一口に福音派といっても多種多様であることが分かり興味深く感じた
2010/12/11 06:57
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投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は麗澤大学で宗教学を専門とする教授。
アメリカの宗教と政治の関係を、特に1930年代以降現在のオバマ政権誕生まで丁寧にたどっています。
私が殊に興味深く読んだのは、一口に福音派と呼ばれるアメリカ人たちが政治との距離の取り方によってさらにサブカテゴライズされている点です。
そもそも福音派は様々な教会に横断的に属していて、特定の教会に所属するものではないとのこと。
また福音派は厳格な原理主義者というイメージが強いのですが、そうした原理主義者が1940年代以降遁世的姿勢を見せるにしたがって、それを批判した原理主義者の一部が「新福音派(neo-evangelical)」と自らを呼ぶ存在として立ち現れてきたといいます。政治的には特定の政党と結びつくのではなく中道を守り、民主・共和双方の歴代大統領に宗教面で大きな影響力を持ったビリー・グレアムなどがその代表的存在です。
さらに1960年代からは、新福音派を社会問題への積極的関心を示さなかったとして批判するかたちで「福音派左派(Evangelical Left)」もしくは「進歩主義的福音派(Progressive evangelical)」と呼ばれる一派が形成されます。彼らは宗教的には保守だが政治的にはリベラルで公民権運動や貧困撲滅、反戦活動などに積極的に参加していくのです。
ことほどさように「福音派」の一言でくくってしまうことの危険性、宗教的には保守だが政治的にはリベラルというこれまで認識できていなかった層の存在を知ることが出来たのは大きな収穫であったと感じるのです。
*「サリー・ウィリアムズは(中略)学校の看護士に戻ることになった」(161頁)とありますが、「看護士」は男のnurseのことです。サリーは女性ですから男女双方を指す「看護師」とするか、1969年当時の出来事として「看護婦」と表記してもよかったかもしれません。
アメリカにおける宗教の重要性
2016/02/19 12:38
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投稿者:J.W - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカにおいて宗教がいかに政治と結びついているのかを理解することができる一冊です。アメリカ政治に関心のある方にお薦めです。
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●内容
アメリカは、二億人を超えるキリスト教徒を抱え、その八割が「天地創造」を信じ、教会出席率・回心体験でも群を抜く保守的な宗教大国である。一九七〇年代以降、宗教右派が政治に参入し、レーガンの大統領当選に貢献するなど、表舞台に登場。二一世紀以降、ブッシュ、オバマは宗教票を無視できなくなった。本書は、世俗への危機意識からリベラル派が衰退し、保守化・政治化していく過程を中心に、アメリカの宗教の実態を描く。
●目次
序章 アメリカ宗教概観
第1章 近代主義と原理主義の闘い―『種の起源』と高等批判
第2章 宗教保守化の背景―南部福音派のカリフォルニア流入
第3章 主流派とリベラリズムの隆盛―一九三〇~六〇年代の潮流
第4章 原理主義・福音派の分裂―新福音派・福音派左派の登場
第5章 政治的保守の巻き返し―ゴールドウォーターからレーガンへ
第6章 宗教右派の誕生―自閉から政治の世界へ
第7章 大統領レーガンと宗教右派の隆盛―一九八〇~九〇年代の政治との関係
第8章 共和党ブッシュ政権と宗教右派の結集―政策への関与と“失敗”
第9章 オバマ政権誕生と宗教左派―政教分離と左派意識
●感想
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●内容紹介
アメリカは、二億人を超えるキリスト教徒を抱え、その八割が「天地創造」を信じ、教会出席率・回心体験でも群を抜く保守的な宗教大国である。一九七〇年代以降、宗教右派が政治に参入し、レーガンの大統領当選に貢献するなど、表舞台に登場。二一世紀以降、ブッシュ、オバマは宗教票を無視できなくなった。本書は、世俗への危機意識からリベラル派が衰退し、保守化・政治化していく過程を中心に、アメリカの宗教の実態を描く。
●目次
序章 アメリカ宗教概観
第1章 近代主義と原理主義の闘い―『種の起源』と高等批判
第2章 宗教保守化の背景―南部福音派のカリフォルニア流入
第3章 主流派とリベラリズムの隆盛―一九三〇~六〇年代の潮流
第4章 原理主義・福音派の分裂―新福音派・福音派左派の登場
第5章 政治的保守の巻き返し―ゴールドウォーターからレーガンへ
第6章 宗教右派の誕生―自閉から政治の世界へ
第7章 大統領レーガンと宗教右派の隆盛―一九八〇~九〇年代の政治との関係
第8章 共和党ブッシュ政権と宗教右派の結集―政策への関与と“失敗”
第9章 オバマ政権誕生と宗教左派―政教分離と左派意識
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ブッシュとオバマの政権交代以降、アメリカの保守と革新の背景に興味を持った。大統領選挙からわかるように、海外沿いと南部、中西部ではっきり青(民主党)と赤(共和党)に分かれる。特に共和党の支持基盤であるキリスト教福音派の影響力がアメリカの政治を動かしている様子が見て取れる。
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アメリカは良くも,悪くも宗教の国なのだろう。
キリスト教(プロテスタント,ローマカトリック),ユダヤ教、イスラム教,モルモン教
が5大宗派らしい。
それぞれにさらに細かい宗派があるようだ。
政治の保守化と宗教の関係が垣間見える。
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歴史の順を追ってアメリカにおける宗教の移り変わりと、
政治に与えられた影響を描く。
宗教に全く触れてこなかった身としては
一口にキリスト教、プロテスタントと言っても
その中に信仰の方向性、解釈の差によって
かくも多くの流派があることに驚かされた。
それぞれが政治に与える影響も無視できず、
アメリカ人の考え方の根底に
こうした流れがあるということを知った上で歴史に触れると
さらに理解が深まるのではないかと感じた。
題材が面白く、読みやすい。
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アメリカのユダヤ教は1906年には人口比で3%を占めていたが、2008年には1.7%までになっている。
モルモン教は1.7%で増加傾向にある。1830年代、NYでジョセフスミスによって創唱された。特殊な信仰や実践のために迫害を受け、西部へと追われ、1847年にユタのソルトレークシティに定着。
19世紀後半からアメリカのプロテスタント諸教派は自然科学や社会科学の新しい理論の波により、近代科学と和解しその理論を受け入れたリベラル派と聖書への信仰の正当性とそれに基づく生活をかたくなに守ろうとする保守派とに分裂した。これは北部での話。
南部のプロテスタントは内部に閉じこもる傾向を強め、防戦を呼びなくされ結束を固めていく。
ブッシュは自分がもっとも影響を受けた政治哲学者としてイエスキリストをあげる等、宗教色を隠さなかった。
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堀内一史『アメリカと宗教 保守化と政治化のゆくえ』中公新書、読了。「宗教と政治がどのように結びついて、ここ一○○年のアメリカ社会に影響を与えてきたか」を概説した一冊。宗教右派が台頭し、リベラリ派の衰退を活写する。今年は大統領選挙の年。抑えておくべき経緯は把握できるか。
(個人的な感慨ですが)アメリカ政治と宗教と概観する上では、森孝一先生の議論をアップデートするそれとして期待したのですが、正直なところ、補完はされたものの、やや不完全燃焼。宗教から政治を見るのか、政治から宗教を見るのかの違いかもしれませんが。
ただ収穫としては(←滞米経験ある人には認知議論でしょうが)、アメリカのキリスト教左派(リベラル)と右派(逐語霊感的・道徳的清潔主義)は、別々の教派でもないことを数値できちんと示している。
カトリックでもそうですが(例がよくないというツッコミ無用で)、近代世俗世界との調和を目指すリベラルと、そうでない人というのは、別々の教会に所属していても、教派としては同じというのがよくあるといいますか。
現実にデノミネーションとして別々はありえるけれども、その立場の違いは、「旗印」だけで鮮明化できないのは事実という話です。先の消化不良の問題は、宗教から政治を見るのか、政治から宗教を見るのかという視座の違いに対する期待の問題ってことです。
ともあれ、レーガン以降、右傾化は強まっているのは否定できない。ただ政治家はそれを利用することに最大の労力を払うけれども、その功績には応えないというのも、事後含め事実。利用しているつもりで利用されているというのは世の常か。
神学研究者としての関心の違いから最初に少しその不満足感については言及しましたが、教派的推移、拡大と衰退等々含め、現代アメリカ政治と宗教(AandBはこの順)を理解する上では、基本的データと経緯を紹介してくれるハンディな一冊です(了)
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アメリカで宗教左派が台頭してきている?米国の宗教がこれほど日本で注目を浴びてきた時代はかつてなかったのでは?なぜリンカンの共和党が今は南部で強く、しかも宗教保守派に支えられているのか?その理由は?など不思議に思っていた点の解説が非常に分り易いです。自分自身の教会との関わりの中で、影響を受けてきたかも知れない、ビリー・グラハム、フランシス・シェーファー、ドプソンなどの位置づけが改めて分りました。
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高知大学OPAC⇒ http://opac.iic.kochi-u.ac.jp/webopac/ctlsrh.do?isbn_issn=4121020766
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「宗教が政治とどのように結びついて、ここ一〇〇年のアメリカ社会に影響を与えてきたか」(p.269)を解説したもの。最近出た文春新書の『熱狂する「神の国」アメリカ』と内容が似ているが、文春新書の方が建国からの歴史、ユダヤ教なども含めて宗教全般を扱っているのに対して、こちらの方は二〇世紀の、宗教保守・原理主義の動きを中心に扱っている違いがあり、両者の内容はだいぶ異なる。
あやふやだった知識が少しずつ整理されていく感じがするが、それでも色んな政治家や牧師の名前が出てくるので、難しい。今回整理できたことは、まず政治的な保守・リベラルと宗教的な保守・リベラルが一致しないということで、p.259には「宗教と政治のマトリックス」が載っている。これを見ると、「政治的にリベラルだけど宗教的に保守」とか、「宗教的には保守だけど政治的にはリベラル」といった部分をちゃんと理解する必要があると感じた。同時に、保守やリベラルの意味するところが変わっていったことを理解するのも難しい。p.102には、「信仰を深める必要性から、人種差別・隔離と言った世俗社会の規範や政府の政策を支持する」のが保守で、「社会の改善によって神の国の到来を速める現世改革力を持つ人びと」がリベラルと呼ばれたが、公民権運動以降、「過激化する運動への積極参加を推進することの是非を問う人びとが、保守派と呼ばれ」、「人種差別・隔離という現実的な社会問題を迅速に解決するために運動に積極的に参加する人びとが、神学的傾向とは関わりなく、リベラル派と見なされる」というのがまた難しい。
宗教右派の成立については1970年代末、「保守的な福音派を動員し彼らの価値観や世界観を政治に積極的に反映させようとする利益集団を設立して展開する宗教・政治運動『宗教右派』(=『キリスト教右派』)の構想が誕生」(p.175)したということや、カトリックについて、「カトリックは基本的には人工妊娠中絶など声明に関する問題には反対を表明するが、積極的な社会政策には賛成で、民主党と共和党の間を行ったり来たりする浮動票である。」(p.242)など、断片的には色々分かった気はするが、結局全体像を把握する段階には至らず、もっと勉強が必要だと感じた。
あとは個人的なことで、たしか文春新書の方にも書いてあった気がするが、おれが二週間くらいホームステイしたカリフォルニア州のオレンジ郡、ディズニーランドもあるアナハイムというところは、かつての南部や中西部から移り住んだ保守的な人たちで形成され、かつては性教育の授業の是非をめぐる争いが起きる(pp.159-61)など、結構日本人にとっては怖いところなんだなということを改めて知った。(16/08/21)
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いや、これは良書(と思う)。
中身は「アメリカと宗教」というより、「アメリカの宗教と政治の歴史」といった内容(宗教といってもキリスト教に偏っている)。日本人には馴染みがなく分かりづらい同テーマについて、日本人向けに浅過ぎず(退屈してしまうほど)詳しすぎず、非常によいレベルでの解説。いや、とても勉強になりました。この、宗教の影響がある程度でも見えていないと、米大統領選は見えてこないと痛切に感じる次第。
惜しいのは2010年の刊行のためオバマ政権までで終わっていること。叶うならばオバマ後つまりトランプ政権の宗教的背景についても著者の解説をお聞きしたいところ。
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アメリカの分断に関して、宗教という観点から述べたもの。経済的な観点からは多いが、宗教という軸を加えるとより現状を俯瞰することができる。