手に入れるのか、取り戻すのか
2015/09/11 16:27
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投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
第18回電撃小説大賞大賞受賞作、九丘望「エスケヱプ・スピヰド」。
両親を八洲の戦争による空襲で失った叶葉は、紆余曲折の末に彼女を助けてくれた伍長とも死別し、廃墟と化した尽天の街で二十年ぶりに目を覚ました。昭和百〇一年夏、戦争は終わったというが、尽天は未だ封鎖され、限られた食料を分け合いながら、約五十人の生き残りが、外部に助けを求めるために奮闘している。
かつて、戦略級兵器として名を馳せた鬼虫の隊長格、一番式《蜻蛉》四天の竜胆は、戦後になっても何故か街の封鎖を解くことはなく、街の外に出ることは叶わない。街には時折、戦中に活躍した機械兵が狂って暴れており、食糧や資材を調達するのも命がけだ。そんな世界において、かつて伍長の女中をしていた叶葉は、元整備兵の安藤や、探索班のリーダー格である綱島、安藤の孫娘の菘に守られながら、精一杯、自分の生きている価値を見出そうと働いている。
そんなある日、無理を言って探索班に加えてもらった叶葉は、不注意から地下深くの工廠に潜り込んでしまい、一人の少年機械兵と出会う。それは、鬼虫九番式《蜂》金翅の九曜、かつて隔絶たる戦果をあげ、そして終戦直後、《蜻蛉》によって落とされた鬼虫だった。
損傷により、行動目的の設定を自分で出来なくなってしまった九曜は、叶葉を暫定司令に設定して活動できるようにした上で、自分を修理し、《蜻蛉》に再戦を挑もうとする。一方、叶葉は、九曜を伍長の代わりの家族として扱い、彼を集団に溶け込ませることで、自分の居場所を作ろうとするのだった。
荒廃し世界と隔離された街の中で、自分の生きる意味を見つけたいと思っている少女と、失われた自分の生きる意味を取り戻したいと思っている少年が出会う。
少女は戦争の中で肉親を失い、その後、彼女を拾ってくれた伍長も戦死し、伍長の残した「生きろ」という言葉を最後の命令として必死に守ろうと、希望を失わず、周囲に明るさを振りまきながら、小さな幸せ、自分の居場所を手に入れたいと感じている。
一方少年は、やはり同じようにして肉親を失い、代わりに敵に対する復讐心を最後の記憶として焼きつけて忘れ、その後は鬼虫となってただ盲目的に敵を屠り続けた。しかし終戦でその意味を失い、新たに与えられた復讐心で今も生き延びている。それを果たした後の目的はなく、あとはただ狂うだけしかない。
そんな二人が偶然にして出会う。少女は少年を新たな家族にしたいと思い、少年はただ雪辱を果たすことを目的としながら、暫定的に少女のことを守っていくうちに、人間らしい気持ちを取り戻し、戦うための新たな意味を手に入れるのだ。
登場人物がすごく少ない。世界とかは全く関係なく、自分の周囲の出来事が世界の全てだ。そういう意味ではとても狭い物語。セカイ系とは真逆で、セカイに取り残された人々の、世界へ再度戻るための奮闘を描いている。
ある意味で箱庭の中の物語なので、悪意や策略の様な、人間の汚い部分は徹底的に排除されていて、苦しい状況なのに、人々は善性を発揮し、大きな家族の様に暮らしている。実際にはそんなきれいごとばかりではないと思うのだが、戦争の中でも善意に支えられて生きて来た叶葉に見える世界は、そういうきれいなものなのだろう。
そして二人は、世界に向けて旅立つ。それは、萬屋直人「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。」の様な旅になるのか。あるいは、ツカサ「九十九の空傘」の様な出会いになるのか、はてさて。
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戦後レトロSFラノベといったところか。
戦後からちょっと経ったゴタゴタした感じと、昭和レトロな雰囲気が妙にマッチしていると思ってしまうのは、そういう雰囲気に憧れを持ってしまっているからだろうか。
そういう雰囲気のフィクションに毒されてしまっているのかもしれないがw
内容は割とオーソドックスなお話に思う。
でも、しっかり描かれてるから、なんてことのない展開や話がいちいちグッとくる。
「いってきます」と「ただいま」は対なのだという件はちょっとキュンときたなー。
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架空日本の戦後を舞台に、孤立した生存者達のサバイバルとアンドロイド兵器の因縁闘争を併走させた異能活劇。
隔絶された空間からの脱出劇でもあるが、彼ら生存者達にとっての天敵/死神であり救世主でもある、アンドロイド達に宿る意識の葛藤も同時に描いている。
アンドロイド達は単純無垢な創造物でなく、人間として或いは軍人/兵器として生きた過去をそれぞれ持ち、その記憶を回想パートとして共有させることで、死の都市となり果てた閉息感漂う劇中の世界観を拡張している。
劇中の世界観や時代性に沿ったやや堅苦しい言い回しに若干の引っかかりはあったものの、堅実なバランスの文体は頭にすっと入りやすく、読み手の咀嚼を阻害せず最後まで読ませた点は良かった。
難点は、暴走した架空の昭和…その戦後という世界設定、瓦礫都市というSFにしては古めかしいビジュアルイメージの舞台、人工知能の自我の問題と軍人精神の相関関係、何故か昆虫をベースにデザインされたアンドロイド兵器達のパーソナリティ武装、等々。
所詮は物語の表層を彩るデコレーションの問題ではある。
が、如何に巧みな語り口であろうと、読み手をノらせてくれるかどうかとなると、本作はどうにも自分の好みを通して眺めるとミスマッチの集合体でしかなかった。
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パンクでモダンな世界観で心地のよい懐古に浸り、機械知性と少女の物語に胸を打たれ、重厚な文体に圧倒され、大迫力の空中戦に手に汗握る。大賞受賞作という期待のハードルを軽々飛び越えてくれた作品だった。
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アクションとかほとんど読まないけどこれは好きです。
うん、九曜がかわいいです。そもそもそれで手にとったし。
日常のシーンでもなかなかニヤニヤしました。
アクションシーンもどきどきして良かった。状況もけっこうわかりやすいし。
九曜が蜂とつながってるとことか帰ってきて少年のような微笑を見せたとことかも好き。
まだまだ好きなとこいっぱいあるんだけど多いなぁ。
互いに存在理由を探してるとこもいい。
最後に好きなセリフ。
「だから君は、これからは小生の為に生きろ」
映像化したの見たいです…!映画とか。
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店頭で表紙買いしたんですが、いい作品だった。
可愛いなあもう。
・・・じゃなくて、骨太な作品久しぶりに読めた気がします。
やっぱラノベはボーイミーツガールだよね。うん。
これはお勧めしたいなあ。
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さすが大賞、読み応えあり。
なんというかこう厚みというか密度というか重さというか…
とはいってもちゃんとラノベの範疇におさまっているバランス感覚とか
一言でいうと達者ですね
ラストバトルがアツいです
次回作にも期待できそう
さすがに続編はないでしょう
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中古待ち
⇒まんだらけ 367円
みんなの評価がすこぶる良いようなので。
あー、中古で見かけたときに買っとくべきだったか。
読んでみたけど、個人的な感想としては普通ー。
あまり好きなタイプの世界感ではなかったからかな。
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最近の流行なのか、萌え系であふれるラノベの中で、この作品が大賞として選ばれたことに、少し救いが見えた思いです。こういうお話が読みたかったの!
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大賞受賞作品として納得できるおもしろさがあった。
萌がほとんどなく、燃が強い作品。最近こういう作品を読んでなかったから、感動した。うるっと来るところもあり、コミカルな日常もありで読んでて飽きない。
叶葉と九曜の交流がメインで、九曜の心の変化がよく感じ取れた。
今後の二人が気になるが、なんかバッドエンドに向かいそうなので、これで終わってもらった方がいいなと思ってる。
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もっとガッツリ戦闘ものなのかと思えばそんなこともなく…ハイテクなのに古風で生真面目なのにどこか抜けていて優しい雰囲気のボーイミーツガール。でもバトルも勿論しっかりと。
文章が丁寧でとても好印象だった。このくらい読み込めるラノベっていうのも嬉しいなぁ。
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大賞であることを納得する作品だった。凄い読み応えがあったが、むしろ下手に続刊出ない方が良い部類だなこれは。仮にあるとしたら全て過去の話になりそうなタイプだ。なんか強烈に某PCゲームが頭に浮かび続けたが、しかし全然違う作品である。
あと関係ないが、この作品の大賞受賞って書いてある金色の帯の後ろ側の言葉、『灼眼のシャナ』等の著者である高橋弥七郎氏の言葉が、他作品の著者が書いたコメントとは思えないというか、完全にこの作品のキャッチコピーみたいな一行になっている。
意思《おもい》と存在《いのち》を見つけ出せ
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大きな戦争が終わり、廃墟と化した街が舞台のボーイミーツガール。
なぜ、戦争があったのか行政機構はどのようなものだったのか、詳しい説明はなく、作中に登場する最強の兵器である鬼虫についても、最低限の描写があるだけで鬼虫が作られるに到った過程なども描かれておらず、“20年前に戦争が終わり廃墟と化した街で冷凍睡眠から目覚めた少数の人々と2匹の鬼虫がいる”ということが語られているに過ぎません。
しかし、鬼虫である『九曜』と残された少女『叶葉』の物語を読む上で詳細に過ぎる世界観の説明は必要ないでしょう。
冒頭は雰囲気づくりのためか、文章が不必要かつ不自然に固いと思っていたのですが、全然不必要でも不自然でもありませんでした!
兵器である九曜が叶葉たちとの交流によって、少しずつ人間味を取り戻し柔らかくなっていくところが地の文の固さで引き立て られていて、この文章だからこそだと思うように。
なんというか、地の文の固さと九曜の生真面目さが程よくマッチしているというか…
いつの間にか叶葉に九曜が馴染んでいったように文章の固さにも馴染み冒頭で感じた違和感もどこかへ消えてなくなっていました。
九曜と叶葉、この二人の微笑ましさに恐れながらも前に進んでいく姿勢。思わず応援してしまう。
読後、すがすがしい風が吹いたような気持ちで本を閉じることが出来ました。
若干のごちゃつき(エピソードの過不足など)を感じないわけでもなかったけれどデビュー作でこれだけ書けるなら素晴らしい。
次の作品も楽しみに待とうと思える物語。
とても楽しく面白く読みました。
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印象としてはそれなりに設定を凝らそうとしており、
キャラクターも一応個性は感じられます。
世界観も昭和前期の延長線上として考えている様です。
そうした流れからでしょうか、文章が些か古びている印象を受けました。
その影響なのか、読み難いと言うほどではありませんが、
読んでいて戦闘場面では余り熱が伝わってきませんし、
スピード感を欠いている様に感じました。
会話などは砕けていたり、固かったり。
兵器とされるキャラだから固くして見せているのでしょうが。。
物語も何度となく回想が挟まれ、
その挟んだ間の取り方も物語の流れを鈍らせているかと。
個々の人物の個性は知格として、
その繋がりの部分でも些か取って付けた感がありました。
面白そうな設定に期待を込めて読んでみたものの、
最後まで微妙なバランス感が拭えず残念でした。
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廃墟とメカとボーイ・ミーツ・ガールが好きな人にはたまらない一冊。王道だけど筆力があるので読ませてくれる。