安心して読める巧みの作品
2019/06/16 17:59
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「センセイの鞄」を読んで以来、彼女の作品のファンになった、センセイと主人公とのなんともいえない距離感が魅力的だった。センセイの鞄が2001年の作品で、この作品が2007年の作品、もともとSF雑誌に投稿していた人だから、他の人からは見えない女性が見えてしまうというような不思議な現象が自然に表現できている。本当に幻想的な場面と現実的な場面の配置が巧みだ。こんな終わり方だったら嫌だなとある結末を予想しながら読んでいたのだが、よくよく考えてみると川上弘美という人が私が想像しているような嫌な結末を用意している訳がなく、想像以上によい結末が用意されていた。
なぜ真鶴なのかわからない。
2009/11/16 19:46
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投稿者:野棘かな - この投稿者のレビュー一覧を見る
「歩いていると、ついてくるものがあった。」
最初の一文で、これは面白そうだと思い、好きなジャンルかしらと読み進む。
だが、日常を綴る平坦な言葉の中に、突如現れるついてくるという言葉、霊能者だといいたいのか、もしかすると殺人を犯し隠した抑圧からくる幻影なのか、ちょっと理解に苦しみながら我慢して読み進む。
困惑し、もしかしたら、森瑤子的組み立て方なの?とまた読み進むがよくわかない。
残る結末だけを期待しながら、残りを一気に読んだが、やはりあまりにも乱雑で、最後をまとめただけのような気がした。
どのように理解したらいいのかととまどったが、落し所は、解説者が書いている一文だろうと思う。
「十二年前に夫が失踪したために精神を冒されかけた女性が、母と娘の三人暮らしのなかで、幻視幻聴に悩みながらも、自力で回復にこぎつけるほぼ一年間の、すなわち春、夏、秋、冬、そして翌年の春までの、苦悩の物語・・・」
まったくその通りで、それ以上の何ものでもないと思う。
それだけの話をこのような書き方にする必要があるのかと言ってみてもそれは愚問なのか。
それが、川上弘美さんの特徴なのだといわれるだけだろう。
現在過去未来がランダムにフラッシュバックし、様々な感情が交錯する文章を書く森瑤子さんを重ねてみても、「ついてくる」という見え隠れする言葉以外に綴られた文章が普通すぎて違いが大きい。
真鶴という地が好きで、題名にひかれて手にとったのですが、なぜ題名を真鶴にしたのかもわからないし、解説者が言うようにこれが川上弘美さんの代表作だとしたらちょっと残念だ。
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投稿者:hiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
突然夫に失踪され、幼い娘と共に残された妻「京」の一人称で語れる小説だ。川上宏美の作品らしく、そこに描かれるのは普通の悲しみや悔恨ではなく、現実と異界との往還を繰り返す中で、次第に浮かび上がる乾いた感情だ。川上氏が描くと、ドロドロとした嫉妬心すらが、カラカラに乾燥しているから不思議だ。
夫が失踪して以来逢瀬を重ねている恋人との関係も、どこか現実から遊離した感があり、主人公の作家「京」が実生活にしかりとした根を持ち得ない、浮遊した女性として描かれている。唯一、彼女の周囲に現実感を持った存在として描かれるのは、たくさんの女達の気配だ。この世のものでない、どこか霊性を帯びた目に見えない女の気配との関わりが、むしろ現実感を持ったものとして語れる。大きな喪失感や怒りといった振幅の大きな感情を、内に秘めて生きざるを得ない現代の人達、あるいは都会の雑踏に埋没して生きる私達の寓話なのだろうか。
それにしても、主人公の異界と現実との往還が、東京と真鶴との往復に重ねて描かれているのはなぜなのだろう?
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「歩いていると、ついてくるものがあった。」
なんという胸騒ぐ書き出し。これは覚悟を決めなければ。いざ行かん、川上弘美ワールドへ。
大いなる期待と怖いもの見たさ的緊張を携えて、読む。
『蛇を踏む』で味わった不可思議な不気味さとどこか寄り添える郷愁が、あのとき以上に磨かれて、繰り広げられてゆく。
読みながら、ああ、川上さんは最早こんなところまで来られたのか、と、何度も何度も呟いた。
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夫が失踪した妻が主人公。親離れが始まる娘。夫が残したメモに真鶴の文字があり、真鶴に通ってしまう。内なる声との戦い。自分は何者なのか?
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12年前に夫の礼は失踪した、「真鶴」という言葉を日記に残して。京は、母親、一人娘の百と三人で暮らしを営む。不在の夫に思いをはせつつ新しい恋人と逢瀬を重ねている京は何かに惹かれるように、東京と真鶴の間を往還するのだった。京についてくる目に見えない女は何を伝えようとしているのか。遙かな視線の物語。
川上さんらしい作品。
百と京のやりとりが、すごくすんなり入り込む。
結論のない物語って感じが好き。
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いったい、何だったんだろう。川上ワールドが全開すぎて何が何やら。夫・礼が突然失踪した女・京。娘の百を抱えて、自分の母と暮らす。京には、何やら実態のない女がつきまとっていて、礼の行方を知ってるとも知らないとも言う。あっちの世界とこっちの世界を行き来しながら物語が進むので、もう何が何やら。性根を入れて読まなければ真意は分からない。ちょっと流し読みしすぎたあたしには難しすぎる。
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11月25日読了。あー、どうして読み落としてたのか・・・でも、たぶん、今これを読むために今まで読み損ねていたんだ、とも感じる。失ってしまったものや、失わざるを得なかったものや、出会わずに済まなかったものなど、いろいろなものに囲まれながら生きて、暮らしていくわたし。感動、とか、納得、という言葉とはちょっと違うけれど、ふぅと息をつくような終わり方をしている物語の後にあの「解説」はいらなかったなぁ。解説なんかされなくてもわかるから。
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突然、なんの前触れもなく失踪してしまった夫のことが、十数年たったいまも忘れられない主人公は、父親のことを覚えていない娘を連れて実家へ戻り、いまは実母と共に、母娘3代ひとつ屋根の下で暮らしています。
仕事で知り合った妻子ある男性と愛を育みながらも、〝ついてくるもの〟に惹かれるようにして、たびたび真鶴を訪れます。真鶴のなにがそこまで彼女を惹きつけるのでしょう。そして、〝ついてくるもの〟とはいったい・・・・・。
主人公はその時々の状況によって、母親であり、娘であり、かつては妻であり、愛人であり、あるいはそれらが渾然となって、様々な表情をみせ、情念が入り乱れます。
物語は主人公の内面描写を中心に綴られていきますが、読み進むうち、ここではほとんど語られない母親や娘の人生にまで、いいえそれどころか、この物語にはまったく登場しない血の繋がったものたちや、そうでないものたちのことにまで、思いを馳せることになります。激しく、それでいて静かな、果てしなく大きな潮流。。。
それにしても、突き抜けた愛の、なんて哀しく、寂しいことでしょう。〝喪失〟と、時々見え隠れする〝死〟という極めて文学的なテーマを扱いつつ、しんみり胸に沁みる物語に仕上っているのは、川上弘美さん独特の味わい深い文体のなせる業なんでしょうねぇ。川上文学が益々好きになりました。
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泉鏡花のような、夢か現か分からなくなる小説。
昔付き合っていたけれどもう二度と会えない人を思い出す本。
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お話は淡々と進むのに、
これ以上無い程、心が苦しくなったりした。
涙が出た。
苦しいけど、すごく、良い。
独特の感性が大好き。
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微妙。微妙。微妙。
うーーん、何が言いたいのだろう?そこで毎回悩むぜ川上さん。
なんで真鶴なんだー
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真鶴に行くことで自分のなかの「幽霊」(ついてくる女=無意識の自分、或いは受け入れられない自分)と何度も向き合い、失踪した旦那との決別を受け入れるまでの話。なんとも云い難い不思議な読後感。少し気持ち悪くなるくらい生々しく、そして瑞々しい印象。解説を読むと、はじめから読み返したくなる。
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たゆたゆと話が進む
そして後半からたゆたゆと激動に
このたゆたゆ感が女性の心理の変化の流れとすごく共鳴しているなーと感じて
すごいなーと思っただけど
読んでいて苦しくなってしまうので
私は苦手な本でした
人を愛することをこわく感じてしまう本だよなあ
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川上弘美さんの『真鶴』を読みました。 川上さんの作品は『夜の公園』、『風花』を
読んでいたので同じ様な作風なのかと思っていましたが全然違いました。
ストーリーは12年前に夫が失踪し、「真鶴」という言葉を日記に残して。
一人娘と実の母と三人暮らしをしながらも、不在の夫に思いを馳せつつ
新しい恋人と歳月を重ねるが、何かに惹かれるように東京と真鶴を往復してしまう。
彼女についてくる見えない女は何を伝えようとしているのかという遥かな視線の物語。
今までの川上さんの作品だと男女の関係をあまり赤裸々に書かないで、
心が揺らめいているその描写が特徴で好きでしたが、
この作品ではそれが無くてまるで違う人が書いたかのような描写でした。
夫が突然失踪して、「真鶴」という言葉だけを残して行ってしまうのは
あまりにも寂しさ、悲しさが多いと思います。
でもその心の隙間を埋める為に新しい男性を求めてしまうのは
私には出来ないと思うけれど、その寂しさも分かるような気もします。
主人公の京(けい)は子供を生んで間もない頃は子供に熱心だったけれど、
本能的に強いせいなのか夫の礼(れい)への愛情が深いのとも思いました。
それも理性の愛情ではなくて、本能的な愛情が強い女性であるのかと思いました。
それは夫だけでなく、新しい恋人でもそうゆう行為が随所に書かれていたので。
普通は子供を生んだらもう少し子供への関心や愛情が強くなるのかと思うのですが、
それが無くて逆に若さの羨ましさなど感情が入ってきているので
普通の女性とは少し違う感じがしました。
子供を生んだことが分からないから何とも言えないですが・・・
そしていつも目に見えない女性がついてきて話をしたりしてる行動。
この女性はいったい誰なのだろうかと・・・
誰と話をしているのかぺージを何度もひっ繰り返しても、
先に読んでも分からずじまいでした。
全部読み終わってから解説を読んでみたら、その正体には驚きました。
あまりの驚きで頭の中が混乱してしまいました。
こうゆう小説は昔からあるようで、私は初めてだったので理解するには難しかったです。
この類の小説をまるでリアルのように書かれていたのは解説を読んで
素晴らしいなと改めて思いました。
愛について深く掘り下げて描かれていると思いますが、
重々しくないところもまた良かったと思います。