紙の本
ベスト盤的長編
2021/07/29 22:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
その独特の作風で日本でもファンの多いマコーマックであるが、この作品はマコーマックのベスト盤といった雰囲気を持つ長編である。詰め込み過ぎ、まとまりがないといえばそうかもしれないが、マコーマックの作品世界が堪能できるものともなっている。
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ゴシック的な要素も盛り込みつつ、それをフィクションだから、では済まさない感じがとてもよかった。主人公も含め、様々な親子のあり方があると感じた。
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今までに邦訳されている3作品を実はかつて読んでいるんだけれど、正直イマイチ入り込めなかったんだよね。
ところが今回のこれは! 面白かったです。
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マコーマック「雲」http://tsogen.co.jp/np/isbn/9784488016746 読んだ。おもしろかった。ある男の奇妙な一生と人間関係、と言うと単純だけど纏わりつく死とか繰り返し現れる眼窩を貫くエピソードのせいで不穏さがすごい。ちょっと寓話感があるのにファンタジー色は弱いという不思議な本。久々に物語世界に浸った(おわり
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様々なジャンルをクロスオーバーしている長編。
じわじわと現実が侵食されるような雰囲気が良かった。何かの機会にまた読み返したい。
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面白かった。
彼の今までの作品はグロテスクで奇想な展開が多かったのだけれど、本作にはあまりそういう展開はでてこない。
所々出てはくるのだけれど、あまりメインの話に有機的には絡んではこない。
ただ、そんなグロテスクで奇想な展開は、今までに彼が発表してきた作品に登場したエピソードに似た内容が多いので、彼の一つの集大成的な意味合いもあるかも知れない。
まぁ、そんな展開を期待していた人にとってはちょっと肩透かしを食らわされたように感じるかも知れない。
実は僕も最初はそんな肩透かしを食らった一人だったのだが、読み進めていくうちに「おいおい、エリックさん。グロテスクで奇想な展開がなくても凄く面白い作品が書けるじゃないか!」なんて偉そうに思ってしまった。
とある男の数奇な半生を描いているのだけれど、その彼が持っている考え方や、恋愛に対する脆弱な感受性、モラルに対する潔癖感、人としての強さ弱さ、などなど「わかるわかる、あるある」と思いながら、実はあまり感情移入は出来ずに、それでも気持ちよくこの男を俯瞰しながら読み進める、といったちょっと変わった読書体験ができた。
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「パラダイス・モーテル」では風呂敷を広げるだけ広げて「これちゃんと畳める?」とこちらがワクワクと不安でいっぱいになったところで手その風呂敷を手品で消してしまい、こちらの胸にぽっかり穴を開けて茫然とさせ(褒めてます)、「ミステリウム」では一度きれいに畳んで見せた風呂敷を残りページも少ないのにもう一度クシャクシャにしてから畳み直すと言う荒技で読むものを呆れさせた(褒めてます)マコーマック、ちゃんとお話畳めるやん!!何なら四角やなくて綺麗な花になってるやん、くらいの大団円。いやはや、やるやんマコーマック。
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これは色んな面白さが詰まった物語だった!!古書店で見つけた「黒曜石雲」という不思議な雲についての本。そこに記された「ダンケアン」という地名は若い頃、苦い経験をした地だった。そこから物語は彼の半生へ。両親を悲劇的な事故で失い、大学を出て職を得たダンケアンでのミリアムへの情熱的な恋、そして裏切り。失意のままアフリカ行きの船に乗り込み、流されるまま世界を巡る。各地で運命を左右する人々に出会い、心揺さぶる経験をしてきた。結婚し、子供も得た今「黒曜石雲」の謎を追ううち、懐かしい人と再会し、衝撃の真実を知る。不気味なゾクリとさせる不意打ちのラストがなんとも言えない印象を残す。
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グラスゴー近郊のスラム「トールゲート」で育った主人公ハリーの魂の遍歴の物語であり愛を渇望し目の前にあることに気づけなかった物語である.メキシコの田舎町の古書店で出会った一冊の古書「黒曜石雲」から糸が解けて大いなる大河のような物語が始まる.スコットランド,ダンケアンでのゴシックホラーのような味わい,アフリカでの冒険小説のような雰囲気,カナダでのサクセスストーリー的な展開や家族への複雑な愛といった盛りだくさんな内容で,しかも本にまつわる謎も含めて,読み応えのある骨太の小説だった.表紙の絵もどこか不安な荒涼としたこの本にぴったりだ.
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めくるめく怪奇、ユーモア、官能。やがて脳内で文章が諸星大二郎作画に変換されていく。物語の描かれ方はマジックリアリズム的だが、南米のものとはずいぶんパースの取り方が違う印象。ヨーロッパの魔術的風景だなぁと感じる。人智を超えた非科学の世界と、素面で合理的な世界の両方を愛し、愛される主人公が誰より特異で魅力的だ。読みながら何度も「面白い…!」と声に出た。
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一言、不思議な本だった。
主人公の若い頃の回想から現代まで、一緒に人生を追体験した感覚で、読み終えた後は長い旅を終えたような感覚になった。
ストーリーに関係無さそうなもの含め、不気味でグロテスク、たまに官能的なエピソードがこれでもか、これでもか、とてんこ盛り。でも何故か読む手が止まらない。古本の出会いが自分の過去の事実に誘う、、というロマンチックそうな触れ込みをそのまま信じてはいけない。簡単に言うとスラム街で生まれた男性のサクセスストーリーなのだけど、そうは感じさせてくれない。
決して明るく無い。色調でいうと、グレーのベースに、深いグリーンやブルーが油絵のように重ねられていく感じ。
ハンセン病と思われる男性フロントマンの鼻カバーの形容とか要るかな?でも、これも小説全体の色調を整えるために必要かと思うと腑に落ちる。
その分、真っ青なワンピース、とか、真っ白な猫、など明るい色味で形容されてるものが自然の脳内の視覚に焼き付く。
やっぱりこの本のテーマは愛、なのかなぁ。男女もだけど親子愛も。最後は期待に漏れず、不穏な前触れを感じさせ、ぞっとして終わった。怖すぎる。
最後、主人公が黒曜石雲の著者に感情移入して、学芸員の姿勢に怒りを覚える場面は印象的。
改めて思うと、ストーリーは捉え所がなく、やはり一枚の絵画を鑑賞したような感覚だなぁ。ひと握りの純粋で綺麗な存在を知覚するには、その何十倍もの不気味で奇怪で不条理な背景が必要なのかも。
クセになりそうな作家さんだった。
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ネットで見かけて。
端的に言えば、一人の男の人生のお話。
しかも若くして恋に破れ、それを引きずる男のお話。
これだけだと全く面白そうなストーリーではないし、
話の展開も何があるわけでもない。
微妙に不思議な場所や、不思議な人たちが出てくるが、
全くの異世界というわけでもない。
幻想的な話は、えてして猟奇的であったり、
怪奇的であったりと、不快な何かを伴う場合が多い気がする。
このお話も決して気持ちの悪い場面もあるが、
全体的にはふわふわとした心地よい感じで
読み進めることができる。
何と言って面白いわけではないし、
「人生の軌道が丸ごと変わった忘れようない体験」も普通だし、
「雲」を巡る謎も解けたような、解けないような結末だが、
不思議な旅から帰ってきたような、そんな作品だった。
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あまりの面白さに2日にかけて朝と夜に本を手放せないほどだった。読了直後の興奮状態で書いているので多少熱が入りすぎているかもしれない(後で校正するかも)。何と言ったらいいんだろう。不思議な面白さ。訳者の柴田元幸さんが好きだとおっしゃるのがわかる不思議な魅力。ミステリのような、ファンタジーのような、ホラーのような、いろんな要素がないまぜになって、現実と異世界を行きかうように話が進む、何とも不思議な雰囲気を持った作風。読み通してはじめてわかる味かもしれない。タイトルは「雲」と何ともシンプル。もし映画化されたら配給会社が陳腐な説明をつけそう-青春時代の傷を抱えて世界を回ってきた男はやがて不思議な出会いから過去の謎へと導かれる-といったところか。実際物語の軸は主人公ハリー・スティーンの人生で、親も孤児、本人も天涯孤独の身から、知り合う人に次々と導かれるようにスコットランドからアフリカ、南米へと巡り、カナダへとたどり着く。そこ模様のように出てくると感じたのは本、家族(男女、親と子(どの家族もなぜか親を名前で呼ぶ)、子どもたち)関係といった要素。スコットランドでの生活が鵜っともやがかかったような幻想的な描かれ方なのに対し、アフリカ、南米、ディジーの島で起こる出来事は明るくも恐ろしい。その幻想の対比が面白い。そしてカナダでの生活には地に足がついた現実感があるが、それでも妻や子をめぐる地震の思いが影のように刺している。それらに比して第四部の青春時代の辛い出来事の真相と現在に続く事実の部分は思ったよりカラッとしている感じである。それだけにエピローグが効いてくる。
本の作りが素敵。カバー絵も、所々挟まれる本の表示絵や表札、そして手紙や挿入された書物の活字などデザインがすべて素敵。稀覯本ではないけど本書も本として持っていたい一冊。
もしかして気づかない謎が隠されているかもしれない。折を見て読み返したい。またマコーマックの他の作品も読んでみたい。
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メキシコの古本屋で見かけた古書「黒曜石雲」。それはスコットランドのダンケアン町に起きた不思議な気象状況に関する記述だった。
ダンケアン。その名前に私の心は乱れる。それはまだ若かった頃の私が数ヶ月の間滞在し、情熱的な恋をして、そして酷く破れて去った炭鉱の町だった。
ここから物語は、ハリー・ステーンという名前の”私”の人生の回想となる。
ハリーは世界を回る生活だった。
生まれたのはスコットランドの工場町のトールゲートというスラムだった。大学を出て教師になるために訪れたのがダンケアン、恋に敗れてどこかへ行こうと船乗りとして海に出る。しばらくアフリカに滞在して、カナダに家を持つが仕事でまた世界を回る。
ハリーの人生は相当波乱万丈で、突然の別れに襲われたり猟奇的なものを見たり倫理的に問題のある問題を突きつけられたりするのだが、本書における語り口が淡々としていてどこか他人事ですらある。
書かれている伝承や、実際に経験したことも、なかなかグロテスク。出産で妻が死ぬと産まれた赤子を殺し自殺した夫、突然目玉が飛び出し大量に出血して死んだ子どもたち、不発弾が爆発して人を飲み込み崩れた長屋、女の母乳しか飲んではいけないシャーマン、アフリカの種族同士の争いで切り刻まれつなぎ合わされた死体、超常的な力を得た人たちに対する脳実験、互いに性行為も語り合う父と娘の深すぎる信頼関係、冷静な時は三人称で妄想に囚われている時は一人称になる物書き。
そうしてハリーが語る半生は、メキシコで「黒曜石雲」を手に入れたところまで追いつく。
「黒曜石雲」に書かれた不可思議な雲の現象は本当に合ったことなのか?そしてついにずっと避けてきたスコットランドを訪ねることにする。
ハリーの人生には突然の別れがあり、聞きたかったが聞けなかったことがあり、そして常に自分の人生に落ち着けなかった。
愛する人はなぜ自分を裏切ったのか?愛する人達は自分に突然訪れた死をどのように迎えたのか、親しい友人はその後無事に生きているのか、今彼らがいたらなんというのか…。
それらを少しでもわかるためにハリーはスコットランドへと向かう。そしてハリーに示される、新たな不安と、素晴らしい希望と、そしてそれらをも足元から揺るがすような悪い予感…。
自分の人生の謎、残酷で矛盾に溢れ怪奇に満ちたこの世界、だが自分の謎に向かい合おうとするのなら、不穏な先行きであってもそれは人生の旅なのだろう。
<いつも思うのだが、自分ひとりの胸にとどめておいたほうがいい事柄もこの世にはあるのだ。P453>
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不思議な小説だなあと思いながら、ぐいぐい引き込まれてしまった。ところどころのグロテスクな描写やエピソードに「こういう風に表現する必然性はあるのか?」と首を傾げながら読み、印象的なエピソードにも「これがどんな風に発展していくのか?」と気にしたりしていたけれど、本書の紹介文の「ゴシック」という表現に納得。
別に必然性もないけれど、そういうものなんだと。とにかく、全体を貫く印象は「不穏」。
すっきりとした解決はないけれど、この雰囲気を楽しむ小説なのだと理解した。