電子書籍
びんの悪魔
著者 R・L・スティーブンソン 作 , よしだみどり 訳 , 磯良一 画
不老不死以外のどんなことでも叶えてくれる不思議なびん。しかし、そのびんを死ぬまで持っている者は地獄におちることになる。びんを手放したければ、かならず自分が買ったときよりも...
びんの悪魔
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商品説明
不老不死以外のどんなことでも叶えてくれる不思議なびん。しかし、そのびんを死ぬまで持っている者は地獄におちることになる。びんを手放したければ、かならず自分が買ったときよりも安い値段で、誰かに売らなければならない。 ケアウエは自分の欲のために、幸せのために、そしてときに愛のために、悪魔のびんを追い求める。そしてとうとう、いちばん安い値段で買うことになった彼の運命は…… 『宝島』『ジキル博士とハイド氏』の作者R・L・スティーブンソンによる、怪奇短編作品。
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紙の本
買い主の言いなりで欲しいものを何でも引き寄せてくれる魔法のびんと、人生を振り回されてしまう人びと。印象深いさし絵と品の良い造本で完成した、『宝島』のスティーブンソンが残した童話。
2010/08/09 16:37
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今とても気になるイラストレーターのひとり、磯良一氏の絵に惹かれ、読んでみたい気になった。表紙がこの絵でなかったら目に留めず、手に取っていなかったのではないか。『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』を書いたスティーブンソン作品であるし、古典童話は慎重に選択する福音館書店から出されたものだから外れはなかろうというのが、手に取った次の段階での判断。
そして、この表紙の「べっぴんぶり」はどうだろうと感じ入って確認すれば、名匠・辻村益朗氏の装丁なり。松谷みよ子『いないいないばあ』やらユリ・シュルヴィッツ『ゆき』等の絵本はじめ、角野栄子『魔女の宅急便』、「くまのパディントン」シリーズでお世話になっている、という感じの洗練のわざ、その数々が惜しげもなく披露されている。 例えば、題字に手描きで加えられた影のあしらい、本文とさし絵の刷り色のネイビーブルーのシックさ、本文中の柱文字(作品名や章題を入れたもの)のレイアウト位置、表紙と中扉のイラストの扱い方、白地スペースの涼しさ加減、その一つひとつが、きちんきちんと収まるように収まっている。
「山羊と紙の丘陵」というブログでたっぷり見られる磯氏の絵は、黒く塗られた石膏ボードを刃物でひっかく技法で生み出されるらしい。ひっかくとき、一体どういう音を立てるのだろう。その音が招き寄せる、妖しく、まやかしめいた奇妙な光景は、19世紀生まれのスティーブンソンの昔話風童話にとてもよく合う。
1891年に最初に出版されてから、世界中でいろいろな絵が添えられ、いろいろな形で本が出されてきたのだろうけれど(実は、前に一度読んだことがあるような気がしている)、そうしたものの中で、今回のような見事な作りの本はおそらくなかっただろう。見て比べないでも、そういう気にさせられる。
あとがきを入れて100ページちょっと。あれよあれよのうちにサクッと読んでしまえる。読みさしにするストレスもない物語は、「尻すぼみ」になっていく繰り返しパターンが踏襲されたものだ。
ずっとずっとの昔から変わらない、人の欲や愛情、苦悩、後悔などといった人生の要素が絡められており、童話といっても幼年向けではなく、小学校高学年ぐらいからでないと分かりにくい機微もある。
ハワイ生まれの水夫ケアウエが、ひょんなことから手に入れた「びん」の魔法で、輝くばかりの屋敷を手にする。そういう家で、友人や友だちと楽しく過ごすのが夢だったのだ。
夢をかなえてくれた当のびんには小鬼が閉じ込められていて、持ち主が欲しいものを何でも引き寄せてくれる。その代わり、いくつかのやっかいな決まりごともある。
手に入れた人が、びんを手放さないうちに死んでしまえば、地獄の業火に永遠に焼かれることになるという。けれども、手に入れた値段よりも安い値段で売り払わないと、びんは再び舞い戻ってきてしまう。びんを高い値段で手に入れた歴史上の人物も、栄華を極めたけれど、びんの処理をうまくしなかったために、むごい目に遭ったらしい。
ケアウエという男は、もともと欲得のかたまりだったわけではない。半ば押しつけられるように、びんの持ち主になる。屋敷を得た後で嫁いできてくれた妻との理想的な生活が滑り出すが、まもなく伝染病にかかってしまう。ここで、妻との生活を絶対に失いたくはないという強い欲が生まれる。一度手放したはずのびんの効力に再びすがろうと思い立ったがため、びんの存在に振り回されていくようになるのである。
びんに閉じ込められた魔物がどういうものなのかということにも、少し触れられるくだりがある。しかし、中身は何だろうという興味より、それを持つ人びとが、どのように振り回されていくのかという興味で引っ張られていく。大して欲のなかった人が、価値あるものを手に入れていくうち、いつのまにか欲にとらわれる。
ただ、ケアウエの欲は、大切な人との人生を失いたくないという愛ゆえの欲なので気持ちはよく分かるし、びんの持つ決まりごとを果たして何とかしていこうという夫婦の知恵と誠実さが、すがすがしい。
訳者よしだみどり氏はスティーブンソンの伝記も書いているということで、あとがきの作家エピソードの数々も読んで楽しい。祖父は「世界の灯台の父」と呼ばれ、日本の灯台も多く設計したとか、世界初に書かれた吉田松陰伝がスティーブンソンの書いたものだったとか……。このような作品が生み出される元になったスティーブンソンの南海での体験も、おまけでつけられた物語のようである。
紙の本
冒険小説じゃない
2016/10/01 16:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ケロン - この投稿者のレビュー一覧を見る
スティーブンソンと聞いて、冒険小説だとばかり思っていたら、お互いを思いやる愛の物語でした。
ハワイの自然と、優しい気持ちが美しかったです。