天に遊ぶ みんなのレビュー
- 吉村昭 (著)
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紙の本天に遊ぶ
2006/11/12 21:26
吉村昭のプロの技に感銘を受けた超短編集
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭の短編集である。この他にも短編集はいくつかあるが、おそらくこの『天に遊ぶ』は収録数が最も多いのではないか。21編もある。それというのも、一編が超短編集とでもいえるほど短いのである。著者のあとがきで知るところでは、原稿用紙10枚というから僅か4、000字である。通常の短編は30枚程度だそうである。10枚は如何に短いかが分かる。
読後感としては言えることは、これからストーリーが盛り上がりそうだが、呆気なく終わってしまうというよりは、読んでいる最中でも初めから短さを予感させるものが含まれていると思う。展開が速いことと丁寧に描くのではなく、要所のみを読者に伝えようとする姿勢が伺えるのである。
私の印象に残ったものは、冒頭の『鰭紙』である。主人公はその村の古い時代に発生した飢饉の様子が書かれている史料を発見した。この史料には鰭紙で特定の人を指して飢えをしのぐ様子が記録されていた。今でもその子孫が身近にいることが分かった。史料に書かれていることを表に出すことはできないのだった。吉村が調べ物をしている際に、実際に遭遇したのかもしれないエピソード風の短編であった。
もう一つ、『居間にて』は親戚の老夫婦のうち、頑健だった夫が急に亡くなった。夫人は認知症で入院中あり、それを知らない。主人公は迷った末に、夫人に知らせたが、夫人は意外な反応を見せた。最近よく退職後の暇を持て余す人の苦労が聞こえてくるが、その苦労をものともしない主人公や、夫に従順だった妻の反応に、意外性があって超短編ながらそこかしこに楽しめるシーンがある。さすがに、読ませ、楽しませるプロの技だと感心させられたのである。
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