電子書籍
銭湯の女神
著者 星野博美
いとしい香港から戻ってみれば、違和感のなかに生きる私がいた。『転がる香港に苔は生えない』で大宅賞、『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞を受賞した星野博美。銭湯とファミレスか...
銭湯の女神
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銭湯の女神 (文春文庫)
商品説明
いとしい香港から戻ってみれば、違和感のなかに生きる私がいた。『転がる香港に苔は生えない』で大宅賞、『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞を受賞した星野博美。銭湯とファミレスから透視した「東京」をめぐる39の名エッセイが、電子版で登場!
「銭湯に通っている。酔狂ではなく、切実に。三十を過ぎてから銭湯通いをするという将来を十年前には想定していなかった──」(本文より)
2年間にわたり香港に滞在していた著者は、1997年の中国への返還を体験した後、東京に戻り、中央線沿線でひとり暮らしを始める。
切なくも騒々しく、温かい街から戻ってみれば、違和感のなかに生きる私がいた。自分の存在そのものが異物になってしまったようだった──。
銭湯とファミリーレストランを周遊する暮らしから芽生えた思いを、鋭い観察眼と端正な文体で描いた39の名エッセイ。
解説・中野翠
※電子書籍化にあたり、新章「地中に埋まっている部分」を収録。
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紙の本
ファミレスと銭湯から、「鈍感になっていく日本」を考察する。
2012/04/15 23:14
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
このエッセイは、フリーのカメラマンである星野博美さんが、香港返還をはさんだ二年間を
香港で過ごして、日本に帰ってからから始まります。
香港での様子は『転がる香港に苔は生えない』で詳しく書かれていましたが、星野さんの
一種の「ゆるぎない観察力」というのはもともと備わっていたものなのでしょう。
日本に帰ってアパート暮らしをした星野さんは、ファミレスと銭湯に通うようになります。
星野さんは、ライターでもあり原稿を書くのをほとんどファミレスでしているそうです。
海外は、ベルリンと香港に長期滞在したそうですが、その時もカフェや飲茶店で新聞を
読み、原稿を書いていたそうです。
ファミレスには、色々な人がきます。マナーの悪い客、家族連れ、マニュアル通りにしか
口がきけないのか、という店員。
また、アパートは家賃が安いかわりに風呂がないので、銭湯通い。若いころはただ、風呂に
入る・・・だったのが、30代になってから銭湯に通いだしてから「知らない人たちが、全裸になる」
という空間を楽しむようになり、若い頃にはなかった感覚と書かれています。
星野さんの意見はとてもきっぱりしていて、日本はどんどん「鈍感」になっている、と何度も
書かれています。しかし、それをただ「今どきの若いモンは!」と目くじらたてるだけでなく、
何故、そうなってしまったのだろうか。今まで行った事のある外国と比べて日本はどんな
「鈍感さ」を持っているのか・・・という考察が鋭く、その提言には「鈍感な自分」を感じて耳が痛いところもあります。
星野さんはとても自分に厳しくて、自己嫌悪や恥いることがたくさんあるのですが、そこを
また、分析して考察します。その分、鈍感さを振りまいて気がつかない鈍感な人には厳しい
ですが、それに対して文句は言いません。ただ、黙殺は黙認ではない、ということでしょう。
私も銭湯めぐりやファミレス(学生時代はファミレスでバイトしていた)通いは、休日の楽しみです。
星野さんは、フリーだから、人と接しない生活をしないことも可能です。
私はどうしても仕事で、たくさんの人と長時間接する毎日です。だからこそ、息抜きになるのですが、
星野さんの場合は、毎日の生活の一部。
星野さんは自分を飾り立てるような、虚栄心が全くなく、少し出てくるお母さんの言葉から察するに
お母さんの厳しい目というのにさらされてきた故の自分に課してしまう真面目さのようなものを
感じます。
言葉に大変敏感であって、「ストレス発散」という言葉は意味がわかるけれど「癒し」は別の
もの・・・『今人々が求めている「癒し」とは、さしずめ対決拒否である。圧力を押し返す力も
もはやなく、ただどうにかしてほしいという投げやりな惰性』にしか思えないと、書かれています。
英語でhealは'癒す‘ですが、怪我や病気を治癒する、という意味であって、「和む」くらいで
「癒す」を連発するのは私もなんとも違和感がありますが、そこまで考察はできませんでした。
また自由と言う言葉と「勝手にする」を混同していないか。フリーの仕事をしたい、という
若い人には、「安定した収入がない」という事が当たり前なので、まず経済の事を考えたら、
と実際的な事を書かれています。
「甘える」「ちょろい」「楽しければいい」「すぐに答えがわかる」そういうものは性格的に受け入れられない。
まぁ、そこそこに流行に乗って、周りの人とそつなく接して、無難に世の中渡っていく・・・には
程遠い人なので、人によっては、「気難しい」とか「とっつきにくい」と誤解されてしまう人でしょう。
しかし、星野さんは人間として生まれた以上、常に他人と比較され、他人の評価によって
自分というものが決定されてしまう事実をきちんとわかっています。
だからこそ、あえて、人の集まる場所に身を置くのですね。そして、両足できっちり地面に足を
つけながら、余計な事は言わず、冷静に観察、分析できる部分と、正義感がとても強くて
許せないものは許せない、とひかない人なのだろうと思います。
電子書籍
どっぷり魅力に浸かる
2021/05/25 14:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
銭湯と自分時間をこよなく愛する、著者の生きざまが思い浮かんできます。エッセイストや写真家としての活動だけでなく、小説デビューにも期待したいですね。