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著者紹介
西尾 元宏
- 略歴
- 〈西尾元宏〉1936年生まれ。東京大学薬学部薬学科卒業。千葉大学客員教授、理化学研究所客員研究員などを経て、The CHPI Instituteを主宰。著書に「砂糖はなぜ甘い?」ほか。
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紙の本
動的な「分子間に働く弱い相互作用」と静的な「分子の形」から,分子同士はお互いを認識しあう
2000/10/25 18:15
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投稿者:藤井 功 - この投稿者のレビュー一覧を見る
化学結合力には,強い結合力と,弱い結合力がある。強い化学結合力は,イオン結合力と共有結合力,金属結合力である。強い結合力によって,原子同士の距離や角度が決定され,分子の概形が定まる。しかし結合軸回りの自由度から分子はその形をさまざまに変えることができる。分子を取り巻く環境と,環境によってダイナミックに変化する弱い化学結合力から最終的に分子の形は定まる。
一昔前まで弱い結合力には,水素結合力やファン・デル・ワールス力があると考えられてきたが,しかしこれだけでは分子同士が認識する機構を十分に説明できない。メチル基などと不対電子対との弱い相互作用(CH…n)や,同じくπ電子との弱い相互作用(CH…π)が,全体として大きな力を生み出している。結晶中の分子配置やその構造,NMRスペクトルのNOEの観測,分子軌道法の計算結果などが例として挙げられている。今まで偶然と考えられてきた多くの現象が,この弱い相互作用により見事に説明されている。また随所で分子の形の特異性による認識の違いを知ることができる。
構造生物学や,薬理活性の探求が進むにつれて,分子の形だけでなく分子同士の認識の仕方についての研究が進んでいる。また結晶場になぞらえて,意図するように分子を組立てたいという要望も強い。それには,分子同士に働く力について,より詳しく知る必要があったわけである。一方で様々な形の分子を意図的に合成できるようになり,クラウンエーテルに見られるような分子の形の特異性が,分子間の認識に大きく影響していることも分かってきている。
第一人者の著者が述べているように,本書は動的な「弱い相互作用」と静的な「分子の形」から,分子認識の仕方を説明するもので,ほかに類を見ない名著といえる。有機化学に携わる者だけでなく,分子認識を追いかける多くの研究者は,この弱い相互作用を知ることによって,新世界を切り開く強い力を得ることとなった。
(C) ブッククレビュー社 2000