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紙の本
暗殺者の人生を描いた魅力的な作品
2001/05/30 19:23
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投稿者:ぽん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史小説はややこしい。歴史事実と著作の部分の区別がつきにくいからだ。すぐれた歴史作家は皆、ウソを真実と見せかけるすべを心得ているため、素人には境界線が見えにくい。しかしその反面、歴史小説という中途半端な分野でしか描き出せない真実もあるだろう。
十一番目の志士は、暗殺者の内面を描く、著者の試みである。司馬遼太郎氏は、暗殺者を風てん白痴の徒、とたびたび規定してきたが、架空の暗殺者、天堂晋助を通してその心理、歴史的役割などを考えようとしたらしい。主人公自身は架空の創作だが、それを取り巻く歴史背景、人物の多くは事実に則している。高杉晋作、坂本竜馬、西郷隆盛、勝海舟など、魅力的人物が次々と現われ、天堂晋助とかかわってゆく。さらには晋助の犯した暗殺が、歴史を変える代わりに、晋助自身の人生が飲み込まれてゆく過程を描いている。所々に著者の歴史哲学が見え隠れし、非常に刺激的でおもしろい。