紙の本
倫敦塔・幻影の盾
2021/02/28 21:17
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投稿者:雨読 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。
そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。
イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめるている。
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ロンドン行きの飛行機の中で、せっかくだからと読んでみたのだが、表題作をはじめ、どの作品もぱっとしなかった。登場人物に躍動感がない感じ。漱石のなかでは一番つまらないかも。
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アーサー王物語などに題材をとった短編集。幻想的な雰囲気の表題作「倫敦塔」が特に秀逸。倫敦塔を訪れる漱石の「現在」と、伝説当時の「過去」が違和感なく交錯する。丁寧な描写から生まれる悲壮で静謐な雰囲気は流石である。文体は比較的重厚で「猫」や「坊ちゃん」などから受けるような飄軽な印象はあまりない。
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ちょっと幻想文学っぽい感じの「倫敦塔」を見て、漱石はこういう作品も書いていたんだな、と思いました。「趣味の遺伝」はちょっとドグラマグラな気もした。
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とにかく読みにくい読みにくい。字はちっちゃいわ文体は難しいわ、はっきりいってとっつきにくい!でもでもでも、それを気にさせない(はずの)漱石の文章の面白さ!「カーライル博物館」は紀行文だけど、「倫敦塔」はちょいと違うかんじ。「幻影の盾」「薤露行」では他の作品では絶対に拝めない中世ヨーロッパファンタジーのような叙事詩的散文、「琴のそら音」「一夜」はこれからの漱石(三四郎とか)に繋がる文章、そしてラストの「趣味の遺伝」が一番おもしろかったりしましたよ。
これに収録されている短編はどれも漱石の初期のころなので、一度は読んでおきたい(はず)
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短編も流石、うまいです。“琴のそら音”がおススメ。読了後ほんわかします。
けど、全部読んでみると“趣味の遺伝”がどうしてなかなか、さすが読ませるね夏目さん!!といった感じ。適所に彼の考えがちりばめられいつもの様に唸らされるだけでなく、物語として読み手を引き込んでます。すごいわぁ、、別に野口さんを非難するつもりはないんだけど、やっぱり千円札はこの人だよ。。
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「倫敦塔」「カーライル博物館」「幻影の盾」「琴のそら音」「一夜」「薤露行」「趣味の遺伝」の7つの短編が収録されている。「倫敦塔」「カーライル博物館」「幻影の盾」「薤露行」は西洋(英国)を舞台にした幻想的な物語。ちょっと分かりにくい。「琴のそら音」は心理学を話の筋としていてなかなか面白かった。「一夜」は話の内容がよく分からない。漱石曰く、小説風に描いたのではなく、ただの現実を描いたからとのこと。現実は必ずしも筋が通っているわけでなくわけの分からないもの。
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漱石初期作品集。『漾虚集』を中心に。
小説って何なのだろう。漱石の短編を読んでいるとわからなくなります。
とりえあず、作品のラストについてる漱石自身の解説的なところはどう扱えばよいのやら。
それも話の一部として読むべき? うーん!
あと、私が思っている以上に漱石作品の位置づけの中で『草枕』が重要なところに立っているのだなーということがわかりました。
比較対照として一番使われてますよねーなぜだー!
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漱石が小説家として初期に発表した短編を集めたもの。
紀行文やイギリス的散文詩、近代小説と様々な性格の作品が、漱石に原石として記されている。
ここから伸びていって様々な名作を生む。
「趣味の遺伝」がおもしろかった。
「幻影の盾」と「かい露行」は正直何について描いてるのか未だに分からない。
ちと難しかったです。
08/12/28
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また一冊の御伽噺読み終わったね。 この間鴎外先生の本も拝読してるので、少し妙な気もする。 漱石先生と鴎外先生、果たして真に火と水の如しかしら(笑) まあ、二人とも外国語堪能、哲学好み、自然主義に反対であったのは確実だけど。 今度も面白いこと満載、中世期のユーロストーリはいつもロマンチック染めた小舟のように心を揺らせる。 中にも「一夜」とゆ意識流の小品、訳分からない三人揃って、訳分からない言葉を交わして、幻か真実かともかく清美の上に一理ある。 それに「趣味の遺伝」も随分面白かった。 めちゃ変わった愛情観点を示しても、ただ諧謔で滑稽なんぞとは言えない程度、さすが漱石先生。 次は我輩は猫であるを買いましょう!
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授業で用いた作品が入っていたため。
もともと「アーサー王物語」が好きだったので、登場人物などの予備知識は前もってあったものの・・・やはり文語は難しい!
しかし漱石持ち前の文章の流麗さはさすが輝きを失くさない。うつくしい日本語の流れが、そのままわたしの頭の中に流れ込みながら古の緑深いイングランド潤すせせらぎとなっていくように感じた。この漱石版と本場のアーサー物語は、なにか奥ゆかしさや古めかしさといった共通した雰囲気をまとっているように感じられてならない。
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ラファエル前派の絵画を思い出す。
「草枕」にもミレイの「オフィーリア」が登場した。
作中人物が、あれの日本版を描きたいと言及していたっけ。
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漱石は文豪なんだよ凄い人なんだってとわかっている筈なのに、どうも吾輩は猫なんて庶民的な作品のイメージからか侮りつつ読み始める感じなんですが、いきなり「倫敦塔」で度肝を抜かれ。
何これ、基本英国史、それにダンテにシェークスピアに仏教の無一物に終いには都々逸まで!何この人、本当に万能なんじゃないの。何でも知りすぎでしょうよ。
あと「一夜」がお気に入り。「草枕」や「虞美人草」に近いかなと。綺麗綺麗しい文章。艶やか。
でも「幻影の盾」と「かいろ行」はこの人こういうのは向かないんじゃ?と思っちゃったけど。日本の話に英文的雰囲気が有るのは良いけど逆はなんだかな。英国紳士に和傘持たせるような違和感。
でもなんだかんだで圧倒的なる筆力に畏まって読み進めていたのに、また「趣味の遺伝」で笑わされ。趣味の遺伝って結局一目惚れってこと?しかし一度合った美人が何処の誰だろうという問題を「そうだ、この問題は遺伝で解ける問題だ。遺伝で解けばきっと解ける」ってどんな思考回路だ!あと高跳びを応用したチラ見にも笑い。
うーん漱石。勿論凄いんだけれど、彼はちょっと高みに置くには面白すぎる。
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明治33年10月より2年間漱石は英国に留学した。どこに行っても日本人がうようよ状態の現在と違って、当時は海外で生活する日本人は少なく、とても心細かっただろうと想像される。
元々神経質だった漱石は「英国人全体が莫迦にしている。そうして何かと自分一人をいじめる。これほど自分はおとなしくしているのに、これでもまだ足りないでいじめるのか」と思い詰めるほどの神経衰弱にかかってしまい、周囲の者に心配を掛けていたという。
しかし、この外国生活は作家としての漱石に大きな影響を与えたのは間違いない。 というのも、漱石は明治38年一月の「ホトトギス」に「吾輩は猫である」の第一編を発表して小説家としての第一歩を踏み出しているが、それと並行して「帝国文学」の一月号に発表したのがこの「倫敦塔」である。
さて、作品は『二年の留学中只一度倫敦塔を見物した事がある。その後再び行こうと思った日もあるが止めにした。人から誘われた事もあるが断った。一度で得た記憶を二辺目に打壊わすのは惜い、三たび目に拭い去るのは尤も残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う』という感想から始まる。
恐々ながら一枚の地図を案内として、漱石は倫敦を徘徊した『無論汽車へは乗らない、馬車へも乗れない、滅多な交通機関を利用仕ようとすると、どこへ連れて行かれるか分からない。(略)予は已むを得ないから四ツ角へ出る度に地図を披いて通行人に押し返されながら、足の向く方角を定める。地図で知れぬ時は人に聞く、人に聞いて知れぬ時は巡査を探す、巡査でゆかぬ時は又外の人に尋ねる』
もちろん、「夏目の語学は行く船の中からあちらの方に賞められたというくらいだからだいじょうぶでしょう」と夏目鏡子が「漱石の思いで」の中で書いているぐらいだから、会話には自身があったのだろう。
ダブルデッカー(二階建てバス)とアンダーグランド(地下鉄)を利用し、タワーヒル駅で降りる。地下から上がればすぐ目の前に『空は灰汁桶を掻き交ぜたよう様な色をして低く塔の上に垂れ懸っている。壁土を溶かし込んだ様に見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理動いているかと思われる。(略)見渡したところ凡ての物が静かである。物憂げに見える、眠っている、皆過去の感じである。そうしてその中に冷然と二十世紀を軽蔑する様に立っているのが倫敦塔である』と書いている堀と城壁に囲まれた中世風の城と、その向こうにタワー・ブリッジが見える。
倫敦塔は、王室の居城としても使われたが、貴族や王室関係者の牢獄としての役割をしていた。しかも、死刑執行場ともなっていて、ここで処刑された囚人は数知れなく、権力争いで殺された、王子や妃も多く、暗いイメージが定着しているようだ。
ビーフイーター(衛兵)の案内で館内を見学する。リチャード二世が殺された白塔。作品中で、死刑執行人が斧を研ぎながら「切れぬ筈だよ女の頸は恋いの恨みで刃が折れる」と歌っていたボーシャン塔。エドワード王子(12才)とその弟が叔父に殺されたといわれている血染めの塔(ブラディタワー)を案内される。
帝王の歴史は悲惨の歴史であったと漱石は書いているが、まさに謀略のために血が流され���歴史でもあったのだろう。
塔内見学途中で、気分が悪くなり早々に引き上げる。タワー・ブリッジに冷えた体でたどり着くと、風はますます強くなり、時折霙までが横殴りに吹き付けてきて、凍てつく気分になる。にぶく濁って波立ったテームズ川の向こうは、怨霊が倫敦塔を渦巻いて騒いでいるように強風が吹き荒れていた。
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幻影の盾はタイトルからして漱石らしからぬ雰囲気を感じたが、
やはり中身も漱石らしくなかった。頭ごなしに否定しているわけではない。
こころや坊っちゃんなどの代表作からはかけ離れた、普段
お目にかけられない作風に出会えた貴重な機会であった。
個人的には、倫敦塔でも幻影の盾でもなく、一番最後の趣味の遺伝が
一番気に入った。やはり漱石には漱石らしい作品がふさわしい。