紙の本
城山三郎の声
2010/04/17 07:26
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のもととなった1995年の福岡の高校での講演の様子は音声として残っている。そこで68歳の城山三郎の声を聞くことができる。
低くもなく、甲高い声でもない。落ち着いて、歯切れがよく、ゆっくりと話す。おとなの声とはこういう声をいうのだろう。
原稿はあっただろうが、ほとんどいい間違いはない。淀むこともない。齢(よわい)を重ねたことの重みが声として、言葉としてこぼれだすという雰囲気を醸し出している。
もちろん、そういった講演をもとにして、こうして文章として再構成されて、読むこととして何の違和感もなく、城山三郎の作品として読めるわけであるが、話し言葉としての一つひとつの間(ま)のようなもの、まさにそれは城山三郎の息づかいなようなもの、が失われてしまうのは残念だ。
あるいは、聴衆の静かな笑いであったりささやかな身じろぎであったりに反応する城山三郎の言い回しが消えてしまうのも、講演を聴くことと活字を読むことの違いだろう。
行間を読むということは、そういうことも含まれる言葉かもしれない。
『逆境を生きる』というタイトルが本書にはつけられているが、城山三郎の代表作ともなった『落日燃ゆ』の広田弘毅と『男子の本懐』の浜口雄幸を核にして城山の多くの作品の裏話がつめこまれていて、幅広い読み方ができる内容になっている。
そういう点では、城山三郎のめざした生き方そのものがコンパクトにまとめられている本といえる。城山三郎がなくなって三年が経つが、こういう本が出版されることで、新しい読者が生まれるとしたら、これほどうれしいことはない。
音声の記録では、講演の最後に「ご参考に少しでもなればと思ってお話を申し上げました」といって壇上を下りた城山三郎に、聴衆のたくさんの拍手が、それも静かで落ち着いた拍手が、おくられていたことを書きとめておきたい。
◆この本のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
紙の本
頭の片隅に留めておきたい内容です
2017/09/30 12:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:one story - この投稿者のレビュー一覧を見る
逆境時の心構えについて、少し余裕のある時に考えてみようと思って読んだ本です。
タイトルからすると重そうな本でしたが、講演録なので読みやすく、読み始めたら引き込まれてあっという間に読み終えました。
内容的には、含蓄のある文言が散りばめられており、逆境時のみならず、今後の人生において頭の片隅に置いておきたい言葉が各所にありましたので、ぜひ一読をお勧めします(ここに言葉だけ抜き出すと陳腐化する気がするので、ご自身で読んで文脈の中で色々と感じ取っていただければと思います。)。
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これは、城山さんの高校での講演をまとめたもの。
「落日燃ゆ」の広田弘毅、浜口雄幸・・・、そんな人たちの生き方を平明で丁寧な言葉で語っていく。
「人は、その性格に合った事件にしか出会わない」というのは至言である。
人は自分がなりたい人生を歩む。
ボーッとしていて他人や社会のせいにして自分の不幸を嘆くのは、子どもなんだよ。
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難しい文章ではないのだけれど,何か自分には合わない文体なので読むのを途中でやめました。また思い立ったころ眺めてみたいと思います。
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戦前、戦後を生きた日本人達の逆境の生き方を実に興味深く読ませてくれる本だった。日本最大の経済人と呼ばれた渋沢栄一、真珠王となった御木本幸吉、戦犯として処刑された広田弘毅、暗殺された浜口雄幸などなど。それぞれに信念を貫き、逆境を生き抜いた人々を生き生きと語ってくれる。「落日燃ゆ」読んでみよっと。
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著者のこともよく知らず、時代は繰り返すことから、以前にも、今と同じ、いやそれ以上に苦しく、大変な時代があったと思い、タイトルと、書評に惹かれ読み始めた。
やはり、今とは環境は違うものの、今よりも命をかけた大変な時代があり、それを乗り切ってきた人たちの、それぞれの生き様が描かれてある。
変わらないのは、外野は騒ぎ立て、志を持った人間は、淡々とことを進めていくと言うことだ。それは、決して簡単なことではなく、時には命を落とすことになり、その思いが途絶えることにもなる。
戦後の日本の歴史を、表だけではなく、事実の面を見るにも興味深く読ませていただいた。
最終章で、井上準之助さんに付いての記述で、味噌汁にトマトを入れると書かれてある、これは、現代人においても奇妙に思えるが、すばらしく美味しい味噌汁ができたのであることが想像される。トマトのカゴメも、トマトケチャップを鰹だしの代わりに使えるとアピールするように、グルタミン酸豊富なトマトを、味噌汁に入れるというのは、鰹だし+トマトだしで、うまみを掛け合わせていることとなる。
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城山三郎氏の講演録。
氏のこれまでの作品である「男子の本懐」や「落日燃ゆ」に登場する政治家、企業家の人生を引き合いに出し、魅力的な人間とは、強い人間とはどういう人物なのか語られる。
明治から昭和初期にかけて、日本を引っ張ってきたリーダーというのはかくも気骨のある人達だったことに誇りを感じる反面、自分ももっとがんばらないといけないのだろうと奮起させられる。
上記の作品はまだ読んでいないので、この機会にと購入した。
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時代に翻弄されながらも、自分の信念に基づく男の生き様。感動的な一冊である。広田弘毅のことなど、今まで名前しか知らなかったが、驚きの内容である。作者城山三郎の取材についての執念を感じざるを得ない。家族にも読ませたい本である。
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城山三郎氏の著書は初めて読んだ。骨太の小説もあるのだろうが、これはとある高校での講演録。ご自身の言葉もあるけど、伝え聞いた話が中心だった印象。それぞれの挿話にご自身の解釈は加えているし、そのテーマを取り上げること自体が氏の主張でもあるんだろうけど、もっと考えていることを聞きたい気がした。
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就業前の時間に読んで士気を高めていた一冊
男らしい生き方をする人を知り、己を見つめ直す良い機会になった。どんな逆境におかれても男を貫きとおした生き方をしたい。
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高校生(福岡修猷館)に向けての講演だから、読みやすい。
小説の代表作の主人公のエピソードが思い出される。
こういう講演を聞けた高校生が、羨ましいなあ。
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著者の講演録で、著書で取り上げた人物の生き方などが語られている。
広田弘毅が印象深かった。貧しい石屋の息子として生まれたが頭がよく、石屋としていい字を書くためにと口説かれて中学、高校に進学して東大に入った。在学中には、勉強会でつくった本「日英同盟と世界の世論」が外交官に感心され、満州に行ってロシアの動きを探る仕事を与えられ、その報告書は日露開戦のための資料とされた。卒業後は外務省に入り、「自ら計らわず」を信条に自らを利することがなかったが、省内の人望が高くなって外務大臣となり、その実績が買われて総理大臣となった。2.26事件の実行犯や首謀者にきちっとした決着をつけ、三国同盟についても共産主義に反対する同盟にしようと努力しており、総理大臣を選ぶ元老の立場にあった西園寺公望は「広田のやったことが限界だ」と評価している。戦後の東京裁判では、シナ事変の時には外務大臣だったが、日米戦争時には辞任していて何もしていないにもかかわらず、軍人以外で唯一戦犯として裁かれた。広田は、天皇が追及されないために自らが罪をかぶり、証言台に立とうともしなかった。
日米ビジネスマンとその家族をみてきた医師があげる、悲劇を起こさないようにするための3つの柱は、自分だけの世界(本、音楽、絵、書、座禅)、親近性(家族、友人、地域の人)、達成(仕事、趣味)。1本の柱だけに頼っていると、弱いし脆い。
中国の言葉「硯田悪歳無く」とは、本を読み、物を考え、物を書くことをしていれば、人生に悪い年はない。
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日本近代史のおける政治家の生い立ちや人となりに触れながら、読者に対して自分は何をすべきなのかを投げかけてくる。self, intimacy, achievementの三項目を私自身の中でも振り返り、今後の糧としていきたい。