあって、心は胸の中にあると思ってます。心の働きを常に精神が受けているので、密接に結びついてるけれども、別物じゃないでしょうか?』
【真夜中のブラブラ蜂】
『それはそれ、これはこれだ。』
『他の人の普通を演じるために人生があるわけじゃありません』
『自分の愛情を証明するためのセックスなんてしたくない。そんなことしなくても判っててもらいたい。』
『私、あなたのことが好きで愛してたから純一を作ったの。私の暇つぶしのための子供なんかいらないから』
『…何で目的が必要なの?何かを生まなきゃいけないの』
『虚しくないの?網子、何にも残してないじゃん。写真も撮らないし、何の記録も残してない。スケッチもしないし日記も書いてない。何が残ってるの?』
『何にも残ってないよ。記憶も忘れちゃう。それが?』
『それが虚しいだろって言ってるの。ただ時間だけが過ぎてるじゃん』
『虚しくないよ。私は楽しんでるもん。虚しいってのは信介の想像だけだよ。人の楽しみを虚しいなんて決めつけないで』
『でも実際に何も残ってない。記録も記憶もない』
『何で何かを残さなきゃいけないの?そうしないと価値がないの?』
『私は死にたくない。自分を長い時間かけて無痛のまま殺していくようなことをしたくない。本当にこの一心だ。』
『私たちはいつの間にか、純一を育てるための装置みたいになっちゃったんだよ。愛情が、その装置の、潤滑油としてしか働かなくなっちゃってた…』
『電話を切り、私は泣く。何で泣いているのかは判らない。でも私のための涙だ。』
【美味しいシャワーヘッド】
『いなくなると困るという寂しさと、一緒にいて欲しいという愛情を混同すべきじゃない。』
『あのね、思い出とかお話とかって、結局心を揺さぶられてないと思い出せないのよ。言葉とか、風景とかもそうだね。どんなことも、単に記憶はできても、自分では取り出すことができない。思い出せるのは、心の揺さぶられたものだけ』
『…じゃあ、俺は結構、毛利に揺さぶられてるのか、な』
『私としてはね、揺さぶられなくても憶えておいてもらえるような女の子になりたかったよ』
『言葉を尽くそうとしてみて初めて、僕は苛立ち、その焦りの中で毛利樽歩の話を思い出し、心をちゃんと動かしていない者には何かを思い出すことも叶わないと知り、それが絶望になり、そして同時に大きな慰めにもなる。今悲しくて、悲しいからこそ憶えておけるのだ。』
『思い出も思いも空想も行われなかったことも秘密も、全部言葉で語られるが、言葉にされない物事もある。言葉では掬いきれない小さな、細やかないろいろだ。でもそれらは記憶に残っていないんじゃなくて言葉にできないだけで、全部僕の中にあるはずだ。あるなら、いい。なくしてしまったわけではないのだ。』
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ユートピアはYOUTOPIAではなかったのかと、アホな私はドキッとした。
この冒頭のポワーッとした感じが、とても好きだ。
舞城先生の言葉はおもしろくて、分かり易くて、語感が良くて、頭にスッと入るので、何だかテンションが上がってくる。
それで誰かに話したくなって、きっかけを作ってくれる。
書下ろしの方が好きかな。
特に「添木添太郎」と、「真夜中のブラブラ蜂」が好き。
この2作品は、私の心を抉ってきた。
進んでいくときの寂寥感というか、寂しさというか、そんなのを感じる。
あと「すっとこどっこいしょ。」
面白い♡♡♡
表紙は調布のようで、いつか西暁町も見てみたいなと思った。
ブラブラっと行ってしまいたいね。
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7編入り。それぞれに色々な意味で自分探し中。同じく自分探し中の私にはナイスなタイミングだったのかも。
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舞城ワールドでも比較的読みやすくてソフトな中篇集かな。
「真夜中のブラブラ蜂」、「やさしナリン」、「美味しいシャワーヘッド」
の拘り方はやっぱりね^^って思います。
誰かと誰か・・・それがもしかしたら自分であったとしても、
必ず交じり合わないところがあるんですよね。
その交じり合わない状態に自然に向き合える自分が
いるのか?相手はどうなのか???
分からないことだらけだから、悲しいこともあるけど、
楽しいこともいっぱいあるんだと思います。
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どんどん内容がやさしくなってきますねー。
好き好き大好き超愛してるも物凄く分かりやすく表現していましたけど、今回はさらに。
これは中高生向きかもしれないですが、読み応えあって気持ち良かったです。
舞城さんは女性一人称が巧みになってきて、谷崎めいてきましたな。
13.03.20
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今になって舞城王太郎の魅力に気付くのは、対話や行動の中で省いたり見逃したくなる心の動きを、しっかりと言葉で紡いでいるからなんだと感じる。
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7つの短編から成る。底を流れているのはいずれもYOUTOPIA。他者への現実的愛だ。妥協のないまっすぐな信念が個性を際立たせている。「やさしナリン」「添木添太郎」「すっとこどっこいしょ」「ンポ先輩」「あまりぼっち」「真夜中のブラブラ蜂」「美味しいシャワーヘッド」。タイトルを見ただけで期待感が喉元までせり上がってくる。いずれも玄妙なる深い意味がこめられているが、自分の想像するイメージとは悉くかけ離れており、どれもこれも綺麗に想定を裏切ってくれた。展開の飛躍はかなり抑制が効いており洗練された仕上がりにも好感を抱いた。芥川賞候補に4回ノミネートされる理由も判れば選に漏れる理由も判るような気がする。自分はとことん好きだ。
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やっぱり舞城王太郎大好きだー!!と再確認。
「やさしナリン」「すっとこどっこいしょ」「美味しいシャワーヘッド」がよかった。言葉にはしないような、そしてそれゆえに記憶に留められず日々頭の中を過ぎ去っていく細かな感覚が再現される感じ。
「すっとこどっこいしょ」のニンニンとか♥♥♥とか、舞城さんのこういう文体のニュアンスもすごく好き。マスールっていわゆるキラキラ?な名前なのに読んでるうちに「ますぅ」ってカワイイなぁと思ってしまって面白い。
「美味しいシャワーヘッド」のラストは一冊のラストに相応しく印象に残った。