官僚とメディア みんなのレビュー
- 著者:魚住 昭
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官僚とメディア
2007/09/17 21:43
日本のメディアは弱すぎる
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GTO - この投稿者のレビュー一覧を見る
マスメディアは一つの権力である。ハルバースタムが書いたように現代においては最大の権力機構である。しかし、日本ではその権力機構が誰のものか認識されていない。それは政治家のものでもなく、官僚のものでもなく、マスコミ人のものでもない。社会のもの、利用者たる大衆のもののはずだ。だが、その大衆は愚衆であっててはならない。
マスコミを自分の都合のいいように利用する官僚も悪いが、それを許している大衆も悪い。マスコミに圧力をかける政治家も悪いが、それを選出したのは大衆である。そして、良心的なマスコミ人を支持しきれていないのでは、大衆は愚衆と呼ばれてもしかたがない。そして、その愚衆は魔女狩りが好きだ。そんな愚衆の下卑た好奇心を満足させようと魂を悪魔に売り渡すマスコミ人は数知れない。
そのような愚衆状態を脱するためには、このような本を読むしかない。この本が出版できるだけでもまだましとしなければならないのかとさえ思うほど最近のマスコミはひどい。どこかで真実・本質を見抜く力を養わないかぎり、状況はひどくなるばかりだろう。
耐震偽装やライブドア、村上ファンド事件の話を読めば、「そうだよなあ、その通りだ」と思う。山本翁も言うように、「正義と嫉妬は紙一重」なのだ。渦中の人物たちを立派だとは思わないし、道義的に許せないが、あのやり方は、魔女狩りである。愚衆が生贄を求めているのに官僚もマスコミも答えようとする。それによって、自分たちに都合の悪い事件を霞ませることができるというメリットさえある。
こうして最近の事件を見るとさすがに官僚、上手だなあとの感を抱く。ことの重大さより大衆の喜びそうなうまいところを突いてくる。耐震偽装はいかにもの人物たちだったし、ライブドアや村上ファンドは庶民の妬みをうまく利用したといえる。NHKの問題にしても、表現の自由に政治が関与することは絶対に許されないと思うが、番組自体があまりにもだから、大きな声が起こらないままウヤムヤになってしまったと思う。
いまやマスコミばかりでなく多くの職場で『のびのびと仕事ができる環境が』(p.173)なくなっている。なんといってもそこが現在の日本が抱える一番の問題だ。正しいことをさせてくれ、そう思っている人達が思い通りの仕事ができる環境を保持することは、本当に難しくなってきている。それを、管理社会の深化と呼ぶこともできるだろうし、格差社会の固定化と呼ぶこともできるだろう。
官僚とメディア
2007/10/13 09:00
新書で出版されたのがもったいないほど、官僚とメディアの不健全な関係を丁寧に描き出した力作
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
司法・立法・行政の三権分立が正しく機能しているとは言い難い日本において、メディアは「権力監視」という重要な役割を担っている。ネットの時代を迎えても、世論調査で、一番信頼できるメディアとして「新聞」が上げられる時代にあって、国民の期待は依然として大きい。
しかしながら、本書の著者は、メディアが権力監視の役割を低下させ、変質しつつあることを例証してみせる。姉歯設計士の耐震強度偽装事件、ライブドア・村上ファンド事件、裁判員制度啓発事業に関わる疑惑などを取り上げて。
耐震強度偽装事件は、姉歯設計士ひとりによる偽装事件であるにも関わらず、デベロッパーのヒューザー、ゼネコンの木村建設、経営コンサルタントの総研が共謀して、偽装マンションやホテルをつくらせたという報道がなされた。
しかし、著者は、耐震強度の仕組みを詳しく取材し、全国で30万人いる一級建築士のうち、構造設計者は4%の1万人前後、本当の専門家となると3,000人くらいしかいないという実態を明らかにする。つまり、建築関係者にとっても構造計算の部分についてはブラックボックスと化しており、共謀して偽装工作を謀れるような性質のものではないことを描き出す。
姉歯設計士の犯行が10年間も見破られなかったのは、もともとブラックボックスであるところに、1998年の建築基準法の改正で、建築確認システムを破綻させてしまった国土交通省の責任が存在すると言及する。そして、メディアは、国土交通省の役人が作り上げた共謀事件という構図にのっかり、盛んに報道する。
こうして、建築確認システムの破綻というもっとも肝心なところを見逃し、国土国通省から出される情報を流布するメディアの危うさを指摘する。(ただし、著者が本章を書いて以降、この事態を受けて、建築確認は二重チェックを必要とするように、さらに法改正されています。本年6月から施行済み:書評者注)
ライブドア・村上ファンド事件も、メディアが取り上げたほどの重大性はなく、検察特捜部による国策捜査の側面が強いことを示す。特捜部はスイスに係官を派遣してまで、海外隠し口座やマネーロンダリングを実証しようとしたが、何も見つけることができずに、帰国した。
いまさら、会計技術上のミスという小さな事件で済ますわけにはいかず、検察は、メディアを利用して、庶民を欺く急成長企業と悪質ファンドの疑獄に仕立て上げ、経済事犯の象徴にしてしまう。こうして、この事件は、「これから検察は経済事件にも積極的に手を伸ばしていくことをにおわす」ための見せしめ事例となる。検察OBは、いろいろな政府系機関(公正取引委員会など)のトップに天下りし、我が世の春を謳歌しているという。
裁判員制度の啓発事業はもっと深刻だ。いまだに国民から敬遠されている裁判員制度を浸透させるため、裁判所は、電通という日本最大の広告代理店を利用して、共同通信や地方紙連合に本来の記事なのか、広告なのか、国民には区別しにくい形で、特集記事を書かせる。そして、絶妙のタイミングで広告を打ち、あたかも裁判員制度が国民から支持を得ているがごとき、雰囲気を作り出そうとしているのだという。
タウンミーティングにも、地方紙がアルバイトを雇ってサクラを出席させていた。そうしても、お釣りがくるほどのお金が最高裁から電通を通じて、地方紙に流れるように仕組まれているというのだ。問題の多い裁判員制度への理解を図るために、最高裁はここまでやるのかと思わせられる同時に、経営上の問題から協力してしまう各紙の情けなさがあぶり出される。(裁判員制度に関する不自然な報道は、地方紙のみならず全国紙にもおよんでいる印象を受ける:書評者注)
本書は、これまでに月刊現代やAERAなどに書いた記事を一冊にまとめたものなので、いくらか散漫な印象を受けなくもないが、「ここまで明らかにしてもいいのか・・・」というようなことを丹念に追い続けて、官僚とメディアの不健全な関係に一撃を与える書物となっている。官僚とメディアの不健全な関係とは、紙面の7割を占める官庁の報道発表から締め出しを食わないために、権力に不都合な部分に目を覆って、官製報道を垂れ流すメディアのことである。
個人情報保護法などでメディア規制をちらつかせた霞ヶ関のメディアコントロールはまずます巧みになっている。権力を監視するよりは、特ダネ落ちをおそれて、官庁の重要な報道発表を取り逃がさないことに汲々とするメディアも苦しい立場にある。
こうした事態に警鐘をならす著者は、19年間も共同通信に在籍し、現在はフリーのジャーナリストとして活躍するからこそできることなのであろう。
世の中の裏の仕組みを知ることは、読んでいて愉快なものではないが、知っておかなければ、国民もまた、巧みに飼い慣らされていく恐れがある。その意味で、本書はとても価値が高い。
耐震偽装事件に関する専門的な記述の細部は分かりやすいとは言えないが、それだけ専門家の評価にも耐えうる事実を丁寧に浮かび上がらせた証拠といえる。
読みながら、危うい線路の上を歩くがごとき著者の身の上の心配までしてしまったが、こうした本が出せることは、危機意識をもつジャーナリストが声を潜めながら密かに著者に情報提供し、エールを送っているからに他ならない。希望を見いだすとすれば、ここの部分であろう。
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