火星年代記 みんなのレビュー
- レイ・ブラッドベリ (著), 小笠原豊樹 (訳)
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紙の本火星年代記 新版
2023/05/29 13:42
オールタイムな名作SF
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:R - この投稿者のレビュー一覧を見る
火星開拓を描いた連作もの。
必ずしも設定が固定されてはいない。
人の心のない物質文明への批判。
いまだに心に刺さる
紙の本火星年代記 新版
2010/11/11 18:51
未来の世界に去来する希望と郷愁。火星入植の断片を幻想的に描く盛衰記。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
未来の火星の物語である本書は、分類するとすればサイエンス・フィクションに分けられるのだろうが、著者が序文で述べているように、サイエンス・フィクション的な内容をほとんど含んでいない。地球人の火星入植がもたらした先住民である火星人の衰退と、時の流れがもたらす火星入植者の盛衰を断片的に拾い上げ、レトリックを駆使して詩的に、幻想的に描く世界は、むしろサイエンス・ファンタジーと言ったほうがしっくりくる。
本書は、『○○年○○月の話』という独立した話を並べて、一つの作品に構成したオムニバス形式で、先に述べたように、断片的な印象を受ける。それらは、ある火星人の物語であったり、ある火星探検隊の物語であったり、ある火星入植者の物語であったり。このような火星における、さまざまな場所のさまざまな人物を切り取った、一見ばらばらの物語は、頭の中に並べられていくにしたがって、それぞれがパズルのピースに似ていることに気付く。
そして、最後のピースをはめ終わり、物語を俯瞰できたとき、希望と郷愁が去来する。その一方で、見たくない現実を突きつけられた不快感が襲ってくる。(決して本書が不快なわけではない。)
物語は火星へ向けて待機するロケットの様子を描く【二〇三〇年一月 ロケットの夏】で始まる。
生命が存在しないとされる、第三惑星地球から来たという男の白昼夢を見る火星人の夫人と、その夫【二〇三〇年二月 イラ】
突如、聞いたこともない言葉とメロディを奏でる火星の音楽家たち、そして知らない歌を歌う火星の子供たち【二〇三〇年八月 夏の夜】
失敗に終わった第一探検隊に続き、火星にやってきた第二探検隊たちの顛末【二〇三〇年八月 地球の人々】
やがて始まる核戦争から、芸術や科学に到る国家統制から逃げるため、ロケットに乗せろと喚く地球の男【二〇三一年三月 納税者】
第三探検隊が、死んだはずの家族や懐かしい風景に火星で出会う【二〇三一年四月 第三探検隊】
そして第四探検隊【二〇三二年六月 月は今でも明るいが】
ここまでが本書の三分の一ほどで、続く二〇三二年八月から火星入植が始まるが、火星で何が起きたのか、火星人はどうなったのか、なぜ地球人は入植できたのか、そのあと火星人と地球人はどうなったのか、という疑問は本書を読んで欲しい。その先に、著者が描こうとしたテーマが見えてくる。
私は、その著者が本書で描こうとしたテーマは、『エゴ』ではないかと思う。
詩的で幻想的な雰囲気をまとってはいるが、
●地球での争いを止めずに新しい土地を目指す地球人たち
●火星人の衰退の原因を作ったにもかかわらず、入植してくる地球人たち
●新しい罪を求めてやってきた神父たち
●想像上の生物を示唆する生産の禁止と焚書
などの地球での価値観を持ち込もうとする、傲慢な地球人たちが数多く描かれており、北アメリカ大陸開拓史を連想させる物語を通して、人間のエゴを痛烈に批判しているように感じられる。
本書は、初めて読んだ海外翻訳本で、期待と不安のなか読んだ。読み始めには、棒読みに感じる会話のセリフや、訳で選択された言葉に、一部違和感を感じたが、物語が進むに連れて、レイ・ブラッドベリの詩的な表現が漂う世界に引き込まれていった。読書を中断していても「火星年代記」が頭から離れない。星新一が面白いと絶賛した作品だけのことはある。
またレイ・ブラッドベリの作品を読んでみたい。
ところで、新版である本書は、旧版では一九九九年一月で始まる物語が、二〇三〇年一月と改められているそうだが、はじめて「火星年代記」を読む者としては、未来の話という雰囲気が壊れなくて良い。
他にも【二〇〇三年六月 空のあなたの道へ】が削除され、序文【火星のどこかでグリーン・タウン】、【二〇三三年十一月 火の玉(刺青の男に収録)】、【二〇三四年五月 荒野(太陽の黄金の林檎に収録)】が追加されたとのこと。
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