ぽんさんのレビュー一覧
投稿者:ぽん
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紙の本皇帝たちの中国
2001/05/30 18:38
読んで損はない
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まえがきにおいて著者の岡田氏は、講演録をもとにこの本を書き起こした、とことわっておられるが、この手の本の典型的な欠点が現れてしまっているようだ。
まず第一に、断片的な文章がかなり多い。魅力的なスピーチでも、文章に直すと味が失われやすい。聴衆の興味をひきつけるためにした脱線話も、本の中で頻発すると、だらだらとした印象を与えてしまう。もう少し余計な贅肉を切り落とせば、しまりのある本になったのではないだろうか。
第二に、不特定多数の聴衆を相手にしているためか、取り上げられた五人の皇帝(漢の武帝、唐の李世民、元のフビライ、明の洪武帝、清の康熙帝)があまりにもあたりまえの人選に思える。皇帝の権力に関して本を書く場合、歴史家でなくても、この五人を選ぶのではないだろうか。せっかくなのだから、できればあっとおどろくような皇帝を選んでほしかった。
しかし、これらのマイナスの要素を差し引いても、この本は面白い。なぜかというと、作者が歴史をみる目を備え持っているからだろう。本は五章から構成され、一つの章で一つのテーマ、一人の皇帝を扱う。第一章では、ローマと中国の皇帝の性質の違いを説き、中国の皇帝を資本家と規定する。第二章では、遊牧侵略民族のうち立てた帝国について述べる。第三章は、領土と中華思想の関係への疑問を投げかけ、第四章は、中国皇帝の正統性について考えさせる。最終章では、現在につながる中国の領土問題、中華思想、そしてわれわれの持つ誤解について述べている。今まで中国史について理解しにくかった点に対して、なるほどと思わせる。論旨がおもしろい。題材がおもしろい。現在の中国を理解するのにも役立つ。読んで損はない本だと思う、岡田氏の他の著作も読む気にさせられた。
ただし、まったく不必要な挿話などが多いため、僕はかなりの部分を飛ばし読みしてしまった。雑学的な中国知識を手に入れるためなら全部読んでもかまわない。しかし、誤解を恐れずに極端な事を言えば、論旨を理解するためだけなら、各章の最初の20-30ページだけでも充分のように思える。構成の点での改善を願いたい。
紙の本十一番目の志士
2001/05/30 19:23
暗殺者の人生を描いた魅力的な作品
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歴史小説はややこしい。歴史事実と著作の部分の区別がつきにくいからだ。すぐれた歴史作家は皆、ウソを真実と見せかけるすべを心得ているため、素人には境界線が見えにくい。しかしその反面、歴史小説という中途半端な分野でしか描き出せない真実もあるだろう。
十一番目の志士は、暗殺者の内面を描く、著者の試みである。司馬遼太郎氏は、暗殺者を風てん白痴の徒、とたびたび規定してきたが、架空の暗殺者、天堂晋助を通してその心理、歴史的役割などを考えようとしたらしい。主人公自身は架空の創作だが、それを取り巻く歴史背景、人物の多くは事実に則している。高杉晋作、坂本竜馬、西郷隆盛、勝海舟など、魅力的人物が次々と現われ、天堂晋助とかかわってゆく。さらには晋助の犯した暗殺が、歴史を変える代わりに、晋助自身の人生が飲み込まれてゆく過程を描いている。所々に著者の歴史哲学が見え隠れし、非常に刺激的でおもしろい。
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