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投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
「1922」と「公正な取引」の2編から成る。
前者は息子と共に妻を殺した男が辿る運命が描かれる。
ホラーのキングらしい味付けもあるが、「罪」の意識に追い詰められていく男の話。
そして、後者は「笑ゥせぇるすまん」に出てきそうな感じのブラックなエピソード。
「1922」の原題は「Full Dark, No Stars」(星もない真っ暗闇)
その名の通り全く救いがない。
気分が落ち込んでいる時には読まない方がいいかもしれない。
主人公が自分の罪の告白記を書いている、という体裁で物語は進む。
そのため、ところどころに思わせぶりな表現が出てきて、焦らされることになる。
偶然にも自分が最近読んだキングの作品は
「全ての成り行きを知っている主人公が第三者に真相を語る」
という形式で、その「手口」には慣れていたので、多少、余裕があった。
ところで、主人公の息子が辿る運命は、映画「俺たちに明日はない」ほとんどそのまま。
パロディだったのだろうか。
唯一、ニヤリとできるところだった。
「公正な取引」は「1922」より、はるかに短い作品。
悪魔(らしき者)と取引をして、自分の「不幸」を他人に移し変える話。
ただし、移し変える相手は・・・。
悪魔(らしき者)が要求するのは「魂」ではなく「お金」
しかも要求した金額は安くはないが、高くもない。「妥当」と思える金額。
主人公も悪魔(らしき者)も後から「契約内容」を違えようとしない。
また、「契約内容」は額面通りで、注意しなければならないような「落とし穴」はない。
正に「公正な取引」
だが、どこか落ち着かない感じを受ける。
それは「不幸」を移し変えられた相手がいるから。
主人公と悪魔(らしき者)が「受け取った物」と「払った物」は等価だが、「不幸」を移し変えられた相手は、どうだったのだろうか。
その「不幸」に見合うだけの「幸運」を享受していたような描写はない。
むしろ、主人公の歪んだ「妬み」の犠牲になったような印象を受ける。
一言で言ってしまうと
「他人の不幸は蜜の味」
といった感じの内容。
だから、落ち着かなかったのだろう。
どちらにせよ、この2編は共にかなり「毒」が多い。
紙の本
『FULL DARK,NO STARS』の分冊その1
2016/07/31 08:22
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
<FULL DARK,NO STARS>のタイトルで4編収録の本を日本語版では二分冊。 かつての<Four Past Midnight>みたいな形式。
キングの魅力は「大長編を読ませること」にあると思う自分としては中編では物足りないのではないかと感じつつ読んだ。
“残酷で容赦がなく、救いのない話”というのがテーマのようで・・・確かにその通りなのですが、あまり長くないせいか読むのがつらいほどでもなく、「わー、ブラックだなぁ」とどこか他人事のように読んでしまうのでした。
『1922』はまだ年端もいかない息子を引き入れて妻を殺した男の罪悪感が生む悲劇。
『公正な取引』は身近な親しき者にずっと感じていた妬みに形を与えてしまったら、という短編。
星新一なら因果応報的なラストになりそうなのになんか身も蓋もないよ!
しみじみ人の心は醜いねぇ、と思わされます。
紙の本
悪意に満ちた
2016/02/21 13:02
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
中篇集の原タイトルは「星のない暗い夜」であり、そのうちの2編が収録されている。
悪意あふれる嫌な物語ということだが、どちらも楽しく読める。
1922は、妻の資産は夫が自由にするのが当然の時代に、自身の財産を確保しようとする妻を殺して、そこから当然の報いを受ける父子の話。
公正な取引は、悪魔との楽しい取引。
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2013年5月4日読了。2013年1月刊のS・キングの最新作、上下分冊の上巻で2編の中短編を収録。私が高校生の頃から20年近く読み続けているキングもすでに65歳、往年のような圧倒的筆量・ボリュームの大長編よりも、このくらいの分量の中篇を密度濃く仕上げてくれるとファンとしてはうれしいし、読み応えがある。1992年・大恐慌の予兆漂う時代に農場を手放さないため、息子と協力して妻を殺害した男の転落の人生を描く表題作と、悪魔と取引した男とその親友の人生を描く「公正な取引」を収録。後書きには「超自然的要素を廃し、人間の闇をテーマとした作品集」とあるが、個人的には「時代・過ぎていく時間」もテーマなのだと感じた。「今」必要なパンのためにした選択が未来を歪める、という話は納得できるが、「未来のために種を蒔いた」としても、それで未来が救われるとも限らない
・むしろ現在も未来も暗黒に塗りつぶされるかもしれない・・・。神ならぬ身で行う「選択」とは、ことほどさように重いものだ。後編「ビッグ・ドライバー」も既刊のよう、近いうちに読むことにしたい。
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中編2編を収録。どうにも後味の悪すぎる「1922」は、キングの持てるそういう面を前面に出した作品。「公正な取引」は超自然的な存在と思われる何かと取引をした男の話。だけどこれ公正か?と思わずにはいられないほど、取引後の展開が容赦ない。最後にもう一度どんでん返しがあるかと思ったのに。
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中編2本
妻を殺した男が、その死体にまとわりついていたネズミに取り憑かれる話
悪魔の契約の話。末期がんを助けてもらう代わりに親友を不幸にする男。シャーデンフロイデがテーマか。他人の不幸に際限ない喜びを感じるさまが妙にリアル
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「悪事は引き合わない」を地で行く、ことごとく破綻するキツさ(いっそ早めに死ねればまだ救われたろうに……)の表題作。一方『公正な取引』は典型的「悪魔の取引」テーマかと思えば、あれ?……いいの!? というヒドい話で人が悪い。その構造上、最後まで感情移入できなくて、キング作品では珍しい。
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キングっぽいかな?キングっぽいか…。だけど、ちょっと"嫌ミス”のような。ちょっとやりすぎの感じが怖かった。
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スティーブンキングらしい、陰鬱な感じのストーリーだが
冒頭の妻殺しの部分だけでオエっとなって
ドロップアウトしそうだった。
自業自得ではあるがちょっと鬱々としすぎていてて。。。。
これと短篇「公正な取引」、主人公が本当に対照的だった
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「1922」と「公平な取引」の2編。
「1922」は、妻を殺した男の独白なんだけど…。
「ドロレス・クレイボーン」を思わせるシュチエーションでありながら、全く同情の余地も哀れもない。とにかく醜悪なのだ。男も、殺される妻も、その近隣の人間も、普通に醜悪なのだ。そう、特別な悪意ではなく、特殊な憎悪でもなく、多分普通の範囲を出ないものなのだろう。が、結局、そういうものが自己の営利という方向のみに向かうとここまで醜悪になれるということなのだろう。
いわばまきこまれる形になる息子には、ちょっとだけ同情する。が、彼も若さゆえの、愛ゆえの暴走、というには自己的なのだ。
もっとも、あの男と妻との子供なのだから仕方ないのか。
とことん滅入る物語だった。
「公平な取引」
ある日、ある男に取引をもちかけられた運の悪い男。
最後に大どんでん返しがあるかと思ったら…。が、だからこそ苦い。
取引によって逆転することになり、どんどん堕ちて行く相手を最後まで傍観している、その冷静さが怖い。良心の呵責とかそういう葛藤が全くないことが、怖い。
とても残酷な物語だった。
ここんとこなんか救済がある展開になってて、キングも年をとって丸くなったか、って思ってたけど、そうじゃないんだなって。
キングは、どこまでいってもキングなんですね。
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キング曰く"harsh"な作品―いわゆる昨今のブームである?「厭な話」の路線ともいえるか。
詳しくはこちらに。
http://rene-tennis.blog.so-net.ne.jp/2013-06-25
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テーブルタッピング、いわゆるこっくりさんは自分に暗示をかけて強迫観念に陥ってしまうものらしい。十円玉から指を離してしまう、紙の処理を忘れるなど、ルールを破ることでこっくりさんは帰らず、自分に憑いたままだと思い込む。悪いことがあれば、こっくりさんのせいだと思い込む。ずっとこっくりさんが自分を見ていると思い込む。そういう思い込みは少しずつ、精神を衰弱させる。
『1922』はこっくりさんのような話だったと思う。ひたすら血を拭って、苦しみながら死ぬ人間を見ていたウィルフレッド、ヘンリーは思い込みの力に負けたように見えた。
要約すると、罪の意識ってやつ。
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「1922」はスーパーナチュラルなはなしではなかった。それぞれ自業自得。牛がかわいそうだった。「公正な取引」はひどい話だった。(出来じゃなくておこる出来事が。)さすがキング。
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スティーヴン・キングは『ペット・セメタリー』のあとでちょっと方向転換をしてしまい、ハッピーエンド志向とか、ゾロアスター教ふうの「善悪二元論」が前面に出されたりとか、あるいはそろそろ創作上のアイディアのパワーが弱まってきたようにも思える。かつてほどの「ベストセラーメーカー」ぶりはもう影が薄く、人々にも飽きられてきたかもしれない。
しかし彼の小説に出てくる「いかにもアメリカ人的な」モノローグの粘りが私は好きで、それはドストエフスキーや太宰治にも比較すべきものだと考えている。彼のスプラッタ趣味には共感というものは感じないが、物語をとおして「内面」のうねりを形成してゆく手腕は、文学的価値をも持っていると思う。
さてこの本には2つの作品が収められているが、最初の「1922」は文庫本1冊として出しても良いくらいに長く、面白い。
この小説では、冒頭、農夫が息子と共に、性悪な妻を殺害し、井戸に死体を隠す。動機としては、妻の人格的問題もあるが、「土地」を売るか売らないかという問題が、いちおうきっかけになっている。それにしても、14歳の息子に彼の母親の殺害を手伝わせるというシチュエーションは、一体そういうこともあるのかなという気がした。
だが作品のリアリティは、モノローグの巧緻さによってぐっと重くなる。
私はなぜか若い頃から、自分が(殺人か何かは知らないが)取り返しのつかない何かを既にやってしまっており、誰かにそれを暴かれ、糺弾されることに怯えながら逃げまどう・・・という夢を頻繁に見る。この小説はその気分をぴったりと表出していて、とても親近感を感じた。
このメランコリー親和型ふうの感情は、ラスコーリニコフ的なものでもあるが、この小説は堂々と描ききっている。
結局は罪悪感を象徴する「ネズミ」が親子をほろぼすのだが、近年のキング作品がそうであるように、若干ラストは弱いかもしれない。意外さを求める向きにとっては。
もう一方の短い「公正な取引」は、後半のサクセス・ストーリーをアイロニーとして読まないと妙なことになってしまう。
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「Full Dark, No Stars」という4作入りの作品集からの、中編と短編2編。中編(普通で言ったら長編)の「1922」は因果応報の寓話。キングのお話は、ばらまいたものはすべて刈り取る。刈り取って、丸く収める。しあわせに収まるときもあるし、不幸に収まるときもある。いずれにせよ収まるから、安心して読める。大衆小説はそうじゃないとね。