紙の本
どんな人生だとしても
2018/12/28 05:53
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投稿者:リンドウ - この投稿者のレビュー一覧を見る
北海道の釧路で生まれ育ったツキヨは小学校教員だった義父から性的な悪戯を日常的にされていた。義父が他界した後、流れ流れて、沖縄の那覇の路地裏の売春宿「竜宮城」で身体を売って生活していた。気づけばもう38歳になっているが、「竜宮城」では「25歳」から歳はとらない。
タトゥー彫師兼闇歯医者の万次郎とその同居人ヒロキに、彼らがねぐらにしている「暗い日曜日」という元バーで出会い、ツキヨの人生が動き出す。
沖縄が舞台なのに全体的に暗く湿気のある雰囲気のある作品。他の桜木作品と同じように、性描写が多い作品だが、表社会では生きていけない男女の人生を考えさせられる大人の小説。
紙の本
沖縄の光は眩しすぎた
2019/01/18 07:17
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎回決定のつどニュースとなる芥川賞直木賞であるが、あれは新人賞であるはずで、大相撲でいえばせいぜい十両優勝というところではないか。
脚光をあびて幕内にあがって、そこからどこまで精進し、小結関脇と進めるか。あの賞の選考委員の人たちは引退をしたわけではないので親方衆ではないから、大関横綱級になるのかしら。
『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞した桜木紫乃の場合、番付でいえばどのあたりだろうか。
受賞後もいい作品を書いているし、筆力の巧さは受賞の際にも際立っていてその後も健在だ。
小結ぐらいか。
ところが、この作品はどうだろう。
今まで多くの作品の舞台となっていた北海道を離れ、沖縄を舞台にしたのはどういう心境の変化であったのか。
主人公のツキヨは桜木が得意とする北海道の出身ながら、流れながれて那覇の街で自身の身体で食べている女性に設定されているが、義父との肉体関係をほのめかせられても、その義父が自刃しても、それが沖縄まで流れていく訳ではあるまい。
那覇の街でツキヨが出会う、桜木ワールドでしばしば登場するような影のある男万次郎にしても、元歯科医で女性関係からこの街に隠れているといわれても、それさえしっくりこない。
あるいは万次郎と生活を共にするヒロキという青年、彼に暴力で君臨する南原という男にしても、実体がいずれもおぼろである。
巧さだけで勝負しようとしても、勝てるわけではない。
桜木紫乃には沖縄の光は眩しすぎたかもしれない。
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桜木さんの作品は、どんどんよくなる。
最近は、どんよりグレーな感じはあまりなくて、薄いブルーグレーって感じw
同年代の作家さんの書く作品を読むのは、格別の感があって、楽しみ。
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タイトルはどこか爽やかさがありますが、キャッチコピーが、「掃きだめのメルヘン」ですから…。いつもの作者の作品らしさを存分に味わえるだろうなと思いました。
人間の薄暗さ、影でもがいて生きる人びとのたくましさと哀しさが、普段見ないふり知らないふりをしている心根を突き刺してくる。目をそらすなよと、こういう現実もあるんだよと、お前にも訪れないとはいえない未来だ、と言われているような気持ちになって、キリキリさせられる。
それでも、「面白いから」と思って読むのは、登場人物たちが世間的には「間違った」生き方をしていようとも、しっかりと地に足を付けて生き生きと生きているからで、そのあけすけな明るさが眩しいような気もするからかもしれない。
光まで5分、それは近いようで果てしない距離。たどり着いてもその輝かしさは、自分を受け入れてはくれないかも。そんな逡巡を抱きながらも、いつかたどり着きたい思いを抱えて、光を人々は尊ぶしかないのだ、などと考えたりしたのでした。
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初出 2016〜17年「小説宝石」
北海道から流れ流れて沖縄の「竜宮城」という売春宿に居着いたツキヨは、歯の治療をしてもらうために、女性関係のもつれから逃げて匿われている元歯科医万次郎のもとを訪れ、その同居人で万次郎からモナリザの刺青を施されていたヒロキと、3人の奇妙な共同生活が始まる。
ヒロキが拾って来た子猫が死んで、ヒロキのおばあが居る奥武島に橋を渡って行く。おばあによると、ヒロキは死にかけた子猫ばかり拾って来る「看取りの天使」なのだという。暗い前半からうって変わって明るい後半だが、生活感のないふわふわした物語が続く。
竜宮城は短期のアルバイト感覚で女の子が入れ替わる海の底なのだが、ツキヨはそこへ戻ってママ(遣り手)の後釜に座り、万次郎は海で本当に行方不明になる。
ツキヨが少女期に義父から受けた性的行為がトラウマになっていることが、物語の端々に伺えるのだが、ずっと読み手の心に刺さっている棘ような気持ちになる。
タイトルの「光まで5分」は歯の治療後にツキヨに吸わせたタバコ(たぶんマリファナ)が効くまでの時間、象徴的だが分かりにくい。
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桜木さんの作品はほとんど読んでいて、沖縄が舞台!どんなテイストになるの?どんな女性が描かれるの?と楽しみで、図書館の予約待ちにしびれを切らして購入した。
残念ながら、桜木さんで初めて、自分の心に全く響くものが無かった。好き嫌いの問題かもしれないが。
ツキヨ、この人本当に流れていくしかないのか?ただの薄っぺらい意志のない女にしか感じない。
幼少期からの義父との関係が…と言うなら彼女の思い出が(母親はともかく)辛いものという訳でもなさそう。
万次郎の過去も今ひとつ不明だし、ヒロキもフワフワした半透明な感じで、魅力的なキャラクターが誰も居ない。
文章表現はやはり好き。沖縄の風景や空気感を描くとこうなるんだーと素敵だった。
でもいかんせんストーリーに入り込めない。
「みんな痛くて泣きたい」なら何とかしようよ、しようとしてないじゃない!と思ってしまった話。
星を一つにしたいのだが、自分の読みが甘いだけかも、という桜木さんびいきで二つにしました。
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北の生まれ育った土地を捨て、気づけば南の沖縄の地で水商売をして漂うように生きていたツキヨ。
歯の治療を闇医者ならぬこちらも訳ありの万次郎先生にしてもらうのをきっかけに
彼を慕うヒロキとの出会いと、かつて客でありヒロキの育ての親の南原の考えで
ツキヨは水商売から離れて彼らと暮らすことになる。
真っ直ぐな優しさと純粋さと美しい瞳を持つ年下のヒロキに心を癒されたもの束の間
南原によるヒロキのマインドコントロールと暴力に失望し
ヒロキの育ての親であるおばあの生きる強さと情け。
時々思い出す、幼かった頃、義父がツキヨに対してしていた歪んだ愛情から脱線した行為。
南原の欲と金に支配されているこの状況から
再び水商売へと戻っていったツキヨの孤独と希望。
著者ならではの流れるように生きる孤独。
夜に読んだらなんだかいろいろ怖くて眠れなくなったよー。
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沖縄のうらぶれた店で体を売って生きている女性が、同様に社会からつまはじきにされた人たちとともに生きていくさまを描いた長編。
幼児期から義父に性的暴行を加えられていた記憶がときには甘美な思い出と感じるほど、幸せとはほど遠い日々を送る主人公。登場する人たちはみな、一般社会の基準から大きく外れ、はきだめのような世界に生きている。
無力ゆえにそこから脱出することも叶わず、虐げられ、踏みにじられるばかりなのだが、当人たちはあきらめから無気力、無感動になり、さほど苦に思わないところがまた恐ろしい。
痛々しすぎて、胸の悪くなるような思いを引きずる読書だった。
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桜木ワールド全開です!!!
【本文より】
闇に浮いた母の肌の白さと、左右に揺れた瞳の余白が忘れられない。
南原の口ぶりは義父がよくツキヨを遊びに誘ったときのそれに似ていた。こちらの指の間を砂そっくりに通り抜けてゆく話し方をする。あのころと同じ感触の言葉を耳に入れながら、ツキヨはまた誰かを失う予感に漂った。
「旨い飯も音楽も、生活の上の棚に置いておくのは難しいんだ」
パンを焼いた万次郎も食べたツキヨも、買ってきたヒロキもなにも食べられなくなったランコさんも、世の中からこぼれたところに在った。
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姫野カオルコの「ツ、イ、ラ、ク」があまりにも面白くスイスイと進んでしまうので、途中に別のを挟もうと手に取った。
ツキヨは北海道から沖縄に流れ、風俗の仕事をしている。虫歯を治してくれたタトゥーの彫り師とその友人と親しくなり、一緒に暮らすようになる・・・
正直、まったく面白くなかった。桜木紫乃には高いレベルを求めてしまうのもあるのかも知れないけれど、読了した彼女の作品の中ではワーストの駄作と言って差し支えないと思う。
流されていく女、男の悲哀のようなものが描かれているけれど、ただでさえ薄い本に、あまり意味のない叙情的な表現が多いのと、ストーリーそのものに読ませる感がない。
大好きな桜木紫乃だから、たまたま今回は、と思いたい。
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桜木さんの作品からいつも伝わる、ぬめり、仄暗さ。
本作も違わずで、そこに希望や光はない。
でも頁を捲ることを止められません。
文字から伝わる映像は、息遣いや血生臭さが皮膚を撫でるようで。
その表現の妙が、心を掴んで離しません。
ストーリーを読むのではなく、表現を読むのだと、いつも実感する作家さんです。
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正直、つまらなかった~
魅力的なキャラもいないし、好感持ったり共感できるような人が一人もでてこない。
何をしたいのだ?というか、何を書きたかったのか?分からなかった。
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2018/12/19 M リクエスト
楽しみにしていたのですが、いつもの作品ほど、染み込んでこなかった。残念。
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北海道の東の果ての町から沖縄に流れてきたツキヨは、奥歯の痛みに耐えかね訪ねた闇の歯医者の元に居つくことになる。そこにいたのは、訳あって死んだことになっている男・万次郎と、なぜか近づく者の命を看取る運命にある少年・ヒロキだった。
人生のどん詰まりで希望を持たない3人の生活は穏やかな日々だったが、それも長くは続かなかった・・・
桜木さんには珍しい沖縄を舞台にした作品。
桜木さんが描く女性は相変わらず強くて、どんな悲惨な境遇にあっても淡々と、どこかあっけらかんとしている。
不幸のどん底にあるような3人だけど、舞台が沖縄というだけでいつもの身も凍るような寒さ(←当たり前か)と救いようのなさが緩和されて、それがいいような物足りないような・・・。やっぱり、極寒の北海道を舞台に不幸な女の切なさ、やるせなさを描いて欲しいわ~。
帯にある「はきだめのメルヘン」の言葉に「何じゃそりゃ!」と思ったけれど、読み終わってみるとあながち的を外していないような気がするのは、登場人物たちが吸っていた葉っぱ(多分マリファナ)の煙と、それが見せる幻覚のせいか・・・。
でもメルヘンだとやっぱり、物足りないのよね~。
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桜木紫乃は好き。
薄い本が読みたくて図書館。
著者には珍しく、沖縄を舞台にした物語。
凍てつく北海道が舞台だと、乾いた諦念を感じるけれど、
沖縄を舞台にすると、諦念が湿りを帯び、けだるさが加わるんだなというのが直後の読後感。
そして1ミリの救いもないことがつらい。
自分の読みが浅いことは否めないけれど、やっぱり肉体的に痛かったり、精神的に苦しかったりする話は、しばらくいいかな。
「光まで5分」のタイトルは、明るさを見いだすまで5分 ということ?
読後いろいろググったら、敬愛する花村萬月と初めて対談したときに「北海道以外の場所を舞台に書いてみなよ、沖縄なんかいいんじゃない?」と言われて書き始めた。
とあった。おもしろかったのは、「暑さを表現する語彙が極端に少なかったことに気づいた」と書かれているところ。
生まれ育ち暮らしている土地、それに加えて、素材にしている土地の語彙がいつの間にか増えている、という事実に思いを馳せた。