紙の本
圧倒された
2021/01/24 18:23
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投稿者:なみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
過去に罪を犯し、それに縛られて前に進めない。他の罪や災いも、全て自分で抱えてしまう。そんな主人公が遠田作品には多いような気がする。
読んでいて、辛くなってくる。ちょっとの幸福も、その後にくる何倍もの不幸に、粉々にされてしまう。その都度の、森ニの絶望が、辛く切なく沁みてくる。それが薄々わかっていても、読むのをやめられなかった。
バンドネオンの切ない調べや、清洌な青や白、空のイメージに、圧倒された。
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著者初読み。
ブクログの評価が高かったので、手に取った一冊。
妻・唯を殺害した罪で服役していた森二。出所した森二を待っていたのは二人の兄。実兄でのみ屋をしている光一と、唯の兄である義兄の圭介。
二人の干渉を避けながら生きることを決意する森二だったが、ある「奇跡」を起こせる森二を実兄の光一や周辺の人物は放っておかないし、圭介は唯を殺した事実を知る為に、森二に詰め寄る。
妻・唯を殺した事実を一人で抱え込みながら、一人で生きると決めた森二だったが、そんな森二を襲う様々なトラブル。
現在と過去を行ったり来たりする描き方はありきたりだが、再三登場する森二の「奇跡」の件があまり理解出来なかった。その「奇跡」がどれだけ森二を苦しめたのかは、ラストまで明かされない。
事件が起きるまでの、森二、唯、圭介の関係性はとても好ましいもので、事件の全容が分かった時は少々複雑な気分になる。
作品の厚みのようなものも感じるし、タイトルの「オブリヴィオン」もとても内容と合っていると思うが、全体に漂う森二が勝手に思い込んでいる罪悪感が、あまり理解出来なかった。私の理解不足かも。
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久しぶりの遠田作品だが、良くも悪くも物語のプロットは過去作と大差がない。巧みな人物描写が著者の持ち味だが、本書は物語の構成上登場人物間の行き違いが多く、互いに一方的な言動が甚く目に付いた。過去作の主人公も壮絶な過去を背負っているが、森二の人物造形が彼らに比べ些か表面的なのは、物語を構成する要素が多過ぎて、人物像の掘り下げが不十分な所為だろう。肝心な事の真相も終盤まで引っ張った結果、尻窄みになってしまった印象。色々盛り込み過ぎて奥行きの足りない窮屈な作品だった。私的見所は吉川兄弟の歪な兄弟愛と装丁の美しさ。
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相変わらずの遠田節炸裂。文庫化を心待ちにしていたもの。やっぱりテーマは贖罪で、どれも似たり寄ったりと言ってしまえばそれまでかもしらんけど、その都度味わわされる強烈なカタルシスは、他に代え難いものがある。今回は、ちょっとした超能力をまぶされているのが新機軸。極端に非日常的な力だと、物語の根底を揺るがす瑕疵になりかねないけど、本作においては良いアクセントになっていて、使い方もお見事。クライマックスも含め、存分に楽しませてもらいました。
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『雪の鉄樹』『アンチェルの蝶』『オブリヴィオン』と立て続けに読んだ。どれもすごくおもしろい。
徐々に明かされる秘密と衝撃の事実。そしてかすかな希望が見えるラスト。ページをめくる手が止まらない…のだけど、テーマ、人物のキャラが同じすぎて、おなかいっぱいになってしまった。
壮絶な生い立ちを背負った主人公。ろくでなしの親との確執。過去の傷。ピュアな子ども。救いの音楽…。
3作品の主人公たちが、3人で1つの人格に思える。キャラが一緒。
でも、作品ごとには読み応え充分で完成度も高いのだ。もうまもなく文庫化する『冬雷』も買ってしまうだろう。
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森二が唯を殺めた理由、圭介と唯の関係、冬香の本当の父親は誰なのか。
そうした過去の謎に加え、森二に絡んでくる沙羅、光一などとの絡みがどうなっていくのかなど、気になる要素が満載でページをめくる指を止められずに一気読み。更に、森二たちの過去が明らかになるに従い、自分が森二にどんどん感情移入していきました。
そのため、森二がふいに幸せだったころを思い出すたびに、現状の辛い状況とのギャップの激しさにこっちまで辛い気持ちになってしまったりも…… 森二や圭介、唯たちだけでなく、最初は嫌なヤツという印象だった光一にも、その過去を知った後は同情する気持ちが芽生えたりもしました。
ここまで人物たちに感情移入させられた本は初めてかもというくらい、のめり込んで読んだかもしれません。人物描写だけでなく、過去の真相、とりわけ圭介と唯の関係には心底驚かされましたし、人物相関の妙などあらゆる点で素晴らしい作品でした。
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初・遠田潤子さん。
ざっくり、生まれ育った悪環境から抜け出すのは容易ではないという重いお話。
森二一家は父親のギャンブル狂いで家庭崩壊。
兄の光一とノミ屋を生業としていた森二は、ある事件で将来の義兄となる圭一と出会う。
圭一は良家の育ちの大学院生で温厚な人物。
森二に人生をやり直す機会を与えてくれた。
共に応援してくれた妹の唯と結婚し娘にも恵まれた。
なのに、なぜ唯を殺したのか。
それはそれは複雑に絡まり合った不運のドミノ倒し。絡まってるから綺麗には倒れないのがポイント。
予想つくところと私には不発なところがあったので
強引に複雑にしているようにも感じましたが。
足を引っ張る。と言うのは上を目指してる者同士のイメージだったのですが、ここでは一人だけ悪環境から出ようなんて許しまへんで(大阪舞台なので関西弁で)という下へ引き込む話で使われていて、頑張っても無駄という無力感が絶望しか生まず、悪環境から抜け出すのは相当難しいものだとズンと胸が重くなりました。
最後の方に明らかになる森二の過去。親から受ける体罰とその理由があまりにも身勝手で酷く、それを知ってから見る表紙の絵は悲しいです。
隣に住む少女は指名手配の父親の帰りを待って、アルゼンチンに住む母親に会いにいく希望を持って真面目に一生懸命生きています。その真っ直ぐさ、胸が痛いです( ᵕ ᵕ̩̩ ) ズル賢いヤツらがいい目を見るのはやりきれない。
重い話ではありましたが光は見えたと思います。
⚫︎オブリヴィオン
忘却・人事不省
恩赦・大赦
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妻を殺害し、出所したところから物語は始まり、なぜ殺したのかわからないまま、進行していきます。過去を振り返りながら、読み手はそれまでの空白の時間を徐々に知ることになります。罪に苛まれながらも生きなければならない人達の痛みや再生が描かれていて、なぜそうなったのか理由を知りたいと思いつつ、グイグイ引き込まれました。
要となるのは、妻を殺害した動機です。それにより、翻弄される登場人物達が描かれていて、骨太な作品になっていました。
全体として、陰湿な雰囲気を醸し出していました。実の兄や妻の兄、娘の昔と今の変貌ぶりに冷酷さが加わって、主人公の目線に立つと、絶望という文字が浮かび上がり、この先どうなるんだろうと気持ち重めで読んでいました。
隣人の女性も加わり、とにかく女性陣の存在感が凄かったです。これが映画だったら、助演賞を獲るのではと思うくらい、発揮していて、より物語を引き立たせていました。
もちろん男性陣も引き立っていますが、特に陰の部分が際立っていました。ゲス野郎ばかりで、良い意味で腹が立ちました。
後半になると、様々な真相が段々とわかってくるのですが、その事実がため息をつくくらい、残酷なことばかりでした。
それでも生きていく登場人物達には、頑張ってほしいと思いました。それまで、淀んでいた気持ちだった分、最後は冷たさの中に温かみを感じたような気持ちになれました。
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吉川森二37歳は妻の唯を誤って殺してしまい、六年間服役して出所しました。
堀の外では実兄の吉川光一42歳と義兄の長嶺圭介47歳が待っていました。
森二の父親は生前理髪店を経営していましたが、ギャンブルにのめり込み、長男の光一はヤクザになっています。
森二は妻の唯と娘の冬香を深く愛していましたが、冬香と自分がDNA鑑定の結果血縁がないということが判明し、妻を問い詰め、誤って殺してしまいます。
義兄の圭介とは17歳の時出会い、唯と圭介は両親を4年前に亡くし二人で暮らしていました。
圭介は森二が光一とともにヤクザの道へ入っていこうとするのを、止めて、大検を取って、大学入学するのを勧めてくれ、自宅に招き、毎日森二の勉強をみてくれ大学を卒業させてくれた人物です。
唯との結婚後も二人の付き合いは続き、森二ら家族三人と一緒にしばしば、食事をする仲で、圭介は冬香を溺愛していました。
冬香が実子でないことを知ってからは、森二は血のつながらない兄妹であると聞いたことから、圭介と唯の仲を疑い始めます。
一方、光一は出所した森二を、ヤクザの世界へ引っ張りこもうと手下の加藤・持田とともに、森二に嫌がらせを始めます。
森二のアパートの隣の部屋に住むハーフの少女、沙羅が森二に助けてもらったことから、訪ねてきた10歳になる冬香の面倒をみてくれたり何かと世話を焼いてくれます。
森二には光一ら家族しか知らないギャンブルに強い勘が働き大当てするという特殊能力があり、そのために大きな事件にと発展していきます。
またヤクザの話か…と思いましたが、これは文句なく面白かったです。
森二と圭介の最初の結びつきの話は大変気持ちよく読めて、まさか冬香が圭介の子どもだったら嫌だなと思いました。
そしたら、この作家さん独特の横溝正史ばりの事実が待ち受けていました。
とんでもない結末ですが、これも悪くないと思い納得でした。
ただひとつ、唯が生き返ることがないのが、残念ですが、沙羅という少女の登場が救ってくれている気がします。
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遠田さんの小説は、設定が重く救いようがないものが多い気がします。
この主人公も、最愛の妻を自分で殺してしまい、兄はヤクザ、育ってきた家庭も荒れすさんだ家庭でした。
重苦しい展開の中、次はどうなるのかと気になり、読み進んでしまいました。
自分だけは自分自身でいることをあきらめちゃいけない、と思える本。
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202008/設定や人物、展開など今作も遠田先生ならではの世界観・空気感で、胸が痛くなりつつも堪能。やはり全作追いかけたい作家さんだな。
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銀花の蔵の遠田さんの一冊。
あらすじが気になってチェック。
とある事情から妻を殺した森二の出所から物語が始まる。
大切な人を殺した男が主人公という設定で、開始から既に救われない感じ。
最後には救いのようなものが感じられて良かった。
傷を抱えながらそれでも進んでいく。その姿がとても痛々しかった。
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森二が刑務所を出た日、塀の外で二人の「兄」が待っていた――。
自分を責め、他者を拒み、頑なに孤独でいようとする森二。
うらぶれたアパートの隣室には、バンドネオンの息苦しく哀しげな旋律を奏でる美少女・沙羅がすんでいた。
森二の部屋を突然訪れた少女・冬香の言葉が突き刺さる──「私、あの夜のこと、憶えているんです。
あなたは私の目の前でお母さんを殺しました」。
森二の「奇跡」と「罪」が事件を、憎しみを、欲望を呼び寄せ、人々と森二を結び、縛りつける。
更に暴走する憎悪と欲望が、冬香と沙羅を巻き込む! 森二は苦しみを越えて「奇跡」を起こせるのか!?
はい!始まった瞬間から遠田先生ワールド炸裂です(*^-^*)
刑務所を出た日、いなり二人の兄が外で待っている。
本当の兄と、義理の兄。
何なんだーーーーこのシチュエーションはっ!!!
遠田先生ならではの書き方。もう最初は本当に何が何だかさっぱりわからない。
どういう状況なんだー。コイツは何者なんだーーー!?
それがページを追っていく毎に、次第に全貌が明らかになってくる。
しかし、遠田先生の描く主人公は、色々な人が居るが、
やっぱり「いい人」(*^-^*)
遠田先生の描く「いい人」感。とても好きだなぁ~。
この本も序盤からガッツリ掴まれ、平日あまり読書をしない私も続きが気になってついつい夜中に目が開いたタイミングで読み進めてしまったりした。
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初読み作家さんだけど なかなか良い運びの作品だった。先ずはoblivionの意味を調べてから読んだ☺️ 皆さんの評価が高いので期待して読んだけど、テーマ的にはちょっと馴染まないから星3ヶにさせて頂きます。しかし女性作家らしい嫌味の無い話の展開なので興味深く読了いたしました♪
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始めはすごく冷たい印象の小説だったが、読み終わったときは温かい気持ちになった。
全部がハッピーエンドではなかったが、それが心地よかった。
遠田さんの本を読むのは初めてだったが、迫力のある文章だと思った。
森ニの一人称で話が進んでいくため、彼の過去や現在の感情の動きにとても引き込まれた。
登場人物が皆、自分の過去と戦うとてもよい小説だと思った。