報復 みんなのレビュー
- 著者:ドン・ウィンズロウ, 翻訳:青木 創, 翻訳:国弘 喜美代
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紙の本報復
2016/05/30 02:45
ミリタリー小説としても読めますが
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドン・ウィンズロウはときどき<怒り>をストレートに出した作品を出してくる。
もともと創作の原動力が怒りなのかもしれないのだけれど、それを覆い隠すテクニックのある人だからあまり気づいてなくて、ずっと前『カリフォルニアの炎』を読んだときに「おや?」と感じて、それ以来「もしかしたら・・・」と考えるようになった。
そして今回の『報復』は、ストレートな怒りの物語。
とはいえ、純粋な怒りをぶつけるだけの作品を描くほどウィンズロウは単純なはずもなく、そこはしっかり「テーマとしての<怒り>は伝えるけど、一方向の正義だけを押し付けるものではない」というバランス感覚は健在。
妻子を飛行機事故で失った元デルタフォース隊員のデイヴ・コリンズは、これはただの事故ではなくテロではないかと疑いを持つが、アメリカ政府は911以降再び国内で大規模テロを起こされたとあっては国の面目丸潰れということで黙殺。 飛行機事故の遺族たちに、航空会社から受け取った保険金を元手に傭兵を雇い、仇をとると呼びかける。 賛同してくれる人がいるなら保険金の一部でいいから出資してほしい旨を伝えると、デイヴの予想以上に資金が集まる。 かつてともにデルタフォースにいた仲で、今は傭兵稼業に身を投じているマイク・ドノヴァンのチームに報復を依頼、デイヴも参加する。 その傭兵部隊もそれぞれ実力者揃いではあるが各国の元軍人・諜報員の寄せ集めで、イスラエル人もいればパレスチナ人もいるという一触即発の危機を抱えている。
しかしそこはプロ、わずかな手掛かりを頼りに実行犯から首謀者へとじわじわと近付いていく。 短めのセンテンスでたたみかけるような流れと大胆な省略で過度の感情移入を阻み、結構な内容なのに600ページそこそこに抑え、読み始めたら止まらないスピード感。
イスラエル人とパレスチナ人の主張をそれぞれに描き断罪することはせず、ある一部のアメリカ人は愚か者として描かれ、テロリストは“聖戦”を口実に利用している卑怯者だと断定され、それを信じて死んでいくムジャヒディンがかわいそうにも思えてくるし、そうなると信じられるのはデイヴの妻子への想いだけ、ということになってくる(デイヴはアメリカ人なので当然のようにクリスチャンではあるものの、事故後に信仰を捨てている。 とはいえ長年培った習慣は抜けない。 それはどこの人間でも同じことだが)。
物語の大枠としては大変アメリカ的なのだが、実は細部に目を配ればそんなアメリカ的なことをしていても何の解決にもならないことを示唆しているし、報復には正義の要素があるといいつつ報復はまた報復を生むという負の連鎖もきっちり描き、実はしっかり解決も示しているのだが、それを実行に移せるほど人間は高尚な生き物ではないというどうしようもない皮肉がそこには。
仲間のために、愛する者のために自分の命を投げ出せる高潔な人物は個人単位ではいても、集団にはその論理はまったく通用しないというむなしさ。
そう、結局戦いはむなしいだけなのだ。
復讐をしたとしても気が休まることはないとわかっているのに、どうして感情を抑えることはできないのか(でも多分自分がその立場になったとしたら、あっさり復讐の道を選ぶこともまた容易に想像できてしまうわけですが)。
ハードボイルド系ミリタリーアクションとして読み捨てるのも可能になっておりますが、考えようと思ったらいくらでも考えられる材料がいっぱい・・・。
あぁ、つらい。
ラストシーンは美しいのに、読後感が重い。
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