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電子書籍
草原からの使者 沙高樓綺譚
著者 浅田次郎 (著)
議員秘書が語る総裁選の裏に隠された秘密、若くして財閥を継承した御曹司の苦悩、高名な大馬主が競馬場で出会った謎の老人、アメリカ人の元大佐が語る「もうひとつの退役」--各界の...
草原からの使者 沙高樓綺譚
商品説明
議員秘書が語る総裁選の裏に隠された秘密、若くして財閥を継承した御曹司の苦悩、高名な大馬主が競馬場で出会った謎の老人、アメリカ人の元大佐が語る「もうひとつの退役」--各界の名士が集う秘密サロン「沙高樓」で、私はまたしても彼らの数奇な運命に耳を傾けることになった……。驚愕と戦慄! 玲瓏たる筆致で描かれた浅田次郎版百物語。
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紙の本
男のロマンと悲哀
2009/02/17 09:32
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
砂で出来たもろくはかない高楼という意味だろうか、青山にあるという沙高楼。そこに集まるのは、高みに上りつめた者たち。その高みに辿り着くまでに経験した、誰にも話せない事を語る為に、人々は集まってくる。「語る者は、決して誇張や飾りは申されますな。」聞く者は、夢にも他言なさいますな。その掟の元、胸のしこりをほぐす為に、人々は話を始める。
シリーズ化された本作品、今回のテーマは「選挙戦」「財閥御曹司とカジノ」「競馬」「男の退役」といった所だろうか。なるほど、こと男にとって切実かつ興味津々の4作品が並んでいる。浅田ファンなら誰しも分かるだろうが、競馬やギャンブル等は氏お得意の分野。また退役軍人がもう一つの退役を語る「星条旗よ永遠なれ」もある意味お得意の分野である。だけに「詳しい」だけでは決して書けない深い所まで書き込まれ、氏だけにしか描けない形で、一段も二段も高い所まで作品が昇華されている感が有る。そのテーマを氏がどれだけ愛しているか、が良く伝わってくる。
表題にもなっている「草原からの使者」は、かのハイセイコーのダービー敗退を舞台に、そこで起きた奇跡の物語。私のような競馬素人でもサラブレッドの系譜等は興味深く読めるが、競馬ファンはさらに面白く読めると思う。浅田氏だけが紡ぎ出せる、競馬とそれを取り巻く人々の人間模様が読めるからである。
また最後の「星条旗よ永遠なれ」は、始まりこそ第二次世界大戦の勇壮な物語を、今は退役したアメリカの大佐が語るのだが。テーマは男としての、もう一つの退役の話である。自然と艶っぽい話しにはなるが、エログロは全く感じさせないのが氏の素晴らしいところ。大佐が重ねて言う言葉「自分たちはリタイアドではなくヴェテランなのだ」。なるほど、男はいつまでも退役、とは思いたく無いもの。しかし現実に迫り来る、男として最高に悲しい事実を、そんなバカなという滑稽さを交えて書き上げている所も、浅田氏らしくて好感。
氏の最高傑作、という訳ではないのだけれど「男のロマンてのは・・・」なんて事を考えながら読んでみると、非常に面白い一冊です。切実だったり、ぞっとしたり。でも最後は笑顔で読み終える事が出来るあたり。さすがさすがと、思いました。