紙の本
レム睡眠の狭間で,恋人がぽてぽて走ってくる姿が目に浮かびます。
2017/05/30 21:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初,SFかと思った。
これは自動化の便利さを追い求める世の中への反証。
二十年近く前の発行だが,全く古びれない驚異的な作品だ。
現在,単行本・文庫本とも入手不可なのが残念だ。
芥川賞全集第15巻または掌編小説集「闇に学ぶ」で読むか,
図書館等で探していただければと思う。
主人公のぼくと聡は,通信社で起こし屋のアルバイトをしている。
宿直室に寝泊りする社員から希望を取り,文字通り起こして
差し上げる仕事だ。
それにしても,人を起こすということだけなのに,なぜこんなに
沢山のお宝話が見つけられるのか。
辺見さんの観察眼に敬服する。
想像だが,辺見さんは元記者だから,本当に起こし屋付きの
宿直室があって・・・寝ないで観察していたのかもしれない。
すごい好奇心。
聡は起こし名人として登場する。ぼくと初めて会った日のこと。
一夜明けた朝に独り言のようにつぶやく。
>「ひとを起こすということを,ここの人間は軽く考えすぎて
> いるんだよ。 (中略) 眠り,覚醒するまでの時間って,
> 起きていて眠るまでとおなじほど大変なことなんだ。」
深く考えたことはなかったけど,確かにそんな気もする。
目が覚めても,しばらく布団でごろごろしてから起きないと,
倒れそうになってしまう。
私も当直の経験があるが,会社での寝起きほど緊張感が必要な
ものもない。起きたらすぐにしゃっきり,同僚には仕事の顔を
しなければならない。睡眠はリラックスと疲労回復が大きな目的。
そもそもリラックスに効率化なんてある訳がないから,会社で充分に
眠れないのは当たり前だろう。自動化なんて最もふさわしくない。
聡は,それこそ身を削るほど真剣に起こす。
会社は,ウィーン・プシューでベッドが起き上がる自動起床装置を
導入し,起こし屋の人件費を効率化しようとする。
人間性を排除しようとする動きに,聡は全身で対抗している
ように見える。目を覚ますということを通して,数値化できない
人の温もりと,会社の冷酷な効率主義が浮き彫りにされている。
人間は働くロボットじゃないんだよね。
起きたらすぐに業務が出来るようにすること。
会社では仮眠なんだから。
ああ,当直の時にそんなこと言われたっけ。
紙の本
私の睡眠に他人を介入されたくない
2020/02/22 22:17
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
第105回芥川賞(1991年上半期)受賞作品、タイトルが変わっているのでずっと気になっていたのだが、やっと読むことができた。バイトをする大学生が主人公なので作者は若い人だと思っていたら、受賞時には40歳代後半になっていた人だった。この奇妙な装置はちょっと前にテレビのニュース番組かバラエティー番組で駅員さんが利用しているところを見たことがある。まあ、たいていの人は目が覚めるだろう。「起こし屋さん」という職業が実際にあるかどうかは知らないが、主人公の友人・聡が「人の眠りを覚ますものが、機械ではダメなんだ」と力説すればするほど私はその考えに異を唱えたくなる。私は機械に無造作に起こさることを望んでしまう、私の睡眠に他人を介入されたくない
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最近お気に入りの古本やで、タイトルにひかれて購入。
安部公房にもにたぬるっとした感触のする小説。
眠りについて一考してしまいますね。
なぜ、眠るときは気持ちいいのに、起きる時は気持ちよう起きれないのか?
目覚まし時計に起こされるのもイヤやけど、親にどなられておこされるのもイヤです。
○○さーん、○○さーん、○、 ○、さーーん、、って起こされたいですね。
2008/06/22
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読み終わって戦場カメラマンの宮嶋さんが浮かんだ。
文体全く違うのに。
この5年で読んだ日本人作家の中で一番凄い。
読みたいのに、読むのに必要な気力を奮い起こすのに苦労するような、
読後にこちらの両肩に課題を乗っけていく作家。
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通信社で『起こし屋』として働く主人公と、聡。
仕事柄ある時間に起きなくてはいけない人々を、眠りを妨げることなく快適な目覚めと共に覚醒の世界に呼び戻すアルバイトに従事する2人。
眠りということに並々ならぬ哲学を持つ聡。その哲学に頷きながらも、どこか適当で迎合的なところがある主人公。
聡の並々ならぬ起こし技術と眠りへの哲学に影響されて、主人公と、もちろん聡は「起こし屋」としてのプライドを持ち、淡々と、しかし確実に仕事をこなしていく。
しかし、「自動起床装置」と呼ばれる定刻にゴム袋が膨らんだりしぼんだりすることで寝ている人を自動的に起こす装置の導入により、ささやかな抵抗を試みるも2人は起こし屋としての仕事を終える。
聡が現代社会に警鐘を鳴らす筆者であり、
主人公が少数の声に耳を傾けながらも、結局は時代の流れに無自覚的に乗っていく、私たち大衆なのかもしれない。
新しいコンビニのバイトに誘おうとする主人公に対して、どこかに消えてしまった聡の姿が対照的だ。こんな風に、”少数”は静かに消えてくかと思うと非常に現実的。きっと、主人公は聡のことを心のどこかに留めつつも、日常をこなしていくはずだ。
”現代人は睡眠時間を削って、さも覚醒している時間(起きている時間)こそが大事で、起きている時間こそに優位性があると考えている。でもそれは違う。睡眠も覚醒も同じようにデリケートであり、その境となる就寝とそして起床・目覚めには細心の注意を払わなければいけない。”
こんなようなことを聡が言っていたのが印象的。
作者の辺見庸を好きだと言っていた友人が、彼の作品が好きな理由を「動物を人間と対等な視線で扱うからだ」と話していた。
まさにそんな風に、私たちがおろそかにしている、眠りや目覚めというものを大切に扱っている。
そこにこの小説の新しさというか、読むおもしろさ、ひいては読む価値があるんだと思いますよ~
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1991年上半期芥川賞受賞作。まず、何よりも題材と着想が目新しく新鮮だ。眠っている人を希望の時間に起こすという「起こし屋」なるアルバイトが実在したものかどうか定かではないのだが、ともかくそうした仕事に従事する2人の青年を主人公として、彼らの視点で語られてゆく。ここでは「眠り」をその内側からではなく、あくまでも外側からの客観的な観察によって眺め語るのだが、度々語られる樹木と共に「眠り」それ自体が大いなるメタファーであるかのようだ。ただ、表題の「自動起床装置」は小説の上では必ずしも有効に機能していない。
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私の原点とも言っていい作品。ひそやかで細やかな描写の影に潜む闇は作者の視点の広さを感じさせる。起こし屋、という稼業と眠り、そして自動起床装置を用いて語られる世界が美しい。
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http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163127507 ,
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167564018
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併録されている「迷い旅」という作品に心を動かされた。
味気ないスルメが結論めいた味という表現。
グッドスメル。
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宿直者を指定された時間に起こすことを仕事としているアルバイトたちの話。
入眠と覚醒は同じくらい大事という記述に同感。
あとは、大して何も感じなかった。
芥川賞受賞作。
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よく、小説では、人間的根源の要素をテーマにする、といった事が多いが、その大概は、性欲であったり、広大な煩悩に対する欲望に焦点が当てられており、他が蔑ろにされている気がしていた。その点では、表題作は、人間の三大欲求に分類される、「睡眠」という分野の荒野をただ突き詰めた、という斬新さを得た。まだ未読だが、作者は他にも「食」について注目した、「もの食う人びと」という作品もあり、いずれ読んでみようと思う。
さて、本書についての感想だが、現代社会の睡眠に対する意識の低さというのが、注目されるべきだと主張だと思われたのだが、私生活を覗いて見ると、社会人であれば、時間に余裕が無い場合、その余裕をどこから作り出すかという点に対し、まず睡眠時間というのもが出てくる。そのことについて、疑問を呈した一冊では無いだろうかと感じた。人が人を起こすことと、時代に合わせ、機械が人を起こすこと。起きていることと、寝ることは、同じくらい注意するべきなのではないか、という本書の言葉は、とても自然的であると同時に、現代では生物として最も欠落した意識の要素だと思われた。そういう点を踏まえての、この物語の結末というのは、ある意味、それでも人間は愚かにもその自然を打破しようと、そうする意図を感じとてるものとなっているのは、面白い。
同時に収録されている「迷い旅」は、海外の戦場の、ジャーナリストとしての日常の一瞬を切り取った様な、ルポルタージュの雰囲気も持つ短編だった。
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人を起こすバイトという着眼点が面白い。そしてその役を装置に取って代わられたら?つきつめて考えると、これって最近世間を賑わせてる「AIが進化したら人間の出番は?」の問題と同じではないか?なんとも著者は20年以上も前に問題を予言していたというのか?っという深さを考えながら読むとなお面白い。
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睡眠にも人間性が現れるものですな。起こされると殴る人とか勘弁してほしい。起こし屋の聡が囁くように呼びかけるシーンは何か異常な世界を垣間見てしまったような背徳感があった。聡の彼女が入眠を誘う側だったり、いかにも芥川賞らしい作品だった。私はもう長い事iPhoneのアラーム音で起きているが問題なし。
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◯◯。さーん。◯◯。さーん。
起こしの達人に1度起こされてみたい。
人と機械の関係性が睡眠をテーマに多様な角度から描かれている。時に神が現れ、時に樹木の図鑑を旅しながら眠りの世界に導いてくれる。
辺見庸さんの文章は、いつも日常では遠ざけている人間の根幹を描くというより語る。語る。語る。
読者を突き放すほどにあっさりしていた終わり方だけは何か寂しかった。
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漸く読む。主人公の設定が昭和43年生まれで僕の1つ下。眠ること、起きていることの重み、深海で暮らすような起こし屋の生態が面白い。