紙の本
今だからもう一度この作品を読む
2021/08/24 16:13
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノンフィクション作家沢木耕太郎さんは、世界的なコロナ禍の中で開催された東京オリンピックを「大義のない大会」と大会が始まる前に書いていた。
そんな沢木さんはかつてオリンピックを題材にした作品を五部作にして書こうとしたことがあった。その最初の作品が1998年に発表されたこの作品である。
しかし、さまざまな事情で沢木さんはついに書けないまま現在に至っている。
唯一書かれた「オリンピア」と冠した物語は、1936年ベルリンで開催された第11回オリンピックだった。
もちろんこの時のオリンピックはヒトラーによるナチス政権下のもので、歴史をさかのぼると今だからよく開催されたといえるが、当時の人々にとって第一次世界大戦と第二次世界大戦のはざまの大規模な大会だったに違いない。
そして、その時制作された記録映画は映画史上でも傑作といわれる作品となって世に残ることになった。
沢木さんの取材はこの映画を監督したレニ・リーフェンシュタールへのインタビューが核となっている。
この大会の競技数はわずか19ながら、今でも語り継がれるアスリートがいる。
それは水泳女子2百メートル平泳ぎの前畑秀子であり、マラソンの孫基禎である。
二人の心の葛藤を描いた「故国のために」という章を読むと、今回のオリンピックで勝てたり期待に応えられず敗れた日本のアスリートたちのことを思わないではない。
開催の中止を求める世論の中で、彼らが大会に寄せた思いは何であったか。
それらが明かされるのはまだ先のことだろう。
未来の人は、地球規模で感染が広がる中開催された東京オリンピックをどう評価するのだろうか。
紙の本
数奇な人生と写真
2015/12/23 10:33
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書はレニ・リーフェンシュタールについてのノンフィクションだ。ナチスドイツに持ち上げられてベルリンオリンピックの記録映画を作った映画監督時代と、第2次大戦後の写真家時代にわけられる。アルバムをめくるように、彼女の奇妙な人生がつたわってくる。
電子書籍
当時の選手たち
2020/04/08 23:04
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投稿者:うみべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベルリンオリンピックと言われて頭に浮かぶのは、ヒトラーの面前の貴賓席に佇む当時の日本人女性選手たちの写真・・・。あまり知ることもなかっただけに読んでみたが、冒頭のドイツ人女性のことよりも当時参加した日本人選手たちの人となりに興味をわかされた。彼らはいかに生まれいかに育ち、そしていかに競技に目覚めいかに選ばれてベルリン五輪に赴き、そしていかに闘ったのか・・・。学校の教科書では見聞きすることのない、いわば当事者の口から放たれる事実は大いに面白かった。そこから八十数年の今、実況放送は動画配信、電送写真はネットで、そして選手の移動も当時の何十分の一の時間で到着できるようになった。当時の選手たちや報道関係者たちがこれを知ったら腰を抜かすくらいに驚くであろう。ただ、ナチスに関する記述は少ない、果たして本当にナチスはオリンピックの間は「休暇中」だったのであろうか
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“オリンピックイヤー”だからこそ…ある意味で今日の型の原点になっている1936年のベルリンのお話しは新鮮な感じがした!!
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ベルリンオリンピックで活躍した日本人と、その映像を撮影したレニー・リーフェンシュタールへのルポ。
科学的トレーニングがなくてもプロ制度がなくてもここまで戦えたんだ、という意味で感心した。
メダリストがその数年後に戦死している人が多数。メダリストで戦死というとバロン西が有名だが、スポーツと戦争について、あらためて考えさせられた。
北京五輪の最中だったがゆえに余計にそういう印象もあったのかもしれない。日本人メダリストが数年後に戦死する・・そういうことはいまはまったく想像できないことだけど、1936年はたしかにそういう時代だったんだなあ。
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ベルリンオリンピックのドキュメンタリー
戦後ナチに協力したと糾弾されたレニ・リーフェンシュタールの
五輪ドキュメント映画「オリンピア」を軸に描いている。
だがはっきりとは書かれていないがレニへのインタビューは大失敗だったみたいだ、
構想ではもっとレニの話を掘り下げる予定だっただろうに最初と最後でちょっと触れているだけ。
なのでナチスやレニについての新事実のようなものを期待するとガッカリするだろう。
だが、そのかわりに描かれている五輪に出場した多くの日本人の話はどれも面白い。
この人一人の話だけで一冊書けるんじゃないかと思えるような話ばかりだ。
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1936年のベルリン・オリンピックの全貌を、関わった人々(レニ・リーフェンシュタールや日本人参加選手等)への膨大なインタビューをもとに長編ノンフィクションとして編み上げた作品。
勝者に限らず敗者にも(というか、むしろ敗者に)焦点をあてているところが沢木耕太郎的。臨場感と同時にそれぞれの参加選手の熱い想いが伝わってきて、泣けます。
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運命のオリンピックを多彩な証言で描く傑作 1936年のオリンピック・ベルリン大会を撮影し、記録映画の傑作を生み出したレニ・リーフェンシュタール。著者は彼女へのインタビューを試みる。運命の大会に翻弄された人々を描くノンフィクション。
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かの”民族の祭典”を撮った女性監督の裏話です。国策と民族主義とスポーツマンシップと表向きの美談と芸術家の美意識と、、、いろいろなモノが錯綜する凄い映画。
(ところで、レ二・リーフェンシュタールだけは、200歳でも死なない気がしておりましたが、彼女も生身の人間だったのですねぇ。。。)
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スポーツにあまり興味はないのだけれど、ラストを読んでいたら初めて今の通勤路線で電車を乗り過ごした さすがだ沢木耕太郎…
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おそらく、この本を手に取った全読者は「ベルリンオリンピック」の記憶や思い入れは皆無であろう。
戦前の・・しかもドイツでのオリンピックの話なので、それは無理もないことなのかもしれない。
本書はオリンピック記録映画を芸術の域にまで高めた「レニ・リーフェンシュタール」の生きたインタビューからはじまり、出場選手(おもに日本人)たちの生い立ち、動機などバックグラウンドから、手に汗握る試合状況まで、非常に卓抜した構成で成り立っています。
そのため読者は、記録としてではなく「生きた記憶」として「ベルリンオリンピック」の再燃を、その手で実感することができるという素晴らしい良書です。
スポーツドキュメントは個人的に好きではないけど、できる限り当時の様子を、過多な装飾を極力おさえつつ、調べられるだけの事実を忠実に再現しながら文章として提示できる沢木耕太郎には尊敬しちゃいますね。
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ヒトラー政権下で開かれたベルリンオリンピックについて書かれたノンフィクション。この本のタイトルは、2003年に101歳で亡くなったレニ・リーフェンシュタールが監督した「オリンピア」という記録映画と同じです。
そのレニがいかにして時代の荒波に飲まれていったか、参加した日本人選手は、どんな思いをいただいていたのか、特殊な環境で開かれたオリンピックの様子がひしひしと伝わってきます。
沢木耕太郎は、ボクシングをはじめとしたスポーツもののノンフィクションが多いのですが、その中でも一番よいものといっても過言ではありません。ただのスポーツもので終わっていないのが、この作品のすばらしいところです。ぜひ一読を。
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レニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」と「美の祭典」の二部作、通称「オリンピア」を主軸に、日本人と当時日本人とされた参加者達を描く1936年のベルリンとその後。
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1936年に行われたベルリンオリンピックの映画と日本人選手の活躍を描いたノンフィクション。
オリンピック映画を撮影したレニ・リーフェンシュタールへのインタビューと映画を基に、日本人の活躍と当時のオリンピック熱を描く。
オリンピックになると、日本中が大騒ぎになっていたのは今も昔も同じだったようです。日の丸を背負って、ベルリン大会に出場した選手には大きな期待が掛けられ、栄光を掴み取った選手もいれば、力及ばず敗退した選手もいました。勝った選手、負けた選手それぞれの生い立ちから、出場までの経緯、競技の内容、オリンピックのエピソードやその後の人生など、緻密に取材されていて大変面白かった。
レニ・リーフェンシュタールへのインタビューでは、映画を撮影する至った経緯や、撮影中の様子、ヒトラーとの関係、映画がもたらした影響など、これまで語られて来なかった内容が含まれている。
オリンピックのドキュメンタリー映画も、実は創作(再現)部分があり、当事者に演技してもらった映像が含まれていたというのは意外だった。確かに撮影機材が進歩していなかった当時は、気象条件や日没などの不確定要素が影響し、少ない機材で一回限りの競技を確実に撮影するのは難しかったのだろう。当時の映画関係者の苦労も理解できる。
また、当時の日本でのラジオ放送は、時差の関係で生中継できず、録音技術も無かったことから、100m走の中継はアナウンサーが見たことを、さも生で見ているかのように実況する放送だったらしい。たかだか10秒で終わる競技が、架空の実況だと30秒も掛かってしまうようなおかしな放送になったというエピソードは面白かった。陸上に限らず、水泳などでも同じような事が起きていたらしい。著者によるこのオリンピック映画の謎解きがテーマのひとつだが、それよりもベルリンオリンピックに関わった人達の、さまざまな人生ストーリーや失敗談のほうが面白かった。
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[巫女の誘うベルリン、1936]ヒトラー率いるナチスの下で開催された1936年のベルリン・オリンピック。その記録映像で世界的な名監督として祭り上げられ、戦後はその作品の故にナチスに加担したとして世の中から疎まれ続けた「巫女」、レニ・リーフェンシュタール。五輪の映像として史上最高とされている彼女の『オリンピア』を縦糸に、その大会にまつわる数々のエピソードを記した作品です。著者は、日本のノンフィクションといえばこの人、沢木耕太郎。
やはり沢木氏、人生の「峰」と「谷」を切り取るのが抜群に上手い。本作においても、レニ・リーフェンシュタールの、ベルリン・オリンピックに参加した日本選手たちの、さらには彼女を世界に押し上げたヒトラーの人生のトップとボトムを見事に、自然に対比させながら鮮やかにオリンピアの明暗を浮かび上がらせています。ベルリンのその後を描き、氷の宮殿と題された第八章を読んでいるときには、冗談ではなく人生の奇異さと時代のわがままさに戦慄すら覚えました。
沢木氏の作品で好感が持てるのは、世の中の評価をいったん棚に上げ、それとは違うベクトルから対象物を覗き込み、誰も気づかなかった側面を眼前につきつけてくるところ。例えば、レニに対して「あなたは(ヒトラー)に魅かれていませんでしたか」と切り込み、それを発端としてレニのヒトラーに対する本音の一端をつかみとっていくところなどは、沢木氏の真贋を見抜く能力が研ぎすまされていることを示す証左なのではないでしょうか(そして、私はそういう人間に憧れと畏怖の念を覚えます)。
〜『オリンピア』は、レニの用いた言葉を使うとすれば、ベルリン・オリンピックの「デュープ」などではなく、「ブロマイド」だった。しかも、極上の「ブロマイド」……。〜
歴史に乗り、同時に翻弄された人生がここにありました☆5つ