渇きの海 みんなのレビュー
- アーサー・C.クラーク (著), 深町眞理子 (訳)
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紙の本渇きの海 新装版
2005/08/19 12:29
月塵の海に沈みこんで消息を絶った遊覧船をどのように見つけ、どう救助するか。美しい文体のサスペンスに引き摺られていくうち、「科学とは本来どういうものだったか」まで振り返らせてくれる名作。
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「これは、すごい。知的に組み立てられていながら、ぐいぐい引っ張ってくれる文句なしに面白い娯楽だ。その上、詩的で美しい文章が随所にある!」と昂ぶりながら読み進め、最後まで昂ぶりが途切れることがなかった。
科学知識を元に矛盾や破綻なく書かれることがSF小説に求められる最低限の条件であり、知識の専門性高く、最先端の情報に通じているほど楽しく読めるというファンも少なくないだろう。彼らに気遣ってか、「ハヤカワ名作セレクション」として改訳版の形で出された本書には、クラークの「1987年版への序文」が新たに収録されている。本作執筆の1960年当時には、月面の平原が細かい塵から成り立っているという説がおおぜいの天文学者によって主張されていたが、それ以後の月面着陸成功により、月塵説がどう変わっていったのかという点に触れている。「わたしの“渇きの海”を、いったいどうすればいいのか?」——と。
月を舞台として、学者が仮説を唱えた月塵についての想像をめぐらせ構築した小説だからこそ、これはクラーク自身にとっても意味がある小説だったのかもしれない。だが、学問研究を背景にするしないは、塵がどこかの星のどこかの場所のものだと考えてしまえばまるで問題ないと、最新の科学知識と並行に読む楽しみに無縁な者には思えてしまう。
感嘆のポイントはもっと基本的なところにある。それは、月の塵に覆われた「渇きの海」に埋没遭難した観光船の救出劇という小説が、科学とは何かを教えてくれることだ。
突然の地殻変動で塵の海に呑まれた観光船は、金属分を含む塵に阻まれて非常事態を知らせる電波も音波も送れない。液体のように流れる塵は、呑み込んだものの痕跡を表面にまったく残さない。月世界唯一の遊覧船だったセレーネ号は、22人の乗員乗客とともに消息を絶つのだが、困難な状況下で試みられていく救出に当たっては、「誰かを犠牲にしても」という発想ではなく、常に「22人全員の救出」が目標とされる。
ここにまず、「科学的精神のあり方」が提示されているように感じた。すなわち、科学というものは元々誰か一部の利害に奉仕するためにあるのではなく、人類の幸福に寄与するためにこそ存在するという根本である。全員が助かるため何をどうしていけばいいのかという取り組みは、船長パット・ハリスと、お忍びで月面遊覧の旅に参加していた歴史的宇宙探検家ハンスティーン提督の2人を中心に体現化されていく。
それは、船内の気圧をどう保つかという遭難後最初の判断をはじめとして、限りある酸素をどうするか、熱にどう対処するかといった質のことから、乗客たちのパニックを避けるために考案される娯楽のアイデアにまで及ぶ。
そして、「科学的な論理思考」もまた提示される。空想小説や幻想小説であるならば、別に必ずしも辻褄を合わせなくともよい。人を煙に巻くような不思議さをたたえ、次から次へとイメージを重ね合わせていけば構わないのだが、ここでは科学が現実的に発展していくその延長と思しき範囲で、現象が分析され、技術や方法が利用される。利用に当たっては、常に不可能部分を消去していきながら、残った可能性の部分に対応した判断と行動が成されて行く。これを孤高の天文学者トム・ローソンという魅力的人物が体現化していく。
合理的且つ科学的行動を描写していったのでは予定調和で退屈してしまいそうという懸念は不要。人間の予測を上回る危機が次々に生起する。「そういう危険もあったのか」と意外性に驚き、改めてありとあらゆる可能性を盛り込む作者の頭脳にひれ伏す。そして、知性の露出がある種の読者をはねつけないよう、物語は滑らかで穏やかな、時に詩的美感に浸された文体に包み込まれている。
紙の本渇きの海 新装版
2021/11/11 11:56
中盤以降は人物や展開が面白い
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投稿者:のび太君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
序盤は退屈に感じたが、中盤以降は一難去ってまた一難という展開に加えて、面白いことが明らかになっていく人間模様がよい。
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