紙の本
自分のやりたいことはなんだってできる
2023/02/12 20:38
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投稿者:あお - この投稿者のレビュー一覧を見る
※ネタバレ含みます
ナイジェリアの事業家のもとに生まれた主人公の少女。狂信的とも言える父親からカトリックのしきたりを徹底遵守するよう叩き込まれてきた。
休暇に叔母やいとこのもとへ身を寄せることとなり、そこでの人との触れ合いを通じてだんだんと自分軸を手にしていく話。
主人公は学校で常に成績1位でなければならず、常に父親の望むあり方を押しつけられている。それは2つ上の兄も同じで、母もまた夫の暴力で流産させられようがひたすら付き従っているというのが第三者から見たら相当歪んでいるとしか言いようがない。やりとりが明らかにDVだし明らかに虐待である。しかも父親からすればそれが神の意志であり、子どもへの愛ゆえに痛みを伴っているとおそらく本気で信じているだろうあたりタチが悪いと思ってしまった。
特に父方の祖父(息子からは異教徒と呼ばれている)と同じ部屋で過ごしたことを自分に黙っていたというだけで父親が娘の足に熱湯をかける(それもゆっくり何度も)場面はやり場のない感情で少々嘔気がした(念のため申し添えておくが、個人的に特定の宗教に対して思うところはない)。
その根底には自らの生まれた土地の伝統的なものに対するどうしようもない劣等感がずっと張り付いていたりはしなかったか?と想像したりもする。
兄はそんな家族のあり方のいびつさに気づいており、外の世界への適応も割と抵抗なくできている印象で、少なくとも主人公よりは要領良くて柔軟性があるのかな、と思えた。
一方、主人公は何をするにも、何を言うにもうまく動けず、まず兄がどうするかと反応を気にしている。1日のスケジュールの細部まで父親に分単位で厳しく管理され、自分の頭で考える機会を奪われてしまっているのだから無理もないだろう。
同い年の従姉妹や学校のクラスメートからはお金持ちのお嬢様でお高くとまっているととられ、人間関係がうまく結べない。
しかし、叔母の家に出入りしている現地人の神父と出会い、それを機に自らを少しずつ解放できるようになっていく。
「自分のやりたいことはなんだってできるんだよ」
個人的にこの本での一番の至言である。
自分は何が好きで、何を望むのか、それに従って生きることがどれだけ満たされることか、主人公がその境地に至るまでのゆっくりとした流れが心地よかった。
件の神父にスタジアムへ誘われ、従姉妹のリップスティックを塗っては消しまた塗っては消し、している時点で、恋だな、うん、とニヤついてしまったのだけれど(主人公のいとこ達も事あるごとに2人のいい雰囲気を指摘している)結局は聖職者だからという理由で恋は叶わない(もっとも、聖職者という身の上を考慮しなくても良いのなら彼は彼で主人公に惹かれていたようにも思えるが)。
個人的には「ええ〜だったらそんな思わせぶりな言動しないでよこの天然人たらし〜(失礼)」と何とも言えない気分になってしまったが、主人公は彼が聖職者である点も含めて好きなのだろう、とも思う。従姉妹から、彼に聖職者をやめてほしいかと問われ、彼は聖職者を絶対にやめない、と答えたあたり、彼自身の大切にしているものを尊重したいという思いがあったのではないか。
自分の<好き>を大事にしようと教えてくれた人を丸ごと受け入れ、そして愛するという彼女の決然とした想いに、胸を打たれた。
紙の本
一番好きな作品かも
2022/07/19 12:18
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投稿者:ぱんださん - この投稿者のレビュー一覧を見る
先に『なにかが首のまわりに』と『アメリカーナ』を読んでいたので、この作品も気になり、読みました。長編デビュー作とのこと。3つの中でどれが一番好きですか?と聞かれたら、間違いなく、これで、す。あぁ、この若い主人公たちはいったいどうなるのかな?という気持ちで読み進むことができ、またその当時のナイジェリアの様子、生活様式(食べ物・衣類など)を物語から覗うことができます。著者のフレッシュな感性が一番光る作品に感じました。日本からは遠い遠いアフリカの地が舞台ではありますが、伝統文化と外国からの影響をどう受け入れていくのか?というテーマは日本にも響くものがあると思いました。
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それがですね、しんどいんですよ。国の情勢も、父親の支配も、読んでいてつらい。従順に暮らしてきた15歳のカンビリが、イフェオマおばさんの家に行って初めて知る、賑やかな食事の時間やおしゃべり。圧倒されながらも、そりゃ引きつけられるだろうなあ。
しんどいながらも、最後のほうには力強さも感じる。それが何なのかを少し考えてみたいと思う。
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主人公である15歳の少女カンビリ目線で書かれているからか、とても読みやすかったけれど、内容は容赦なかった。
社会的にはビジネスで成功し、寄付などで社会貢献もするお父さんなのに、凄まじい家庭内暴力者。でもそれもキリスト教の教えに倣っているだけで、罰を与えたあと本人は涙を流して、子供たちに愛してるという。とても複雑だ。
主人公が人間味を取り戻し、様々な感情を体験する姿は、こちらも心が晴れやかになった。お兄ちゃんはあの後どんな大人になるのだろう。少し心配になった。
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遥か遠いナイジェリア
少女が語る物語に悲壮感はない
家長であるパパ、敬虔な信者で、今の自分を確立した礎になっている大事な信仰が故、愛するが故の過ちへの断罪は容赦なく、言葉にならない
心を明らかにできず、苛立ちにうまく対処できない彼も悲しいけれど、それを差し引いても、どれだけ愛があったとしても
はやく大人になって
何も知らない子供たちには憐憫の念しかない
「パープルハイビスカス」
タイトルの意味は重い
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ナイジェリアの文学
人物名や風物も未知のものばかり
主人公カンビリ(15歳)は大金持ちのお嬢さんだが一代で成功した父親ユジーンはイギリスのミッションスクールで徹底した教育を受けた 容赦ない神への信仰と懲罰
ユジーンは方々へ多額の寄付献金を惜しまない
が家庭内では家族へ凄まじい暴力を振るう家長である
読んでいて背筋が凍るほどである
だがユジーンの妹イフェオマとその子どもたちに出合ったことでカンビリと兄ジャジャは違う世界があることを知る 叔母といとこ、その周りの人々との交流で父親の前で始終びくびくしていたカンビリは自由に発言し笑顔をみせることができるようになる ほのかな初恋も経験する タイトル「パープルハイビスカス」は自由の象徴だ
結末は思いきった出来事が起こり甘くない
アディーチェ26歳のデビュー作品
めったにないページターナーだ
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腐敗しきった政権のナイジェリアが舞台。
カトリックの正義、歪んだ愛、社会的には成功者の父が家族を抑圧する。カンビリと兄のジャジャが叔母の家で知った自由は父の元で息を詰めて暮らす生活に疑問を抱かせる。16歳のカンビリがいとことの友情や神父への愛に気付き成長していく。瑞々しい風景描写や気持ちの表現などこちらにぐいぐいとせまってきた。訳もわかりやすく原語そのままカタカナにしてあるところなど雰囲気が伝わってきて素晴らしい。
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朝日新聞202272掲載 評者:江南亜美子(京都芸術大学専任講師,書評家)
日本経済新聞2022723掲載 評者:粟飯坂文子(アフリカ文学者)
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ナイジェリア南部の町エヌグの大きな屋敷に住む、15歳の少女・カンビリ視点で描かれる物語。
物語、と読んでいいのか悩むほどに生々しい部分もある。
身一つで会社を起こし、世間では敬われているカンビリの父は、敬虔すぎるまでのカトリック教徒であり、腐敗したナイジェリア政権を批判し立て直すべく、政権批判の新聞社にも多大な協力をする人だ。
しかし尊敬される反面、過度に偏った思想と信仰心を持つ父親は、カンビリやカンビリの兄ジャジャには常に学校で一番でいることや、敬虔なカトリック教徒であることを強要し、家族が罪を犯したと認識した時には母親や子どもたちに酷い暴力と暴言を何度も何度も振るった。
異教徒である実の父親、パパ・ンクゥと子どもたちが同じ家の中で過ごすだけでも激怒した。
カンビリより下の兄弟がいないのは、おそらく度重なる身体的・精神的DVのせいだろう…
カンビリの母は何度も流産している。
強固な家父長制の一家には、お金はあっても自由はなかった。
カンビリが学校で一番の成績を取り続けるのも、取り続けたいからではなく、取らなければ恐ろしいことが起こるからであった。
自発的なものでも、自分の成長のためのものでもなかった。
抑圧された環境の中で、カンビリは誰にも自分の家の決まり事や事情、己の感情を何も語ることができず、学校ではお高くとまっていると誤解されていた。
そんな最中、父の妹…カンビリのおばさんといとこたちの住む家に一時的に滞在することになったカンビリとジャジャ。
この家ではお祈りも楽しそうにやっている。
議論も盛んに行われ、カンビリのように父親に決められたスケジュール通りにしか動けないようなことはなく、貧しくとも、そう、いい意味で自由な家であった。
自由な家の中で、カンビリ兄弟より年下のいとこたちは既に大人びており、自立していた。
そしておばさん宅に訪問してくるアマディ神父との出会い。
次第に変わっていくジャジャ。
遅れて自由というものを実感していくカンビリ。
同い年のいとこのアマカやおばさんに指摘され、自分の考えていることを怖がらず口に出すことができるようになっていくカンビリ。
ゆっくり生まれ気づき育まれる恋愛感情。
自由というものを知ってなお、自分のいた環境のおかしさに気づいてなお、父親に認めてもらいたい、愛してもらいたいと思ってしまうカンビリ。
物語は予想だにしない展開になっていく。
カンビリたち一家の変化や、その他の様々なことが多彩に描かれている作品だ。
ナイジェリアの文化(例えば現地語であるイボ語がカタカナ表記で読むことができ、パパ・ンクゥがカンビリやいとこたちにナイジェリアの口承伝承を語る場面を読める)や執筆当時の情勢を知ることができ、いろいろと新鮮であった。
本作は遅れて邦訳された、作者の処女作であるとのこと。
より洗練されているであろう作者の他の作品も読んでいきたい。
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主人公はナイジェリアの少女カンビリ。父・ユジーンは成功した実業家でありながら、政情不安定なナイジェリアで数々の慈善活動も行い、社会的には立派な人物とみなされているが、家庭では家父長的に振る舞い妻や子どもにDVを繰り返す。そんな父の視線に怯える日々を暮らしていたカンビリと兄・ジャジャが、大学教師であるイフェオマおばさんの家で暮らす経験を通して外の世界=自由を知ることで変わっていく物語。
「自分の人生を自由に生きることの価値」というメインテーマの他にも、ナイジェリアの伝統文化に対する敬意や、それらを蔑ろにする白人たちのパターナリスティックな視線に対する反感など、ナイジェリア出身である作者ならではのメッセージも感じ取れる。総じて、読んでいて励まされるような前向きな作品だと思った。
個人的には、ジャジャの立場を想像して胸に重いものを感じてしまった。ユジーンのような暴力は無かったが私の父も非常に家父長的な人で、10代の頃、私は実家で辛い時間を過ごしていた。一度、父が肺炎かなにかで緊急入院したときは「このまま死んでくれたらいいのに」と心の中で願ったことを覚えている。とにかく早く家を出たくて、そのために大学受験を頑張ったようなものだった。
誰かが求める「自由」が周りとの関係に緊張をもたらすケースが多々あることは分かっている。しかし、それでも「自由」でいたい。人間から「自由」を奪うべきではない。そう信じて生きてきた自分自身を、改めて見つめ直すきっかけになる作品になった。
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「発掘王への道#5」はチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『パープル・ハイビスカス』です
海外作品も発掘します
王ってそういうことですから
苦手分野ないのが王ですから
まずは作者紹介から!
訳者あとがきから抜粋!(一部省略)
1977年生まれ。ナイジェリア南部のエヌグで、イボ人(ナイジェリアの民族の一つ)の両親の六人の子どもの五番目として生まれた。父親はナイジェリア初の統計学教授でナイジェリア大学の副学長を務めた人。
ナイジェリア大学で薬学と医学を学び始めたが、十九歳で米国にわたり、コミュニケーション学と政治学を学び、その頃から作品を書き始めました
本作は作者の第一長編で、ハーストン/ライト遺産賞やコモンウェルス初小説賞などを受賞
なんとナイジェリア文学発掘です!
舞台ももちろんナイジェリアですが、軍事クーデターが繰り返されていた1980年代あたりころのお話と思われます(間違ったらごめん!)
現在のナイジェリアは(他のアフリカ諸国に比べれば)比較的政治情勢は安定していて、アフリカ一の経済大国となっております
石油がでるのよね
GDPで言うたら世界第24位ですって
つまりG20なんて言って先進国づらしてる国々のすぐ次に位置してるってこと
急成長です
ラゴスなんてとんでもない大都会だし!もちろん写真でしか見たことないけど!
そしてナイジェリア文学です
なんか調べたらウォーレ・ショインカさんていうノーベル文学賞作家さんも輩出してるのよ
すげー!ナイジェリアすげー!
よし本編!
もうね、本を開いた瞬間ムワッとしました
これがナイジェリアか!と思いました
もう言葉数が凄いのよ!段落がほとんどなくて文字かみっしり詰まってるの
うわこりゃあしんどそうって思ったんよね正直
ただ読み始めたら作者の情熱みたいなんを感じたんよ
ナイジェリアを知ってもらいたい情熱みたいなんをすぐ感じられたんで嫌な感じはけっこう直ぐに無くなりました
わりと読みやすかったし
うーん、なんかね内容的にはちょっと難しかったかな〜
いわゆる白人文化と伝統文化が混ざって行く中で生まれた捻じれみたいなんが家族の中にも色んな歪みを発生させてみたいなお話だと思うんだけど
伝統を大切にしたいって気持ちと経済成長を遂げて豊かになるには白人の常識も受け入れないといけないみたいなね
無理に混ぜようとすると時に悲劇を生んでしまうというかね
そしてこの本の中でも、役人は賄賂をうけとるのが仕事みたいな感じですが、現在のナイジェリアでもまだまだ政治腐敗は続いているみたいです
ある年の石油収入150億ドルのうち100億ドルが使途不明とか恐すぎ
人身売買とかも普通に行われてるし
日本に生まれて良かった
なんかとりとめのないレビューになってしまった
まとめる力なしか!
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翻訳文学試食会からのスピンオフで、『アメリカーナ』に続き、本長編も読了。
”泣きながら一気に読みました”といえる本が、また1冊増えた。あとがきを見て、これがチママンダ・ンゴズィー・アディーチェ氏のデビュー作と知り驚愕(翻訳されたは一番遅い)。
『アメリカーナ』で堪能できた、人物や風景描写の細かさの萌芽がすでに見られたほか、主人公と兄が叔母の住むところに行った時の食事の描写がとても鮮やかで、そこでの暮らしが、主人公にとって本当の自分でいられるんだということを暗示しているようだった。
好きな作家は?と聞かれた時には、「たくさんいますけどぉ、チママンダ・ンゴズィー・アディーチェさんもその一人です」って、どや顔で答えてやろう。