紙の本
官僚主義国家の末路
2010/08/14 02:36
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ビックコミックで漫画「憂国のラスプーチン」の連載が始まった。作家で元外務省主任分析官である佐藤優の「国策捜査」体験を基にした“フィクション”のようだ(主人公は憂木衛。もちろんモデルは佐藤優)。ついに漫画にまでなったか、と驚く。論壇デビュー後の佐藤優の快進撃は止まらない。
鈴木宗男の懐刀として活躍し「外務省のラスプーチン」と呼ばれた異能の外交官、佐藤優。その栄光と挫折については、前著『国家の罠』に詳しい。本書は『国家の罠』の続篇と言えるが、扱っている時代は『国家の罠』よりも前である。
佐藤は外交官として駆け出しの頃、在ソ連日本大使館二等書記官として、ソビエト連邦崩壊という現代史に残る歴史的大事件に立ち会った。本書は、当時モスクワに駐在していた若き日本人外交官の視点からソ連解体の過程を克明に描いた迫真のドキュメントである。まさに彼は「歴史の目撃者」であり、類い希なる観察力と分析力をもって、史上空前の帝国であったソ連が内側から崩れていく様相を活写する。
一方で本書は、日本外務省きってのロシア通外交官としての佐藤優が形成される過程を綴った成長物語でもある。国費でチェコに留学して自分の専門であるチェコ神学研究を行う目論見で外務省に入省した佐藤は、国際政治が激動する現場であるモスクワに放り込まれたことで、外交官としての素質を開花させる。
ロシア語研修のためにモスクワ大学言語学部に留学した佐藤は、自分の学問的関心から哲学部科学的無神論学科の扉を叩いた。そこでラトビア出身で反体制派の学生「サーシャ」と出会ったことが、彼の人生を大きく変えた。彼は図らずもサーシャを通じてロシアのインテリたちと知り合っていくことになる。
研修終了後、モスクワ勤務となった佐藤は、豊富なキリスト教神学の知識と卓越したインテリジェンス能力を武器に、ロシアの保守派・改革派やバルト三国の連邦維持派・独立派といった立場を異にする様々な重要人物に食い込んでいき、他の追随を許さない特異な人脈を築いていく。この人脈はソ連崩壊後も彼の外交官としての貴重な財産として機能する。すなわち『国家の罠』に見える佐藤優の誕生である。
ヒトラーをも退けた軍事大国ソ連は内側から崩壊した。硬直した官僚主義こそが最大の要因であると佐藤は見抜いた。信念を持たず筋を通さない官僚は、いかに優秀であっても結局は保身に走り、国を滅ぼす。組織防衛を絶対の正義と考える“生真面目な”秀才官僚ほど危うい(皮肉にも、その恐ろしさは佐藤自身が体感することになるわけだが)。
佐藤は「あとがき」で、『国家の罠』の読者からモスクワ時代の活動を知りたいという要望が多かったので本書を書いた、と述べている。だが、これは一種の韜晦であって、やはり本書には母国日本への警鐘の意味合いが濃厚に込められている。「省益あって国益なし」と揶揄される霞ヶ関が依然として絶大な影響力を持つ「官僚主導」国家・日本が、ソ連のように雲散霧消する可能性は決して低くはない。
そうならないためにも、我々はこの異才の能力をもっと活用しなくてはならない。
紙の本
ロシア連邦の崩壊
2023/08/31 09:09
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
在ロシア大使館で外交官として、インテリジェンスの最前線にいた佐藤優さんのソ連崩壊のつぶさな姿を描き出しました。ひいては、ロシア人の在り方がわかってしまうのが、素晴らしいところです。
電子書籍
博覧強記の外交官、ソ連に挑む
2018/11/10 12:42
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投稿者:y-okj - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は元外交官である著者がソ連の崩壊前後に体験したことをまとめたものだ。本書の注目すべき点は、著者の博覧強記ぶりとそれを外交実務の柱としている点だ。イデオロギー闘争で鍛えられたソ連エリートと政治や宗教、哲学で互角に議論する姿は教養と論理が持つ力を示している。著者は自らの著作で国民の知的水準と国力の関連性を繰り返し主張しているが、本書からはその主張を説得力ある形で汲み取ることができる。
紙の本
外交官史
2023/10/29 13:26
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投稿者:ロンバルド - この投稿者のレビュー一覧を見る
今や作家・評論家として著名な筆者のモスクワ大使館在任当時の出来事をルポルタージュ風に書き上げたもの。大変興味深く読ませてもらった。
紙の本
ソ連崩壊前後
2020/05/04 14:06
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投稿者:chieeee - この投稿者のレビュー一覧を見る
ソ連崩壊を日本の外交官だった著者から見た作品。諜報活動とか人脈を広げる方法だったり、全てが自分とかけ離れた内容なので、勉強になった。この時点での記憶はほとんどないので、こうして本で知れるのはいいですね。スパイ活動も映画で見るのとは違い地味で努力なんですね。そこは現実的でした。
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ソ連崩壊当時の状況を知るには良い本。当事者に近い所にいただけに迫力があって当たり前なのだが、興味のない人にとっちゃ名前が覚え難すぎるんじゃ無かろうかと余計な心配をしてみる。
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2008/11/10 ジュンク堂シーア住吉店にて購入
2010/9/20〜9/23
外務省のラスプーチンこと佐藤優氏の第2弾。
ソ連という国が崩壊する前後にモスクワにいた佐藤さんが、ソ連崩壊を関わった人物を中心に解き明かす。いかに幅広い人脈を築いていたかが良くわかった。しかし、このような人物をスケープゴートにしてしまう日本という国はどうなるのだろうか。政治家、官僚の面子、欲だけで国を動かしている現在、中長期的なビジョンで日本という国を引っ張る政治家の登場を望む。 しかし、ほんとに酒強いんだなぁ。
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佐藤優氏の本もほぼすべて読みましたが、その中でもおすすめが「自壊する帝国」です。それがつい先日文庫化されたので、単行本を読んでいたのですが購入しました。
単行本を購入された方も、文庫版には新たに書き下ろされた部分があるので、購入の価値ありです。
佐藤優氏は文章がとても詳細でかつわかりやすく、なおかつ面白いというとてつもない能力を持った書き手と思います。
超おすすめです。
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ソ連崩壊の過程を著者独自の切り口でルポ的に著述した作品。著者のキリスト教神学的教養をツールとした分析はなかなか興味深く、ロシアを理解するうえでの一つの見方として意味のあるものに思える。
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本としては非常におもしろかったのですが、それは著者の佐藤さんが持つ魔力的な何かによるところが大きいようです。ソ連崩壊のプロセスに関しては、佐藤さんの経験自体はよく理解できたものの、全体的なもの、つまり「国家について」はよくわかりませんでした。ただ、逆に非常に局所的な、つまり「人間について」はよくわかったというか、感じることができました。
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1).目次
省略
2).筆者の主張
省略
3).個人的感想
・起訴された外交官である佐藤優氏によるソ連崩壊の回顧録。
・ソ連大使館勤務の筆者が、西側諸国の「諜報部員」としてロシアで人脈を駆使し、情報を獲得し、活躍する姿がよく分かる。
・結局、情報が取れるかどうかは相手に信頼されることであり、筆者がその点にすぐれていたのは、筆者の神学の研究者としての特殊なバックボーンに基づくインテリジェンスと、筆者の強いプリンパル(主義主張)が受け入れられたからと思われる。
・加えて筆者は、語学にたけ、今世間一般で言う「ソフトスキル」の能力も高いように思える。
・語学は、大学等の若い時に勉強するべきという言葉が重く感じる。もっと専門性を磨いて勉強しなければならないと強く感じる。
・ソ連自壊の理由として、エリツィンの腹心で、著者が最も優秀な人間というブルブリスの以下の言葉が特に印象に残った。
・ソ連は自壊したのだ。1991年9月の非常事態国家委員会によるクーデター未遂事件は、政治的チェルノブイリだ。ソ連という帝国の際中心部、ソ連共産党中央委員会という原子炉が炉心融解をおこし爆発してしまった。ゴルバチョフはごみで、ソ連の維持しか考えなかった。ソ連という欠陥発電所の原子炉を締め上げることで、電力が確保できると考え、勘違いし、ソ連が崩壊した。
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どうやって、そんなビッグな人脈築けるんだよ、とかサーシャ…!とか語るべき事はいろいろあるんですが。
とりあえず、印象に残ったことはただ一つ。
佐藤優、食べ物に対する記憶力、良すぎだろ!はっきり言って異常としかいえん!
ソ連崩壊直前のロシアで騒ぎの中心(になってるらしい)人たちと次々と面会していろいろ話を聞く、その有様をまとめているのが本書なのだが、とにかくこの面会に絶対に食事とウオトカがつく。
しかも、外交官で、会ってる人たちもお偉いさんが多いから、一流料理店で食事が基本。
「このレストランでキャビアとサワークリームをかけオーブンで焼いたペリメニ(シベリア餃子)を食べた後、修道院でしか食べることのできない名物料理がでてきた。それはチョウザメを串に刺して焼き、それにクルミやニンニク、数種類のスパイスを混ぜ、ウイキョウを散らしたソースがかかったもので、他のレストランでは食べることの出来ない独特の味だ。」
とかこうした記述が、誰かに会うたびにとりあえず三行は続くのである。
初めて食べた料理のソースに、クルミとニンニクならまだわかるとおもうけどウイキョウが入ってる!とか覚えてるのってどうよ。(しかも十数年前の)
私だったら、友達とこの前なんのパスタ食べたかなかなか思い出せないってのが普通だよ。
たぶん、食事日記(会食日記?)とかつけてたのかな〜外交官だし、なんかの証拠になるんだろうし。
しかし、この食べ物描写はちょっとすごいと思うのは私だけだろうか。
世界グルメレポーターとしての才能も伸ばして欲しいと、なんとなく思う今日この頃です。
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佐藤優が見たソ連の崩壊劇。ひとつの組織が体制内部から崩壊していく過程ってのは、とどのつまり共有されていた神話の嘘が暴かれていく過程なのかもしれない。少々乱暴な要約だが、ソ連の場合は、ソ連体制の再構築を目指したペレストロイカとそれに付随するグラスノスチが、皮肉にもソ連という共同体の神話の二重構造をつまびらかにし、民主化を一層加速したように思える。そして、佐藤優という人物の傑出していたのは、ソ連という体制を支えていた「建前的」な共同体神話ではなく、その共同体に属する人々が持っている「本音」の神話を的確に捉え、共感する能力だったのかな、と思う。それはそうと、本書におけるサーシャという人物は、非常に興味深い存在である。彼は、とてつもなく傑出した知性の持ち主であるが、意思を持続させる能力をいささか欠く人物として描かれている。はたして彼の落ち着くべき場所はどこにあったのだろうか。
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先日読んだ「暴走する国家 恐慌化する世界」の
副島氏の対談相手である佐藤 優氏の著書。
前述したように
この副島氏との対談書を読んで
佐藤氏の著書を読んでみたくなった。
本書の題名にある「帝国」とは
旧ソ連をさす。
外交官時代、旧ソ連の日本大使館員であった
佐藤氏が関わって人びとの視点から
ソ連崩壊に至るまでの流れを追った
ドキュメンタリー本である。
ソ連の歴史、政治について詳しい方が読むと
とても面白く読めると思うが
自分のような素人が読んでも
おなじみの政治家の名前ができたりと
それほど退屈にはならない。
自分が13歳のときにソ連が消滅したのだが
本書を読むと
「自壊(=メルトダウン)」したんだなというのが
何となく分かる。
イデオロギーとか既に関係なく
利権・覇権が絡み合い
国家が国家として形成することができなくなり
メルトダウンしたように感じられた。
本書では、佐藤氏個人の人間ネットワークの視点から
描かれているので
外交官としての交渉術、弁え、御もてなしなども
読み取れるのが面白い。
高級料亭で飲み食いされたのが
私たちの税金によるものと捉えてしまうが
それは国の外交政策の最前線であり
対人間関係の構築には必要なことなのかと。
それよりも
日本の外交がどういった外交を進めていくのか
そういったビジョン、方向性がぶれることなく
示されることが必要だと感じる。
というのも、
佐藤氏は、小泉政権時代の初期に
背任容疑で逮捕された。
このときの外交政策は
今までの多方面外交から転換し
アメリカ追随外交へと様変わりしたときである。
そんなこともあって佐藤氏の著書を
もう少し読み進めてみようと思う。
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ロシア人の国家としての教育体制に驚愕。日本の教育の弱さ、若者の弱さ、考え方の稚拙さはこの本を読むと理解できる。世界にいる人種の多さ。民族とはやはり最後の部分は相容れないものがあるのかな。それにしても宗教と民族の関係は政治を動かすものとしては余りあるほどに大きいと感じる。島国日本人には目からうろこの作品。佐藤氏の論拠の鋭さ、物の考え方、深層部分を突く考え方には敬服する。やはり組織は内部からしか崩壊しないという言説は(私の考え方)間違いない。