企業研究者のための人生設計ガイド　進学・留学・就職から自己啓発・転職・リストラ対策まで

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企業研究者というあまり馴染みのない言葉を使っているが、理系の学校を出て、大学や公立の機関ではなく企業の研究所で働く研究者を指している。最初の総論部分で紹介しているデータは、様々な業種での企業研究者を含んでいるが、第二部は、著者が有機合成研究者として製薬会社で働いた経験が語られている。結果として日本、アメリカ、イギリスで働いて、それぞれの経験を次の仕事に生かしていくのを読むのが楽しいのだが、それぞれの文化を比較している部分も面白い。第三部は、海外で働く女性研究者へのインタビューとなっていて、全体を通して、日本の研究者がもっと海外で活躍してほしいというメッセージになっている。もっと若い時に読むべきだったかも。（と言っても、私の若い時には存在しなかった本です。）若くなくても元気が出てくる本だった。

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企業研究者による体験記。大学院生へのメッセージ的なものが前半、後半は企業の若手研究者にも参考になると思う。

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【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB29515761

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1100

鎌谷 朝之
1971年兵庫県生まれ。大阪大学卒業、カリフォルニア大学アーバイン校大学院博士課程修了。万有製薬合成技術研究所(愛知県岡崎市)、ファイザー株式会社ラホヤ研究所(米国カリフォルニア州)、同サンドイッチ研究所(英国ケント州)を経て現在ファイザーR&D合同会社(東京都渋谷区)に勤務。PhD(化学)。著書に『アメリカへ博士号をとりにいく』(化学同人)


では、企業の研究は大学のそれとどこが違うのか。それはずばり、企業の研究が「営利目的」であることだ。その研究活動が将来新しい製品やサービスに実を結び、利益を上げることができることを期待して企業は研究者を雇用し、莫大なお金を投資するのである。だから一般的に企業研究者の給与は大学教員のそれより高いことが多いし、組織としても個人としても経済的な基盤が比較的安定しているとされる。

　研究の真の面白さは大学院での研鑽を通して初めて明らかになる。また、（これは皆さんにも容易に想像がつくと思うが）一年や二年で成果が出せるような研究テーマはとても少ない。何年も腰を据えて取り組むことで、成功確率もどんどん上がってくるものだ。博士号を目指して研究することの醍醐味はまさしくここにある。

一方で、僕が個人的に若い学生の皆さんに絶対にやって欲しくないと思っていることがある。それは「就職に有利だから」という理由だけで修士や博士などの大学院の学位を取ろうとすることだ。 　大学院とは本来、理系・文系を問わずあくまで研究の場だ。研究を続けたいという理由で進むべき道なのであって、研究が嫌いなのに「就職に有利だから」などという理由で行くところではない。 　もちろん、先にも述べた通り研究に取り組む過程で得られた経験は研究以外のいろいろな場で役に立つ。でもそれはあくまで後の人生にプラスになる追加のスキルであり、単にそういう経験を積みたいからという理由だけで好きでもない研究活動に携わるのは決して実りのあることとはいえないし、下手をすると毎日の研究活動が苦痛で病気になりかねないと思う。

アメリカの学生たちは、大学院進学の時点で経済的に親から独立していることが当然とされている。しかるにアメリカの大学院のカリキュラムは非常に厳しく、日本の学生のように学業の傍らアルバイトで稼ぐというようなことが難しい。このため、大学院に進学したアメリカ人学生が自分の稼ぎから授業料を払うというのは不可能ということになる。

研究畑を進んできた皆さんには往々にして会議を毛嫌いする方が多い。かく言う僕もかつてはその一人だった。でも、一人で黙々とやり続ける研究ならともかく、同じテーマに専門・担当が異なる二人以上の研究者が関わるのであれば話し合いによる合意形成は必須となる。

これに関連して、もう一つ覚えておきたいのが、研究テーマが短い期間でころころ変わる可能性があるということだ。 　ビジネスとして研究をする以上、競合他社の動向や社会の流行・要請など様々な要因によって研究の優先順位が変わることは避けられない。このため、あるテーマについ��腰を据えて取り組もうとしたところに「今あっちのチームで人が足りないから手伝ってあげてくれ」だの「他の会社がうちより早く製品化してしまったから開発中止だ」などと言われる可能性は高いと思っていた方がいい。残念だがこれも企業研究者としての現実である。

またこれは全く余計なことかもしれないが、企業の研究所は往々にして地方都市に位置していることが多い。大学でも理系の研究所は都会の中心に置かないことが多いが、企業の場合は僕の知る限り、大学よりもさらに田舎に建てられていることが多いと感じる。都会での生活を好む人にはつらいかもしれない。

　一方で、僕がこの場を借りて皆さんに強く勧めたいのが、研究室や大学図書館などで閲覧できる 英字の 学会誌に目を通すことだ。 　業界紙誌はあくまで特定の業種について企業側の視点からの記事が掲載されているのに対し、学会誌を開けばあなたが今まさに専攻・研究している分野がどのような業界・業種に応用されているかを知ることができる。日本の学会誌は誌面のかなりの部分が学術的なことに割かれていることが多いが、海外の学会誌にはその分野に関連する業界や企業の動向についての記事が掲載されている。

ただこれから社会に出ようとしている若い皆さんには、「有望な業種はどこか」とか「外資と内資でかなり違うのではないか」などと現在の会社や業界の状況に一喜一憂し流されることだけは避けてもらいたいと思う。例えば「内資の方が福利厚生や終身雇用など日本の会社のよいところが残っている」という印象があるかもしれないが、最近では内資も含めどの会社も終身雇用を前提にしていないところが増え、福利厚生も縮小気味である。仮にそういう日本式の経営を続けている会社があったとしても突然外国の企業に買収されて「外資」扱いになったり、ある日までさんざんもてはやされていた会社がたった一つの不祥事だけであっという間に株価大暴落を経て大リストラ……なんていうことも珍しくない時代であることはご承知の通り。将来有望な業種や企業なんて、予知能力者でもなければわかる筈がない。未来永劫安定な場所はない、という心構えで自分が本当にやりたい仕事を見つけていってもらいたいと願っている。

アメリカでは小学校からプレゼンテーションやディベートの機会が与えられ、とにかく人の前面に立って主張することが求められ続ける。アメリカ人と一口に言っても個性はそれぞれ十人十色、おとなしい人もいれば活発な人もいるが、こと議論をすることにかけては一人残らず百戦錬磨の達人と言っている。

理系の人たちはこの「国語力」が本当に弱いと思う。専門分野の知識や研究成果は目覚ましいのに、その内容を正しく、論理的かつ相手に興味を持って聞いてもらえる形でプレゼンできる人のなんと少ないことか。例えば日本人なら淡々と事実だけを述べることに終始してしまいがちだし、アメリカ人なら論理をすっ飛ばしてよい成果のみを声高に主張してしまうことが多い。そして日米を含めた世界中の理系研究者に共通するのが「専門外の人に説明するのが下手」ということである。

インテグリティという言葉は「誠実さ」「高潔さ」「真摯さ」と訳されることがあるが、どれもこの言葉の真意を伝えているとは言い難い。インテグリティとは、「人が人として、または社会人として、または自らが従事する仕事のプロとして、たとえ明文化されていなくとも絶対に守らなければならないことを守り、おかしいと思うことはやらないという姿勢」のことを指す。 　例えば研究者であれば「データを捏造しない」というのがその一つだ。「そんなもの当たり前だろう！」と思うだろう。どこの法律やルールブックにわざわざ「データを捏造しない」などと明記するだろうか？　でも歴史を振り返ってほしい。過去に科学者が起こした不正行為の多くはデータの捏造に端を発するものだ。研究者として当然守るべきことが、残念なことにきちんと守られていないのが現実なのである。理由としては功を急ぐあまりの勇み足などいろいろあるが、バレたら研究者生命を絶たれることがわかっていながらこのような不正に手を出す研究者が後を絶たないことを鑑みれば、インテグリティが研究者としていかに大切な心構えか否応なしにわかることだろう。

ここからは僕の個人的なマインドセットだが、自ら選ぶにせよ会社から提案があるにせよ、異なる部署・部門に移ることはその人のキャリアを必ず豊かにする、と信じることが大切だと思う。もう少し端的な言葉で言えば「人生において無駄なことは一つもない」ということだ。たとえ回り道や後退のように思える道でも、あとで振り返ってみれば貴重な経験だったと思える日が必ず来る。また、そういうマインドセットを持ち続けることこそが、長い社会人人生をポジティブに生き抜く糧になると僕は信じている。

　中学・高校時代を過ごした六甲学院（兵庫県・神戸市）においては化学部に所属し、あらかじめ結果を予測しつつもある時に意外な方向に、またある時には危険な方向に転がっていく化学実験の面白さ（そして時には怖さ）を肌で感じることを何よりの喜びとしていた。当時化学部で顧問をされていた杉野広一先生と飯塚和彦先生には実験の進め方について多くの有益なご指導をいただき、今でも僕の血肉となっている。

　例えばディクテーションの教材としてアメリカ映画を選ぶとするなら、どの映画を「ディクテーション」するかはあなたがどの映画が「二十回見られるくらい好き！」と言い切れるかにかかっている。好きでもない映画を何回も見ようとすれば絶対に挫折する。だからあなたが一番好きな映画を選んでほしい。できれば「解答」となる英語字幕のあるＤＶＤやブルーレイディスクで選んでいただくとよいだろう。 　僕がアメリカ留学時代、現地の英語をマスターするバイブルとした映画はクエンティン・タランティーノ監督の出世作『パルプ・フィクション』だ。全編不適切な俗語と暴力に満ちた問題作だが、僕は大学院留学一年目に映画館でこの作品を初めて見た時に一語たりとも聞き取れなかったことにショックを受け、ビデオを買って二年かけて二十回以上鑑賞した。これによってアメリカ人の同級生たちがしゃべっている他愛のない会話や授業でのディベートがようやく聞き取れるようになったのである。結局、それからさらに返答・反論できるようになるまで一年、そしてディベートとして形になるまでまた一年かかった。つまりアメリカの地を踏んでから四年たったことになる。 　そしてその���までには、僕が有機合成化学で博士号を取得するための成果がかなり整いつつあった。

　僕の企業内研究所時代の専門は「医薬品原薬製造のプロセス化学」である。

「大学や大学院でやっている研究は企業では役に立たない」と言われることがあるが、少なくとも僕については当てはまらなかった。僕はひょっとしたらラッキーだっただけなのかもしれない。でも「世の中に無駄なことなんてないものだ」というのが僕の信条だ。

　一方で、大学や大学院での研究活動では到底経験し得なかったのは、実際のプラント製造だ。いくら「大学院で素反応をたくさんやっていました！」と胸を張って言えても、それは多くてもせいぜい百グラム程度のものを作るためだけのものだ。

　イギリス人は自分の意見やポリシーを持っていても、いきなりそれを相手に開示したりはしない。相手の顔色や発言内容を注意深く聞きながら、自分なりに吟味した謙譲表現を織り交ぜて少しずつ意見を述べ、相手が気分を害しないように配慮しつつ根気強く説得していくのが彼らの議論のやり方なのだ。それに対してアメリカ人はなるべく効率的に議論を進めようとするので言葉の使い方が直截的になることが多く、場合によっては攻撃的なトーンになる。そんな言い方をされたらイギリス人は黙りこくってしまい、正直に自分の意見を言うことができなくなってしまうのだ。 　このような場に何度も出くわして、僕は初めて「イギリス人って日本人とよく似ているなぁ」と思った。 　日本人もアメリカ人との会議では発言をあまりせず、アメリカ人の直截的な物言いになかなか反論できないことが多い。もっともアメリカ人の方も日本人と議論する場合なら「英語が堪能でないせいだろう」と気遣ってくれることも多く、時間と手間さえ少しかければ双方が納得できる結論がある。

　そもそも研究とは新しいことに手を出すことで結果が出るものである。一つのことを追求していたとしても、壁にぶつかった時に「迂回路」や「方向転換」を検討することもいとわない柔軟さだって必要だ。そういう時にどうしても必要となるのが異なる分野の知識だったり経験だったりする。そしてその知識や経験は、世の中が大きく変化したときに大きな威力を発揮する。 　僕は研究所こそ離れてしまったが、今でも自分の業務に関係することや専門分野だけでなく、いろいろな分野のことを勉強する姿勢を持つことを心がけている。そうすることによって自分がより〝employable〟になることもあるが、やはり新しいことを学ぶ楽しさを肌で感じていたいと願っている。

　昔から 天邪鬼 だった僕は「流行りもの」には見向きもせず、あえて優先順位が低かったり主流でないテーマを選ぶようにしていた。理由は簡単、注目されていない分、誰かからの横槍を気にせず自分の思い通りに動かすことができるからである。 　優先順位が低いプロジェクトは（優秀な研究者が集まらないせいか）失敗する可能性が高い傾向にあり、事実として僕が担当したプロジェクトも多くが未完に終わっている。しかし何足もの草鞋を履く状態で進めるためたくさんの経験をさせてもらえる。しかも（かなり不届きな理由だが）万が一成功しようものなら成果の大部分を独り占めできるという余禄もあ���のである。

　まず、僕を含めた全員に強く要求したことは「国語力」。たとえ素晴らしいアイディアや技術をもっていても、きちんとした文章が書けない研究者は独り立ちできないということを先生は強く意識されていた。だから毎年九月に先生の研究室への配属を希望する大学院新一年生の選考にあたっては、アメリカ大学院入試の共通テスト「ＧＲＥ」の中で国語のスコアが高い学生を中心に選別した。僕は留学生だったので最初の一～二年こそ多少大目に見てもらったが、留学五年目の博士論文執筆に際してはいかなる文法上の些細な誤りや論理の飛躍も許さず、僕の最初の原稿には先生の赤ペンが盛大に入ることになった。僕が先の章で「国語力の重要性」を訴えたのは、この時のオーヴァーマン先生のご指導が最終的に実を結んだからに他ならない。

　女性研究者の活躍以外に僕が気にしているのが若い世代の「内向き志向」だ。 　海外への留学を志す学生が減っているという話を方々で耳にするようになった。そのことが端的に表れているのは海外留学者数であり、文科省高等教育局学生・留学生課の調査によると日本人の海外留学者数は二〇〇四年の八・三万人をピークに減り始め、僅か七年後の二〇一一年にはなんと三十一％減の五・七五万人になってしまったというのだ。これに呼応するかたちで官民共同の「トビタテ！留学ＪＡＰＡＮ」など様々な活動が立ち上がり、何とか若い世代に海外への興味を持って欲しいという試みが行われていることを耳にした方は多いと思う。

　しかし今のアメリカに憧れが持てるだろうか。答えは人それぞれかと思うが、アメリカに憧れる日本人の割合が減っていることは間違いない。僕自身、「今のアメリカに住んでなくてよかった」と思ってしまうことが多いし、海外への留学・就職について誰かから相談を受ける際は「アメリカにこだわらずいろいろな国に興味を持って欲しい」とアドバイスすることにしている。

──もう十一年も海外で働いていらっしゃるのですね。アメリカでの研究環境で「これは素晴らしい！」と思ったことは何ですか？ 　常に完璧じゃなくていい、と思えること……英語で言うと〝Nobody is perfect〟〝There are no mistakes in life, only lessons〟でしょうか。人間だから失敗もあるよ、失敗から学ぼう、という文化にすごく心が軽くなりました。一方で、日本で仕事をしていると、失敗は許されず、常にパーフェクトであることを求めるという様な、暗黙のプレッシャーを感じます。逆にそのプレッシャーは自分を鼓舞する材料の一つになるとも考えられますが、時に行き過ぎて息苦しく感じます。アメリカにいる人たちは「失敗してもいいんだよ（むしろ当然）、でも次は同じ失敗をしないようにどこを改善しようか」という考えがあるから、失敗を恐れずチャレンジしやすい環境になるのではないでしょうか。

　それから、アメリカの研究所には様々な国籍の人が勤務しています。それぞれの文化や宗教・考えがあり、様々な多様性に触れ理解することができます。これは日本で仕事をしていては経験できなかった貴重な価値観で、自分の視野の広がりを感じます。渡米して、日本や自分自身について改めて考え直す機会ができたことも大きな財産の一つ。研究者として、薬を通し患者さんに関わる仕事をしている責任感を胸に、日米両方の長所を吸収した研究者として、これからも成長していきたいです。

でも、もしかしたらアメリカでも東海岸に限った文化なのかもしれませんが、日本以上にものすごく本音と建前があります（注：ファイザーの研究所があるコネチカット州は東海岸にあるニューヨーク州の北東部に接している）。彼らのポジティブな表現を文字通り受け取って最初の二年を過ごしたのですが、その表現の裏にある本来の意味に気づいたのは、やっと仕事に慣れて言葉も少しわかるようになってからです。

　日本の研究所で働き始めた当初はスノーボード、ウェイクボード、ゴルフをやっていました。アメリカへ来てからはフラメンコや歌を始めました。歌はスタンダードジャズ、ミュージカルソング、カントリーソングなどです。それから友達にサーフィンに連れていってもらったりしていますが、アメリカ東海岸の海は北海道の海のように冷たいんです。あとはマラソンですね。今は地元の十キロレースにも出ています。大会で自分の記録を更新するのがモチベーションになって走っていいます。

　それは「同じく研究を志した大学からの親友（心友）と研究について熱く語り合う時」でしょうか。お互い専門は違うのですが、サイエンスについての考えは一致しているので、話せば話すほど暑苦しいです。寝る間も惜しんで語り合いました。

　このインタビューが文章になったものを読んでいただいた方の中には「この人、アメリカナイズされている！」と反感を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。アメリカと日本の違いなどをたくさん話しましたが、決して私はアメリカ信者なのではありません。四半世紀以上も日本で暮らしてきましたので、私のベースは日本にあり、日本が大好きです。日本のいいところがもっと世界に発信されればと考えて、日々アメリカで働いています。 　皆さんにお伝えしたいメッセージは二つあります。 　一つ目は「日本の研究レベルや内容は非常に高い」ということです。ですので、ぜひとも世界でもっと発表をして、日本ではどれだけ進んだインパクトのある研究をしているかを発信し続け、世界に見せつけてください！ 　二つ目は「夢や目標があるなら、決して諦めないで、チャンスを逃さない」ということです。新たな環境へ一歩踏み出すには勇気がいりますが、チャンスを逃すことほど後悔することはありません。新しい冒険にチャレンジしてみましょう。モチベーションとポジティブシンキングと楽しむ気持ちがあれば、どんな局面でもそれなりに困難を乗り越えて、多くのことを吸収し成長していけると思います。自分の感性を大事にし、自分の選択に自信を持って進んでいます。

　少なくとも医薬品業界における新薬開発のベンチャーは若い人にはできません。大手製薬会社を渡り歩いて経験を積み、治験の実施計画書も自分で書くことができ、各国の規制要件にも通暁した百戦錬磨のプロでないと臨床開発を行うのは無理です。

──なんだか、毎日が緊張の連続で大変のように思えます。余暇はどう過ごされていますか？ 　
ヨガとハイキングですね。今はノースカロライナ州に住んでいるのですが、これまで住んでいたところより自然が豊かでハイキングには絶好のエリアです。ここに住むことになって本当によかったです。生活しやすいし、アメリカのカルチャーが気に入っています。リタイア後もあそこに住み続けたいと思っています。

　英語をしゃべること自体にはあまり不自由は感じません。上手な英語でしゃべろうというこだわりはなくて、ブロークンでもとにかく伝わればいいと思っています。ただ聞き取る方は北米の英語と日本訛こそＯＫなのですが、インドやフランスの人たちの英語はわからなくて苦労しています。 　もちろん言葉だけでなく、文化的な違いも克服する必要があります。国が違えば「常識」も異なりますから、とかく遠慮しがちな日本人のままでいると「あなたはあまりにも人がよすぎる」と言われてしまいますね。私はアメリカとカナダで合計五年間ポスドクをしていたおかげで、遠慮せずノーと言うことができるようになりました。

　僕が中高生の時に愛読したあのブルーバックスのために何か書く……あまりに恐れ多いリクエストに腰を抜かさんばかりに驚いた僕は「そういう内容ならどこかの企業の研究所長クラスの方に書いていただいた方がよくないですか？」とやんわりお断りしてみたのだが、 月さんから「いやいやそれだと若い世代の皆さんが欲している情報と乖離がでてしまうのでダメです」と押し返されてしまい、途方に暮れながらもとりあえず書き始めてみることにした、というわけです。

　そして最後に、僕の学業や仕事の都合で国境越えを含めいろいろな場所への移動についてきてくれた妻の郁子と娘の雛子・麗奈にも感謝し、三人にこの本を捧げたい。

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阪大の化学系の院→アメリカのPhD取得→ファイザーなどで勤務

個人的な経験や主観しか載ってないが、海外の研究員として働くイメージがつくような内容。やはり海外に出たいなと感じた。勉学に勤しまねば、と思わされる。