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投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
書評を書くのは半年ぶりだ。
半年前からひとりぐらしをしている。今、この文章を投稿しているのもネットカフェからだ。
僕は専修大学の唐鎌教授の講義に感銘を受けた。それからもう6年以上の歳月が経っている。
この本は多くの人に読んでもらいたい、とくに若い人に。
近いうちに日本の「成人」は18歳になるかもしれない、自分たちの「意見」を表明するために多様な意見にふれるということは必要だ。
アルフレッド・マーシャルは「ウォーム・ハート、クール・ヘッド」といった。この本にはそれも通底している。たんなる「研究者」としてではなく、一人の人間としてまた、社会保障の専門家としての「思い」がつまっている。
(ちなみになぜ、AVがこれだけ現代日本で一般化しているか、この本で紹介されている「社会疫学」の仮説で説明できる、と個人的に感じた。結局、男は女を組み伏せたいのだ。AVはそれを男に疑似体験させる。それは一種の「暴力」なのだ)。
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貧困・格差について非常にわかりやすく最新の調査をまとめている良書。東日本大震災、孤独死、失業、ホームレス、セーフティネット・・・自らの立ち位置を知り、今後どんな方向性を持って社会と関わっていくのかを知る良い機会となった。引き続き読み進めたい。
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(2011/12/25読了)「震災によって普通の暮らしを奪われた被災者」がクローズアップされる一方、震災の前からもとより「普通の暮らし」を奪われていた人々の問題について語ることが憚れる雰囲気に、複雑な思いを抱いているという著者の渾身の一作。
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「社会的排除」という概念は、資源の不足そのものだけを問題視するのではなく、その資源の不足をきっかけに、徐々に、社会における仕組みから脱落し、人間関係が希薄になり、社会の一員としての存在価値を奪われていくことを問題視する
社会に包摂されることは、衣食住やその他もろもろの生活水準の保障のためだけに大切なのではなく、包摂されること自体が人間にとって非常に重要
日本の社会的孤立の指標はOECD22ヶ国諸国の中でも群を抜いて高い
社会的包摂政策をいち早く打ち出したEU諸国において、社会的包摂を促す政策の最大の柱は雇用政策。なぜなら、EU諸国では、現代社会において、個人が他者とつながり、自分の価値を発揮する最たる手段が就労だと理解されているから
社会的排除は、問題が社会の側にあると理解する概念。社会のどのような仕組みが、孤立した人を生み出したのか、制度やコミュニティがどのようにして個人を排除しているのか
ウィキンソンの指標が衝撃的であるのは、各社が大きい社会に住むことは、誰にとっても悪影響を及ぼしていると論じている点である。格差が大きいということ、そのこと自体が、社会にとって望ましくないという指摘をしている
格差が社会における人間関係を劣化させているのではないかと示唆するデータは、山ほどある
人が人を信頼しない社会では、暴力が蔓延する。殺人率と所得格差は驚くほど正の相関がある
ある地域に、どれほど社会資本または地域力が存在するか、それを測る際に、もっともよく使われるのが、地域やコミュニティにおけるボランティア活動への参加率である
パットナムは、イタリアとアメリカの地域力と所得格差を測り、コミュニティ活動への参加の度合いが高い地域ほど、所得格差が小さいことを見出した。格差は人々の不信感を煽り、攻撃的にし、差別を助長し、人間関係を悪化させるだけでなく、コミュニティ自体の機能もマヒさせてしまう
従来の社会保険制度や公的扶助制度、就労支援が、人々の最低生活を保障することも、社会的包摂を約束することもできない
なぜなら、現在の社会保険制度は、すべての人がまっとうな職業に就いていたり、または、家族のセーフティネットにより守られていることを前提としており、公的扶助制度そして、就労支援は、人々を労働市場に戻すことだけを目的としており、戻された労働市場での社会的包摂は問題視していないから
仮設住宅における孤独死が、被災直後に起こったのではなく、震災から2年後移行に急増したことも、心の問題が時間差で起きてくることを示している
問題は、生活保護制度の出口として、現在の労働市場における就労しか選択肢がなく、その就労が必ずしも、その人の存在価値を発揮できるような、尊厳をもっていきいきと働くことができる仕事ではないことにある
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現代の日本で食料が買えなかったという世帯が8つに1つある。
必要な医療が買えなかったは5世帯に1つ。
お金がないから治療されると困る。
日本はどうなっているんだ。
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「障害の社会モデル」と「貧困の社会的排除」は似ているという。問題は当事者ではなく社会が内蔵している障壁にあるということ。すべての人は程度の違いがあれハンディや生きにくさを抱えている。いちばんしんどい人に焦点を合わせた社会が、結局はすべての人にとって暮らしやすい社会になるということ。(ユニバーサル・デザインの社会)
社会的包摂の一方法としてベーシックインカム(BI)なる言葉も想起している。この社会に生まれた運命を支えてくれる人権・生活保障になりうるのか。おカネへの執着や将来に対する不安は減るだろう。障害、難病、介護、育児などに対する生活不安も減るだろう。生活不安に縛られた意に沿わない労働から本来の仕事を含め思いっきり得意分野で自己創造希求の営みができるのではないか。社会的包摂としての「BI」、批判も含め改めて勉強する価値はありそうだ。
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内容は,「子供の貧困」とかなり重複するので,どちらかを読むのなら「子供の貧困」の方がいい。
こっちは緊急出版だったのか,校正が甘かったりして微妙だから。
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【読書その31】貧困問題の研究者である国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏の著書。
この本は、貧困とは何か、憲法の保障する最低限の生活とは何か、貧困論を基礎から丁寧かつ分かりやすく説明し、また、人と人とのつながり、居場所の大切さが論じている。
人は他者がいないと生きられない。人は、他者とのつながりの中で、互いの存在価値を認め合い、自分の居場所を感じることができる。
その中の一つが働くこと。賃金を得ることだけが全てではない。働くことを通じ、自分の存在意義を感じ、社会での自分の役割を認識する。
阿部氏の議論の魅力は、理論の下に、ホームレスへのインタビューなど、現場のフィールドワークがあること。
自分自身も上越市時代の生活保護のケースワーカー時代、担当した方の就労支援に携わったことを思い出す。ずっと仕事をやらず、家でゴロゴロしていた40代の男性。ずっと励ましながらハローワークに通い詰めた。運良く仕事を見つけ、就職。就職後、仕事を通じ、生活習慣を立て直し、自分の居場所を見つけ、楽しそうに生活をするようになった。結果的に生活保護から自立。その後も、自分宛に時折電話があり、「最近頑張っている。兄弟も安心してくれた。」と報告してくれた。そのときの電話ごしの嬉しそうな声が忘れられない。
また、東日本大震災後、地域コミュニティの大切さがこれまで以上に強調されるようになった。顔と名前がわかる関係の大切さ。全国で危惧されている地域コミュニティのつながりの希薄化を防ぎ、強化する先進的な取組である。
上越市では、平成の大合併の際に、1市13町村という、大合併を行い、その際に旧町村単位に地域自治区という行政区域を設け、その後、旧上越市の地域にも地域自治区を設けた。地域自治区には地域協議会を設けられ、現在、公募で選ばれた無報酬の委員である市民が地域の課題を議論している。詳しくは以下を参照。http://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/jichi-chiiki/jitiku.html
なんだか最後は愛する上越市への想いなってしまったけど、まぁ、こういうのもいいでしょう。
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ルックスと経歴からもっと冷たい人かと勝手に思ってました。研究者として本意ではないかもしれないけれども,こういう形でバックグラウンドを晒すのは悪くないと思います。これもまた,筆者の属人的説得力とう話かw 内在的動機に裏打ちされた研究は好きです。本人はしんどい面もあるだろうけど。
言葉としては普通に知ってましたが,社会的排除という概念の意義を深く考えたことがなかったので改めて勉強になりました。社会的包摂って刑事の分野でしかとらえてなかったしね。むしろ貧困分野の方が先なのかも。「貧困問題の新しい入門書」いう帯に負けない中身だったと思います。
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大衆向けに書かれた格差貧困の本。めっちゃ読みやすい。が、この類の本を読んだことのある読者にとっては、割と知っていることばかり書かれていて面白みに欠けると感じるのではないかと思う。
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「貧困」というと、遠い世界で起きている問題というイメージを抱かれやすい。しかし、今の日本で確実に広がる貧困と、心の問題、社会的排除の問題はつながっている。貧困は個人の自己責任ではなく、社会構造システムにあるのだと、認識を深めることができる書。わかりやすくまとめられ、最後に提言もあるので、初心者にもわかりやすかったです。
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噂に違わぬ「良書」。
さまざまな領域をクロスオーバーする「社会的排除」の問題および「社会的包摂」の意味を、余すところなく突っ込んでいらっしゃると断言していいと思う。
特に、社会的包摂を「所得」や「就労」といった(社会的)次元から、「その人の承認」という(存在論的)次元までひっくるめてきちんと語ろうと切り込む著者の姿は勇ましいと思う。勇気づけられる。
誰よりも著者自身がまだ言葉にならない歯がゆさを感じていると思われる点が二点ある(と思う)。ひとつは、社会的包摂による「承認」が「あなたと私のあいだの承認」であること、もうひとつは社会的排除や格差を生み出す「社会のありよう」、「社会のしくみ」は「包摂と排除」が社会のイニシャルロジックになっている機能分化社会だという点である。
(2点目は自分もはっきり言えてないですけど……)
あとがき214頁の「振り返り」と216頁の「危惧」は、「共感」と「不吉」という二つの意味で震えながら読みました。
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やっと、社会的包摂の本が日本人によって書かれるようになったのか~と思って、手にとった。
善人ぶる訳じゃないけど、
社会の問題から個々人に生じてる問題を、個々人の性格や気持ちの持ちようといった自己責任で片づけるのでなく、社会に目をむけて、解決していくような
一人一人の生きにくさが少しでも緩和されるようなユニーバーサルデザインな社会を目指していきたい
と、思った。
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まとめ:
絶対的貧困(食えないこと)ももちろん重要であるが、相対的貧困(所得の下裾が長いこと)がより現代的な問題。
近い概念として格差があり、貧困問題は格差問題と密接に関連(ほぼ同じ?)。
健康を害したり犯罪を増やしたりする極悪な格差は近年広がりつつある。
ただ、問題なのは所得格差自体ではなく、社会的に排除される(自分が悪いのではなく社会が悪いという視点)層が存在すること。
対策として、物質的な支援(社会に包摂されるためにも先立つものは必要)に加えて、全ての人が自尊心を持って生きられるような社会を作ることが必要(理想論)。
単純な再分配や就労支援では不十分。
感想:
全体としてデータの扱いに不安になる。(相関と因果、外れ値の処理、サンプリング)
ホームレスとの接触を全面に押し出したとかそういうのは何の問題もないと思うが、数字を使うところは固く書いて欲しいなぁと。
新書だとこんなもんなのかもしれないけど。
内容に関してはどうこういうべきではないんだろうけど、やはり視点が偏っている印象は受ける。
問題があるらしい社会も人が作ったものであるわけで、インセンティブの議論を抜きにして問題は見えないし、政策にも繋がっていかないんじゃないんじゃないかと思う。
(ベーシック・インカムは素晴らしい制度なのかもしれないけど、誰が導入するんだろうか。)
そういうこともあって最後のほうで「理想論」って保険みたいな記述があるのか。
国の政策にも関わってる研究者が理想論振りかざしてるってどうなんだろう。
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『子どもの貧困』(岩波新書、2008年)のあと、子ども以外の貧困に関する内容で予定されていたものを、東日本大震災後、「社会的包摂」を中心として書き直され上梓された本。
震災の被害を受けた人々のなかでは、生活再建に大きな差が出てきている。自然災害の被害者のうちでも、もともと生活基盤の弱かった、社会的弱者が災害弱者となっている。このことから自然災害の多い日本では、社会的弱者を減らすことを目指していかないと、自然災害のたびに、孤立死や自殺者が現れるのではないか。
会社の経営者が一転してホームレスとなる場合があるかと思えば、他方、失業してもサポートを受け、生活再建へ歩むことができる人もいる。自然災害等で困難な状況に陥っても、おカネや人脈に恵まれている人々は、社会資源を活用し、復旧への滑り出しも早い。一方、それらに恵まれない人々は、社会資源へアクセスすることすら難しく、支援の手が回らず、孤立を深めてしまう。このようにして、被災する以前からあった格差は更に拡大してしまう。
おカネがすべてではないが、今の日本では、おカネがないことはあらゆる生活場面で、生きづらさをもたらすことになる。おカネがないと、衣食住に困り、十分な医療や教育も受けられず、結婚もできない。病院や診療所が医療費負担を理由に、患者から治療や投薬を断られたりする、健康でないのに経済的理由から受診抑制が増えているといった現実がある。日本は50年前に、「国民皆保険・皆年金」を達成したが、現在、その意義や重要性が再認識されるべきである。
自然災害によるものであれ、経済情勢によるものであれ、社会の構成員が生活困難を抱えたときに、生活再建を支援する制度が整備されている国こそ、先進国と言われるべきだろう。阿部氏は、「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」という概念を用い、経済的な「貧困問題」だけでなく、個人と社会との関係や社会的な仕組みに着目して、展開している。
「社会的包摂」と「社会的排除」とは、対立する概念である。「社会的排除」に近い概念として「貧困」「孤立」などがあげられるが、それは、「社会的排除」の一側面に過ぎない。「社会的排除」は、より人間関係に依拠した考え方で、「つながり」「役割」「居場所」「人間の尊厳」といったキーワードが使われる。
社会保険、公的扶助、就労支援の3つの柱からなる、現行の社会保障制度では、現代の貧困や社会的排除に対応しきれない。そこで阿部氏は、ベーシック・インカムやユニバーサルな視点を持った公的制度を強調している。