頭取無惨
著者 江上剛 (著)
会社で戦え、社会で生きろ。6人の銀行員、それぞれのレジスタンス。大手銀行広報部長、南雲龍一、45歳。「この人について行こう」そう、彼が心に誓った頭取をあまりにも急すぎる死...
頭取無惨
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商品説明
会社で戦え、社会で生きろ。6人の銀行員、それぞれのレジスタンス。大手銀行広報部長、南雲龍一、45歳。「この人について行こう」そう、彼が心に誓った頭取をあまりにも急すぎる死が襲った。しかもそれは銀行の経営破綻が決定した夜のことだった――。銀行のため、頭取のため、何が最良の選択か。組織で抗い、金融業界に生きる、6人の銀行員たちが選んだ、それぞれの道とは。(講談社文庫)
目次
- 頭取無惨
- 役員寸前
- 実直な男
- 制服と成果主義
- いつかの、本番のために
- 機械の声を聴け
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銀行小説の変遷が見て取れる短編集
2008/03/16 21:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
元都市銀行支店長だった作家江上剛が書く銀行員群像である。本書は6つの短編からなる短編集である。
M/Aは産業界なら珍しくなく、ごく一般的な戦術の一つである。しかし、銀行間でこれが頻繁に行われるのは、今まで例がなかっただけに国民の間にも衝撃が走った。意外性では関東に基盤を置くA銀行と関西に基盤を置くD銀行の合併であろう。
一話目の『頭取無惨』の銀行員は、この合併後の銀行のトップ同士の確執に巻き込まれる。D銀行出身の広報部長は公的資金導入の責任をとって無念のうちに自殺した頭取との縁を忘れない。
二話目の『役員寸前』は、支店長が主人公である。同期の出世競争からは遅れを取り、人事担当役員から呼び出しを受ける。出向を覚悟していると、役員は意外なことを言う。
六話目の『機械の声を聴け』は、頭取は出てこないが、外回りを担当する支店の行員の物語である。父親は都内で板金工場の経営者だった。地元の支店に配属されると早速、親の工場が色々な意味で銀行のターゲットとなった。
昔の頭取は偉かった。大人物が頭取になった。語り草になる頭取が多かった。現在は規模こそ従来よりはるかに大型になったが、頭取の人物そのものは小型になった。金融も当然ビジネスだから、競合会社には負けていられない。油断をすれば落伍し、金融業をやっていけなくなる。
バブル景気にはそれが表面化した。皆が貸し込み、自分だけが悠然としていては事業の拡大は見込めない。だから、融資先の審査はおろそかになる。バブルでなくとも、最近の都営銀行のずさんな融資は金融業の本来の意味を忘れている。
本書は、金融業があるべき本来の姿を掻き乱す、最近の金融機関の所業を暴き出しているような気がする。昔の企業小説に描かれている銀行は、トップ・マネジメントの暗闘であるとか、中小規模金融機関の乱脈経営であるとか、ごく特殊な例をモデルに組み立てられていた。
同じく金融機関が舞台の本書では、近年金融機関を襲った大波がこのような形で末端の業務や行員を襲っていることを示しており、大変興味深いのである。官庁の強力な指導がなくなった後は、経営者の品格と能力に拠るところが大きく、それ以外は誰も面倒を見てくれなくなったということだ。